2018年7月29日日曜日

カーター・ディクスン作「ユダの窓」(The Judas Window by Carter Dickson)–その2

中央刑事裁判所の建物上部全景

エイヴォリー・ヒューム(Avory Hume)の死体を見て、名状しがたい恐怖に狼狽えたジェイムズ・キャプロン・アンズウェル(James Caplon Answell)が部屋を見回したところ、彼が通って来たオーク材の重いドアには、内側から差し錠が掛かっている上に、二つ並んだ窓には、スティール製のシャッターが頑丈に閉まっていて、誰も出入りできな状況だった。また、部屋の中には、誰か他の第三者が身を潜めるような場所は、どこにもなかった。

中央刑事裁判所の入口が
「Old Bailey(オールドベイリー通り)」に面しているため、
中央刑事裁判所自体が「オールドベイリー」という通称で呼ばれている

ドアを叩く音を聞いて、やむなく彼がドアを開けると、エイヴォリー・ヒュームの執事のダイアー、秘書のアメリア・ジョーダン、そして、ヒューム家の隣人であるランドルフ・フレミングの3人が部屋の中へと入って来て、事件が発覚したのであった。

中央刑事裁判所の入口(オリジナル)

ジェイムズ・キャプロン・アンズウェルは、「エイヴォリー・ヒュームから手渡されたウィスキーソーダの中に、何かが入っていて、意識を失ってしまったので、何が起きたのか、全く判らない。」と主張するが、サイドボードの上に置かれたウィスキーのデカンター、ソーダ水のサイフォンおよび4つのタンブラーグラスには、薬物が入れられた形跡はなく、また、彼の身体からも薬物の兆候は見つからなかった。

中央刑事裁判所の入口(オリジナル)に横に架けられている
「中央刑事裁判所」の表示

ジェイムズ・キャプロン・アンズウェルが驚いたことに、彼が着ていたコートのポケットから、彼の従兄弟であるレジナルド・アンズウェル大尉(Captain Reginald Answell)のピストルが出てきたが、彼はそんな物をここに持参し来た覚えがなかった。更に、運が悪いことに、エイヴォリー・ヒュームの胸に深く突き刺さったアーチェリーの矢からは、ジェイムズ・キャプロン・アンズウェルの指紋だけが検出されたのであった。

建物の上部に設置された「正義の女神」像

ジェイムズ・キャプロン・アンズウェルは、エイヴォリー・ヒューム謀殺の罪名で逮捕された上、被告として起訴され、3月4日に中央刑事裁判所(Central Criminal Court→2016年1月17日付ブログで紹介済)において裁判が行われることとなった。
裁判の過程で、ジェイムズ・キャプロン・アンズウェルに不利な証言が相次ぐ中、彼の弁護人に就いた法廷弁護士の資格を有するヘンリー・メリヴェール卿(Sir Henry Merrivale)が、「犯人は、どの部屋にも存在する「ユダの窓」(Judas Window)から、エイヴォリー・ヒュームに対して、クロスボウでアーチェリーの矢を射たのだ。」と論述するのである。

中央刑事裁判所のサウスブロック–
現在、建物への出入りには、
こちらが使用されている

江戸川乱歩が「カー問答」(1950年)の中で、ジョン・ディクスン・カー / カーター・ディクスンの作品を最も面白い第1位のグループから最もつまらない第4位のグループまで評価分けをしているが、本作品「ユダの窓」は、第1位のグループに入った6作品の中で、5番目に挙げられている。
また、海外においても、「Locked Room Murders」(1979年、1991年)の著者であるロバート・エイデイが「密室ミステリーの最高峰」と絶賛している。

ニューゲートストリート(Newgate Street)から見た
中央刑事裁判所の建物全景

「ユダの窓」は、1964年にペーパーバックで上梓された際、「The Crossbow Murder」と改題されている。

0 件のコメント:

コメントを投稿