2018年3月11日日曜日

ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ(Dante Gabriel Rossetti)-その2

ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティが亡き妻エリザベスの死を悼んで描いた
「ベアタ・ベアトリクス」(1863年)

1848年にロイヤルアカデミー(Royal Academy)付属の美術学校(Antique School)を出ると、ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ(Dante Gabriel Rossetti:1828年ー1882年)は、同校の学生だったウィリアム・ホルマン・ハント(William Holman Hunt:1827年ー1910年)とジョン・エヴァレット・ミレー(John Everett Millais:1829年ー1896年)の二人と一緒に、「ラファエル前派(Pre-Raphaelite Brotherhood)」(正確には、「ラファエロ以前兄弟団」)を結成した。
「ラファエル」とは、ルネサンス最盛期(High Renaissance:1450年ー1527年)を代表するイタリアの画家 / 建築家であるラファエロ・サンティ(Raffaello Santi:1483年ー1520年)のことである。「ラファエル前派」とは、19世紀のアカデミーにおける古典偏重の美術教育に異を唱えるもので、ラファエロ以前の美術、つまり、中世や初期ルネサンスの美術を範とし、聖書、伝説や文学等に題材を求めた作品が多く描かれた。
ラファエル前派の他の画家達が徹底した細密描写をする一方、ロセッティの場合、全体として装飾的で耽美的な画面構成の作品が多いのが特徴である。

1848年にジョン・エヴァレット・ミレー達と一緒にラファエル前派を立ち上げたロセッティの前に、運命の女性が二人登場する。
一人は、エリザベス・シダル(Elizabeth Siddal:1829年ー1862年)で、1850年に美術モデルをしていた彼女とロセッティは知り合う。そして、彼らは婚約するものの、長い婚約期間が続く。その間、エリザベス・シダルは、ジョン・エヴァレット・ミレーの代表作となる「オフィーリア(Ophelia)」(1852年)のモデル等を務めている。
もう一人は、同じく、絵画モデルをしていたジェーン・バーデン(Jane Burden:1834年ー1896年)で、1857年にロセッティが弟子のウィリアム・モリス(William Morris:1834年ー1896年)と一緒に観劇に訪れた際に、同じく観劇に来ていた彼女と知り合いになる。その当時、ロセッティはエリザベス・シダルと既に婚約していたが、ロセッティとジェーン・バーデンはお互いに惹かれあったようで、ロセッティの先品にジェーン・バーデンがモデルとして登場するようになった。
ただし、最終的には、1859年にジェーン・バーデンはウィリアム・モリスと結婚し、1860年にロセッティはエリザベス・シダルと結婚した。にもかかわらず、ロセッティのジェーンに対する気持ちは強かったと言われており、二組の結婚生活は幸福ではなかったようである。冷え切った夫婦関係や女児の死産に心痛を強くしたエリザベスは、鎮痛剤に次第に溺れるようになり、結婚2年目に該る1862年、大量の阿片チンキの服用が原因で、自殺同然の死を遂げるのであった。

ウィリアム・モリスと結婚したジェーンへの思慕が募る
ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティが描いた「プロセルピナ」(1873年ー1877年)

エリザベスの死を悼んだロセッティが亡き妻をモデルにして描いたのが、「ベアタ・ベアトリクス(Beata Beatrix)」(1863年)で、イタリアの詩人、哲学者で、政治家でもあったダンテ・アリギエーリ(Dante Alighieri:1265年ー1321年)作の叙事詩「神曲(La Divina Commedia)」に登場するベアトリーチェ(Beatrice)がテーマとなっている。ベアタ・ベアトリクス」は、現在、テイト・ブリテン美術館(Tate Britain)内に展示されている。
ロセッティは亡き妻への罪悪感に次第に苛まれるようになり、心身を病んで、1872年には自殺を図っている。
その後、ジェーンへの思慕が募るロセッティは、彼女をモデルにして、冥府を司る神プルートー(Pluto)に誘拐され、無理矢理に結婚させられた女性をテーマにした「プロセルピナ(Proserpina)」(1873年ー1877年)を描いており、これも、現在、テイト・ブリテン美術館内に展示されている。

ロセッティは、晩年、酒と薬に溺れる生活を続け、1882年のイースター休暇をケント州(Kent)のバーチントン・オン・シー(Birchington-on-Sea)にある友人宅で過ごしていた際、肝臓病が原因で、失意のうちに54歳の生涯を終えたのである。彼の遺体は、同地に埋葬されている。

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