2022年7月29日金曜日

コナン・ドイル作「空き家の冒険」<小説版>(The Empty House by Conan Doyle ) - その6

Penguin Books 社から2011年に
The Penguin Sherlock Holmes Collection として出版された
サー・アーサー・コナン・ドイル作
「バスカヴィル家の犬」の裏表紙


アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年-1930年)は、第二次ボーア戦争(Second Anglo-Boer War)が発生した南アフリカから、1900年8月に本国に帰国した後、「大ボーア戦争(The Great Boer War)」を執筆して、1901年に発表した。そして、彼は、いろいろな作品を執筆するとともに、政治、社会や軍事の分野に積極的に関与していく。


1900年10月の解散総選挙を控えて、著名な作家であるコナン・ドイルは、与党である保守党 / 自由統一党からも、野党である自由党からも、擁立候補としての誘いを受けていた。思案した結果、彼は、(第2次)ボーア戦争の支持を表明していた自由統一党からの出馬を決めた。

自由統一党執行部は、コナン・ドイルに対して、与党候補の当選が確実な選挙区を用意すると言ったが、彼は、それを断って、彼の地元であるものの、与党候補者の当選が非常に困難と考えられていたエディンバラのセントラル選挙区から出馬した。同選挙区では、出版業者が自由党候補として出馬。

コナン・ドイルは、選挙活動期間中、自由党候補との争点について、(1)ボーア戦争における大英帝国の大義名分と(2)国内外から批判されていた現地での英国軍による非人道的 / 非道徳的行為(焦土作戦、強制収容所戦略やボーア人婦女子への乱暴等)の擁護だけにしぼって、与党支持、より正確に言えば、ボーア戦争支持を訴えたが、落選の憂き目に遭った。

ただし、前回の選挙と比べると、今回、コナン・ドイルは、自由党候補への票をかなり減じたこともあって、自由統一党としては、それなりの成果があったと評価したようである。なお、解散総選挙全体の結果は、与党である保守党 / 自由統一党による圧勝であった。


第二次ボーア戦争による医療奉仕団活動(1900年3月 - 同年7月)、そして、解散総選挙のための出馬および選挙活動(1900年10月)と、非常に多忙な時期を過ごした結果、体調を崩していたコナン・ドイルは、静養のため、1901年3月にイングランド東部のノーフォーク州(Norfolk)内に所在するクローマー(Cromar)という保養地へと出かけた。

そこで、彼は、イングランド南西部のダートムーア(Dartmoor)出身のジャーナリストであるバートラム・フレッチャー・ロビンソン(Bertram Fletcher Robinson:1870年-1907年)に出会い、ダートムーアに言い伝えられている魔犬伝説を聞かされたのである。


荒涼としたダートムーアに出現する巨大な黒い魔犬。

ロビンソンから魔犬伝説を聞いたコナン・ドイルは、早速、ダートムーアへと向かった。そして、ロビンソンは、現地において、彼の案内役を務めたのである。

当初、コナン・ドイルは、当初、ロビンソンとの共同作品、つまり、シャーロック・ホームズ作品とは全く異なる作品を考えていたが、ロビンソンがこれを固辞したため、コナン・ドイルは単独で執筆を進めることにした。

そこで、コナン・ドイルが非常に困ったのは、ダートムーアの魔犬伝説に対抗できるだけの強力な主役を据えることだったが、残念ながら一筋縄にはいかなかった。


熟慮した結果、コナン・ドイルは、あれだけ嫌っていたホームズを主役に据えたものの、長らく生死不明だったホームズを生還させるのではなく、逆に、本作品の事件発生年月を「最後の事件(The Final Problem → 2022年5月1日 / 5月8日 / 5月11日付ブログで紹介済)」以前に設定するという手法を採ったのである。実際、本作品の事件の発生年月について、「最後の事件」の発生年月である「1891年4月 - 5月」よりも前の「1888年9月」に設定して、「ジョン・H・ワトスンが記録はしたものの、未発表だった事件を今回発表する」ということにしたのだ。

この時点で、ホームズは完全復活を果たした訳ではなかったが、長らくホームズ作品に飢えていた読者は、それでも驚喜し、「ストランドマガジン(The Strand Magazine)」誌上でホームズは一時的に復活して、同誌の1901年8月号から1902年4月号にかけて、「バスカヴィル家の犬(The Hound of the Baskervilles)」の連載が続けられたのである。ホームズが完全復活するには「バスカヴィル家の犬」の連載終了月である1902年4月から約1年半後の「空き家の冒険(The Empty House)」(1903年9月発表)まで、読者はもう暫く待つ必要があった。 

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