2018年12月23日日曜日

ジョン・ディクスン・カー作「皇帝のかぎ煙草入れ」(The Emperor’s Snuff-Box by John Dickson Carr)–その2

サー・モーリス・ローズが美術商のヴェイユ氏から買い取った
ナポレオン皇帝の愛用品だった懐中時計の形をした「かぎ煙草入れ」–
東京創元社が発行する創元推理文庫「皇帝のかぎ煙草入れ」の表紙で、
 カバーデザイン:本山 木犀氏
カバーイラスト:磯 良一氏

ある日の午後8時、サー・モーリスを除くローズ家の全員(妻ヘレナ、長男トビイ、長女ジャニス、そして、トビイとジャニスの伯父ベンジャミン・フィリップス)は、イヴ・ニールと一緒に、観劇に出かけた。それは、イギリス劇団によるバーナード・ショーの「ウォレン夫人の職業」だった。
サー・モーリス・ローズは、日課にしている午後の散歩から戻って来た後、何故かずっと仏頂面のままで、彼らと観劇には出かけなかった。ただし、午後8時半に、アルプ街で美術商を営むヴェイユ氏からサー・モーリス・ローズ宛に「コレクションにふさわしい貴重なお宝が手に入ったので、直ぐに御宅へお持ちします。」という電話連絡が入り、サー・モーリス・ローズの機嫌は、やっと直ったようだった。
美術商ヴェイユ氏がサー・モーリス・ローズが住むボヌール荘に持参したのは、ナポレオン皇帝の愛用品だった「かぎ煙草入れ」で、透明な薔薇色の瑪瑙で出来ていて、縁取りは純金、それに小粒のダイヤモンドも散りばめられていた。そのかぎ煙草入れは、ちょっと珍しい形、つまり、懐中時計の形としていた。ヴェイユ氏が持参したかぎ煙草入れを見たサー・モーリス・ローズは、大喜びだった。

観劇に出かけていた一行がアンジュ街に戻って来たのは、午後11時で、トビイ・ローズがイヴ・ニールを向かいのミラマール荘の玄関まで送って行ったが、ローズ家の他の3人は、直ぐにボヌール荘に入った。
ローズ家の一行が全員帰宅すると、ヴェイユ氏から買い取ったかぎ煙草入れを手にして、サー・モーリスが2階から下りて来て、皆にお披露目をしたが、サー・モーリスの骨董品収集癖はいつものことだったので、娘のジャニスが「綺麗ね。」と言った以外は、他の者はろくに見もしなかった。妻のヘレナに至っては、夫から値段を聞くと、「とんでもない無駄遣いだ!」と言って、呆れ果てるのであった。皆の反応を聞いたサー・モーリスは、機嫌を損ねて、「暫くの間、書斎にこもる。」と言って、2階へ戻って行ってしまった。

2階の書斎に戻ったサー・モーリス・ローズは、壁際の机に座って、かぎ煙草入れの詳細を書き留め始めた。その時、彼の背後から忍び寄った何者かによって、部屋の反対側の暖炉用鉄具台に置いてあった火搔き棒で、後頭部をめった打ちにされ、殺害されたのである。その際、故意なのか、それとも、偶然なのか、かぎ煙草入れも、犯人が振るった火搔き棒の一撃によって、粉々に砕けてしまった。

サー・モーリス・ローズが、何者が振るった火搔き棒により、後頭部をめった打ちにされて殺害された
ボヌール荘2階の書斎で、イヴ・ニールは、真向かいにあるミラマール荘の寝室から、
殺害直後の現場を目撃する。

狭い通りを挟んで、サー・モーリス・ローズの書斎に面した自宅の寝室の窓から、イヴ・ニールは、殺害された彼の死体と茶色の手袋をはめた犯人と思しき人物が書斎から出て行くところを、偶然目撃してしまう。ところが、運が悪いことに、その時、前夫のネッド・アトウッドが、離婚した際に返さなかった合鍵を使い、イヴ・ニールの寝室に忍び込んで、彼女に復縁を迫っていたところで、彼女はネッド・アトウッドに対して、家から即刻出ていくように訴えていた最中だったのである。

0 件のコメント:

コメントを投稿