2018年3月31日土曜日

ロンドン ウェストミンスター船着き場(Westminster Stairs)-その1

国会議事堂(House of Parliament)の通称「ビッグベン(Big Ben)」

サー・アーサー・コナン・ドイル作「四つの署名(The Sign of the Four)」(1890年)では、若い女性メアリー・モースタン(Mary Morstan)がベーカーストリート221Bのシャーロック・ホームズの元を訪れて、風変わりな事件の調査依頼をする。

以降、国会議事堂の近くにある船着き場ではなく、
ウォータールー橋(Waterloo Bridge)の近くにある船着き場

元英国陸軍インド派遣軍の大尉だった彼女の父親アーサー・モースタン(Captain Arthur Morstan)は、インドから英国に戻った10年前に、謎の失踪を遂げていた。彼はロンドンのランガムホテル(Langham Hotel→2014年7月6日付ブログで紹介済)に滞在していたが、娘のモースタン嬢が彼を訪ねると、身の回り品や荷物等を残したまま、姿を消しており、その後の消息が判らなかった。そして、6年前から年に1回、「未知の友」を名乗る正体不明の人物から彼女宛に大粒の真珠が送られてくるようになり、今回、その人物から面会を求める手紙が届いたのである。
彼女の依頼に応じて、ホームズとジョン・H・ワトスンの二人は彼女に同行して、待ち合わせ場所のライシアム劇場(Lyceum Theatreー2014年7月12日付ブログで紹介済)へ向かった。そして、ホームズ達一行は、そこで正体不明の人物によって手配された馬車に乗り込むのであった。

ウォータールー橋の近くにある船着き場のアップ写真

ホームズ、ワトスンとモースタン嬢の三人は、ロンドン郊外のある邸宅へと連れて行かれ、そこでサディアス・ショルト(Thaddeus Sholto)という小男に出迎えられる。彼が手紙の差出人で、ホームズ達一行は、彼からモースタン嬢の父親であるアーサー・モースタン大尉と彼の父親であるジョン・ショルト少佐(Major John Sholto)との間に起きたインド駐留時代の因縁話を聞かされるのであった。
サディアス・ショルトによると、父親のジョン・ショルト少佐が亡くなる際、上記の事情を聞いて責任を感じた兄のバーソロミュー・ショルト(Bartholomew Sholto)と彼が、モースタン嬢宛に毎年真珠を送っていたのである。アッパーノーウッド(Upper Norwood)にある屋敷の屋根裏部屋にジョン・ショルト少佐が隠していた財宝を発見した彼ら兄弟は、モースタン嬢に財宝を分配しようと決めた。


しかし、ホームズ一行がサディアス・ショルトに連れられて、バーソロミュー・ショルトの屋敷を訪れると、バーソロミュー・ショルトはインド洋のアンダマン諸島の土着民が使う毒矢によって殺されているのを発見した。そして、問題の財宝は何者かによって奪い去られていたのである。
ホームズの依頼に応じて、ワトスンは、ランベス地区(Lambeth)の水辺近くにあるピンチンレーン3番地(No. 3 Pinchin Lane→2017年10月28日付ブログで紹介済)に住む鳥の剥製屋シャーマン(Sherman)から、犬のトビー(Toby)を借り出す。そして、ホームズとワトスンの二人は、バーソロミュー・ショルトの殺害現場に残っていたクレオソートの臭いを手掛かりにして、トビーと一緒に、現場からロンドン市内を通り、犯人の逃走経路を追跡して行く。


ホームズとワトスンの二人が、犬のトビーと一緒に、ストリーサム地区(Streatham→2017年12月2日付ブログで紹介済)、ブリクストン地区(Brixton→2017年12月3日付ブログで紹介済)、キャンバーウェル地区(Camberwell→2017年12月9日付ブログで紹介済)、オヴァールクリケット場(Oval)を抜けて、ケニントンレーン(Kennington Lane→2017年12月16日付ブログで紹介済)へと達した。そして、彼らは更にボンドストリート(Bond Street→2017年12月23日付ブログで紹介済)、マイルズストリート(Miles Street→2017年12月23日付ブログで紹介済)やナイツプレイス(Knight’s Place→2017年12月23日付ブログで紹介済)を通って、ナインエルムズ地区(Nine Elms→2017年12月30日付ブログと2018年1月6日付ブログで紹介済)までやって来たが、ブロデリック&ネルソンの材木置き場という間違った場所に辿り着いてしまった。どうやら、犬のトビーは、どこかの地点から違うクレオソートの臭いを辿ってしまったようだ。

船着き場の近くには、英国の小説家 / 歴史家であるサー・ウォルター・ベサント
(Sir WalterBesant:1836年ー1901年)の記念レリーフが架けられている

二人はトビーをクレオソートの臭いの跡が二つの方向に分かれていたナイツプレイスへと戻し、犯人達の跡を再度辿らせた。そして、彼らはベルモントプレイス(Belmon Place→2018年1月13日付ブログで紹介済)とプリンスズストリート(Prince’s Street→2018年1月13日付ブログで紹介済)を抜けて、ブロードストリート(Broad Street→2018年1月13日付ブログで紹介済)の終点で、テムズ河岸に出るが、そこは船着き場で、どうやら犯人達はここで船に乗って、警察の追跡をまこうとしたようだ。


ホームズは、ウィギンズ(Wiggins)を初めとするベーカーストリート不正規隊(Baker Street Irregulars)を使って、バーソロミュー・ショルトを殺害した犯人達が乗った船の隠れ場所を捜索させたものの、うまくいかなかった。独自の捜査により、犯人達の居場所を見つけ出したホームズは、ベーカーストリート221Bへスコットランドヤードのアセルニー・ジョーンズ警部(Inspector Athelney Jones)を呼び出すのであった。


「よし、それじゃ、まず最初に、巡視艇を一隻、(午後)7時にウェストミンスター船着き場まで手配してほしい。蒸気船が必要だ。」
「それなら、お安い御用ですよ。あの辺りには、いつも一隻ある筈ですが、この通り(ベーカーストリート)の向こうへ行って、電話で手配しておきますよ。」
「それから、犯人達に抵抗された場合に備えて、屈強な男が二人必要だ。」
「巡視艇に、二、三人乗せておくようにしますよ。他には?」
「犯人達を逮捕した際、財宝も一緒の筈だ。財宝が入った箱を、その財宝の半分を手にする権利がある若い女性のところへ持って行ければ、ここに居る友人がとても喜ぶと思う。彼女に最初にその箱の蓋を開けさせるのさ。ワトスン、どうだい?」
「それは。この上もなく喜ばしい話だ。」
「かなり変則的な手続になりますね。」と、アセルニー・ジョーンズ警部は、首を振りながら、言った。「しかしながら、全てが変則的ですから、この際、それには目を瞑りましょう。彼女に財宝を見せた後、公式な捜査が終わるまで、こちらの手に引き渡してもらいますよ。」
「勿論だ。それは大丈夫だ。」


‘Well, then, in the first place I shall want a fast police boat - a steam launch - to be at the Westminster Stairs at seven o’clock.’
‘That us easily managed. There is always one about there; but I can step across the road and telephone to make sure.’
‘Then I shall want two staunch men, in case of resistance.’
‘There will be two or three in the boat. What else?’
‘When we secure the men we shall get the treasure. I think that it would be a pleasure to my friend here to take the box round to the young lady to whom half of it rightfully belongs. Let her be the first to open it. Eh, Watson?’
‘It would be a great pleasure to me.’
‘Rather an irregular proceeding.’ said Jones, shaking his head. ‘However, the whole thing is irregular, and I suppose we must wink at it. The treasure must afterwards be handed over to the authorities until after the official investigation.’
‘Certainly. That is easily managed …’


ホームズがスコットランドヤードのアセルニー・ジョーンズ警部に巡視艇の手配を頼んだ先は、英語で「Westminster Stairs」、あるいは、原作の後の方で「Westminster Wharf」と表記されているが、これは、現在の住所表記上、ロンドンの中心部シティー・オブ・ウェストミンスター区(City of Westminster)のウェストミンスター地区(Westminster)内に所在し、テムズ河(River Thames)の北岸にあった船着き場のことを指していると考えられる。

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