2024年4月13日土曜日

江戸川乱歩作「三角館の恐怖」- その1

講談社から江戸川乱歩推理文庫の1冊(第25巻)として
1989年に第1刷が発行された
江戸川乱歩作「三角館の恐怖」の表紙
<装画:天野 喜孝
  装幀:安彦 勝博>

イヴリン・ペイジ(Evelyn Page:1902年ー1977年)とドロシー・ブレア(Drothy Blair:1903年ー1976年)と言う女性2人のペンネームである米国の推理作家ロジャー・スカーレット(Roger Scarlett)による第4作目の長編推理小説「エンジェル家の殺人(Murder Among the Angells → 2024年4月2日 / 4月5日 / 4月8日付ブログで紹介済)」(1932年)について、明智小五郎シリーズ等で有名な日本の推理作家である江戸川乱歩(Rampo Edogawa:1894年ー1965年)が、同作品を「三角館の恐怖」(1951年)として翻案している。


「エンジェル家の殺人」を読んだ江戸川乱歩は、翻訳家で研究家の井上良夫に宛てた第二次世界大戦(1939年ー1945年)/ 太平洋戦争(1941年-1945年)中の昭和18年(1943年)2月10日付の手紙の中で、同作品に「感歎したる次第」を、原稿用紙14枚程の長さで述べている。


「一月以来の初読をひっくるめて、巻をおく能わざる興味と興奮を覚えたのは、『僧正(僧正殺人事件(The Bishop Murder Case → 2024年2月7日 / 2月11日 / 2月15日 / 2月19日付ブログで紹介済))』『赤毛(赤毛のレドメイン家(The Red Redmaynes)』『黄色(黄色い部屋の謎(Le Mystere de la chambre jaune))』『Y(Y の悲劇(The Tragedy of Y))』の四作でしたが、『エンジェル』にやはり同じ興奮を感じたのです。この点だけでもベストに入れないわけにはいきません。この作は小生のいわゆる不可能興味が偉大なわけでもなく、他人の悪念が深刻なわけでもなく、『僧正』『Y』『赤毛』などの病的異常性があるわけでもなく、そういう点では感歎するほどではありませんが、筋の運び方、謎の解いて行き方、サスペンスの強度、などに他の作にないような妙味があり、書き方そのものが小生の嗜好にピッタリ一致するのです。(中略)アアなるほどその通りその通り、それこそ私の一番好きな書き方だと、一行ごとにそう感じてよむというわけです。

もっとも初め百七八十頁まではそうはいきません。あとにどんなにいいものが隠れているか全く分らないのですから、その辺までは半信半疑でよみます。靴の包みが川に投込まれる出発点などは、余り好きではなく、ひょっとしたらこれはフレッチャー流じゃないかという疑が去りません。(中略)

第二のエレベーターの殺人から、俄然不可能興味が濃厚になります。サスペンスの出し方の巧みさには感歎し、この辺から巻をおく能わざる興味を生じて来ます。丁度そこまで読んだ頃はもう夜更けすぎだったので、明日にして寝るつもりだったところ、もうとても中途でよせなくなり、夜明けまでかかって全部読み終り、しばらくは感歎の反芻のために眠ることが出来なかったという次第です。(後略)」


講談社から江戸川乱歩推理文庫の1冊(第25巻)として
1989年に第1刷が発行された
江戸川乱歩作「三角館の恐怖」の裏表紙
<装幀:安彦 勝博>

江戸川乱歩は、昭和21年(1946年)に「エンジェル家の殺人」を再読して、本作が大きな独創性に欠けていること、また、作者の文章が良くないことを理由に、ベストテンに準ずると、当初の評価を改めている。


それでも、昭和18年(1943年)の初読時の印象が非常に深かったためか、江戸川乱歩は、「エンジェル家の殺人」のプロットとトリックを借りて、自分の文章による翻案を試みた。

そして、「エンジェル家の殺人」を翻案した「三角館の恐怖」は、昭和26年(1951年)1月から同年12月にかけて、「面白俱楽部」(第4巻第1号ー第12号)に連載された。その後、昭和27年(1952年)9月に、文芸図書出版社から単行本として刊行された。その際、扉裏に、「ロジャー・スカーレット『エンジェル家の殺人事件』に拠る」と記されたのである。 

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