2024年4月8日月曜日

ロジャー・スカーレット作「エンジェル家の殺人」(Murder Among the Angells by Roger Scarlett)- その3

東京創元社から創元推理文庫の1冊として
1987年に初版が出版された
ロジャー・スカーレット作「エンジェル家の殺人」内に付されている
「キャロラス家の客間図」


亡き父の遺言により、相手よりも1秒でも長生きした方が、亡き父が残した全財産を相続できることに定められていた双子の兄弟であるダライアス・エンジェル(Darius Angell)とキャロラス・エンジェル(Carolus Angell)の2人は、チャールズ川(River Charles)沿いに建つビーコンストリート236番地(236 Beacon Street)の邸宅の内部で対角線を引いたように二分して、相手よりも長生きすることに躍起となっていた。

双子の弟であるキャロラス・エンジェルは、長生きするために、若い頃から、健康に非常に気を付けていたが、双子の兄であるダライアス・エンジェルは、そんな弟の生き方を歯牙にも掛けなかった。

ところが、自分の死期が近いことを悟った今、ダライアス・エンジェルは、一文無しで残される可能性が高い長男のピーター・エンジェル(Peter Angell)と次男のディヴィッド・エンジェル(David Angell)のことを心配し、亡き父の遺言の内容を変更して、どちらが先に亡くなったとしても、亡き父が残した全財産を等分に分けることにしようと、キャロラス・エンジェルに対して、交渉しようと考えていた。


3月初旬の火曜日の朝、第一線から既に退いている弁護士のアンダーウッド(Mr. Underwood)に同席してもらった上で、兄のダライアス・エンジェルは、弟のキャロラス・エンジェルをダライアス家の区画へと呼んで交渉を行ったが、兄の体調があまり思わしくないことを鋭く感じ取ったキャロラス・エンジェルは、兄の交渉には全く乗ってこず、ダライアス・エンジェルの思いとは裏腹に、残念ながら、交渉は決裂してしまった。交渉が決裂した結果、更に体が衰弱するダライアス・エンジェルであった。


東京創元社から創元推理文庫の1冊として
1987年に初版が出版された
ロジャー・スカーレット作「エンジェル家の殺人」内に付されている
「キャロラス家の食堂図」


その日の夜、夕食が終わった後、キャロラス・エンジェルは、彼の養子であるカール・エンジェル(Carl Angell)とカレン・アダムズ(Karen Adams)の2人を人払いして、カレンの夫ホイットニー・アダムズ(Whitney Adams)を残らせると、今日の午前中の話を始めた。

その話に加えて、キャロラス・エンジェルは、ホイットニー・アダムズに対して、金庫の中から現金がなくなっていることにつき、助言を求める。しかし、ホイットニー・アダムズは、キャロラス・エンジェルの話にやや上の空だった。何故ならば、彼は、夕食の際、妻のカレンの元へとやって来たダライアス家のディヴィッド・エンジェルと妻の関係が非常に気になるようだった。

なんとか気を取り直したホイットニー・アダムズは、キャロラス・エンジェルの依頼に基づいて、キャロラス・エンジェルの寝室のタンスの引き出しに中から、金庫を持って来た。そこに、キャロラス家の執事であるブラードが、ホイットニー・アダムズに対して、来客を告げる。

来客が通された客間へと、ホイットニー・アダムズは向かうが、「誰も居ない。」と言って、戻って来た。続きの話を始めるキャロラス・エンジェルとホイットニー・アダムズの2人。


暫くして、キャロラス家内に激しい爆発音がしたため、カール・エンジェルが食堂へと向かうと、養父のキャロラス・エンジェルが、テーブルの上に両腕を前に伸ばして、上体を伏せていた。カール・エンジェルがキャロラス・エンジェルに触れると、養父は既に亡くなっていた。銃で撃たれていたのである。

キャロラス・エンジェルの側に呆然と立っていたホイットニー・アダムズは、カール・エンジェルの問いに対して、「キャロラス家に侵入して来た何者かが、キャロラス・エンジェルを銃で売ったんだ。」と告げた。

犯行現場に、犯罪捜査部のノートン・ケイン警部(Inspector Norton Kane)が派遣される。


奇しくも、長生き競争に勝つことになったダライアス・エンジェル。

それを受けて、彼の次男ディヴィッド・エンジェルのカレン・アダムズへの態度が、非常によそよそしくなった。やはり、お金目当てだったのだ。

ダライアス・エンジェルは、逆に、無一文となって、邸から放り出される羽目に陥ったカール・エンジェルとカレン・アダムズの2人を救うべく、弁護士のアンダーウッドに依頼して、なき父が残した遺言を変更することに決めた。


東京創元社から創元推理文庫の1冊として
1987年に初版が出版された
ロジャー・スカーレット作「エンジェル家の殺人」内に付されている
「ダライアス・エンジェルが殺害された時に、
関係者が居た場所を示す図」

ダライアス家の客間において、ダライアス・エンジェルを待つ弁護士のアンダーウッド、犯罪捜査部のノートン・ケイン警部、そして、ホイットニー・アダムズの3人。他の人達は、邸内の思い思いの場所に居た。

車椅子のダライアス・エンジェルは、エレベーターに乗り、3階から1階へと向かう。スペース的には、ダライアス・エンジェルが使う車椅子が入ると、エレベーター内は一杯で、他に人が入る余地がなかった。

1階に到着したエレベーターを下で待っていた人達が鉄の格子ドアを開けると、驚くことに、車椅子に座ったダライアス・エンジェルは、首筋に柄が抜き取られた短剣を突き立てられて、殺害されていたのである。

エレベーター内には、殺されたダライアス・エンジェル以外には、誰も居なかった。エレベーターが3階から1階から降りるまでの間、一度も停まらなかった。


所謂、「密室殺人」である。一体、誰が、どのような手段で、ダライアス・エンジェルを殺害したのか?そして、犯人の動機は、何なのか? 

0 件のコメント:

コメントを投稿