2022年7月9日土曜日

シャーロック・ホームズ が1890年に手掛けた3つの事件について

2010年6月に株式会社原書房から出版された
「ミステリ・ハンドブック シャーロック・ホームズ〔新装版〕」 -
各事件の発生年月は、有名なシャーロキアンである
ウィリアム・ステュアート・ベアリング=グールドの説に基づいている。


英国イーストサセックス州(East Sussex)ルイス(Lewes)出身の作家であるジェイムズ・マシュー・ヘンリー・ラブグローヴ(James Matthew Henry Lovegrove:1965年ー)が2013年に発表した「悪夢の塊(The Stuff of Nightmares → 2022年6月11日 / 6月18日 / 6月24日付ブログで紹介済)」において、ジョン・H・ワトスンは、序文で以下のように述べている。


「As I wrote in the story entitled “The Final Problem”, there were only three cases of which I retain any record for the year 1890, and two of those I published as “The Red-Headed League” and “The Copper Beeches”. This is the third, and it has remained solely in note form until now.」


つまり、著者のジェイムズ・ラヴグローヴは、ジョン・ワトスンの口を借りて、彼(ジョン・ワトスン)が知る限り、シャーロック・ホームズが1890年に手掛けた事件は3件しかなく、それらは、

(1)「赤毛組合」

(2)「ぶな屋敷」

(3)「悪夢の塊」(←これは、ジェイムズ・ラヴグローヴによる創作である。)

の3件だと言わせているのである。



ところが、「最後の事件(The Final Problem → 2022年5月1日 / 5月8日 / 5月11日付ブログで紹介済)」において、原作者のサー・アーサー・イグナティス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Diyle:1859年ー1930年)自身は、ジョン・ワトスンに、


「in the year 1890 there were only three cases of which I retain any record.」


と言わせているが、それらの中に、「赤毛組合」と「ぶな屋敷」が含まれるとまでは言っていない。



それでは、具体的に、ホームズが1890年に手掛けた3つの事件に、どの事件が含まれるのかについて、検証してみたい。



イングランド国教会の牧師、考古学者、民俗学者で、聖書学者でもあるセイバイン・ベアリング=グールド(sabine Baring-Gould:1834年ー1924年)の孫で、有名なシャーロキアンであるウィリアム・ステュアート・ベアリング=グールド(William Stuart Baring-Gould)は、ホームズが1890年に手掛けた3つの事件として、以下の3件を挙げている。


(1)「ウィステリア荘(Wisteria Lodge)」:1890年3月

(2)「名馬シルヴァーブレイズ(Silver Blaze)」:1890年9月

(3)「緑柱石の宝冠(The Beryl Coronet)」:1890年12月


コナン・ドイルの原作によると、「ウィステリア荘」の場合、事件発生年月について、「1892年3月」と明記している一方、「名馬シルヴァーブレイズ」 / 「緑柱石の宝冠」の場合、事件発生年月に関して、全く言及されていない。

今回の内容について、
分かり易いように、一覧表に纏めたもの


それでは、「赤毛組合」については、どうだろうか?


コナン・ドイルの原作によると、日付の整合性が合わないところがあるものの、事件発生年月は「1890年10月」ということでよいのではないかと思われる。なお、詳細については、2014年4月26日付ブログを御参照願いたい。


「ぶな屋敷」に関しては、どうだろうか?


コナン・ドイルの原作によると、具体的な事件発生年月の言及はないものの、「ボヘミアの醜聞(A Scandal in Bohemia)」、「花婿失踪事件(A Case of Identity)」、「唇のねじれた男(The Man with the Twisted Lips)」と「独身の貴族(The Noble Bachelor)」の4件の内容が言及されている。


*「ボヘミアの醜聞」:事件発生年月 - 1888年3月

*「花婿失踪事件」:具体的な事件発生年月の言及はないものの、「ボヘミアの醜聞」と「四つの署名(The Sign of the Four)」の内容が言及されている。上記の通り、ボヘミアの醜聞」の事件発生年月 は「1888年3月」で、「四つの署名」の事件発生年月 は「1888年7月」なので、「花婿失踪事件」の事件発生年月は、それ以降ということになる。

*「唇のねじれた男」:事件発生年月 - 1889月6月

*「独身の貴族」:具体的な事件発生年月の言及はないものの、事件の依頼者であるロバート・ウォルシンガム・ド・ヴェア・セント・サイモン卿(Lord Robert de Vere St Simon)に関して、ホームズが「1846年生まれで、現在、41歳」が言っていることから、事件発生年月は1887年だと言える。


上記を総合的に考慮すると、「ぶな屋敷」の事件発生年月は、上記の4件のうち、事件発生年月が一番新しい「唇のねじれた男」の事件発生年月 である「1889月6月」以降ということになる。



そうすると、「悪夢の塊」の著者であるジェイムズ・ラヴグローヴの説の通り、「赤毛組合」は、ホームズが1890年に手掛けた事件と言えるが、「ぶな屋敷」の場合、事件発生年月 が「1889月6月」以降である関係上、ホームズが1890年に手掛けた可能性はあるものの、確定的ではないと言える。


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