2021年3月24日水曜日

メアリー・シェリー作「フランケンシュタイン、或いは、現代のプロメテウス」<小説版>(Frankenstein; or, the Modern Prometheus. by Mary Shelley

東京創元社から刊行されている
メアリー・シェリー作「フランケンシュタイン」(創元推理文庫)の表紙 -
表紙のデザインは、松野光洋氏が担当 -
レオナルド・ダ・ヴィンチ(Leonardo da Vinci:1452年 - 1519年)が
1485年 - 1490年頃に描いた「ウィトルウィウス的人体図(Uomo vitruviano)」が、
デザインのベースになっていると思われる。


フランケンシュタインの怪物を創造したのは、英国の小説家メアリー・ウルストンクラフト・ゴドウィン・シェリー(Mary Wollstonecraft Godwin Shelley:1797年ー1851年)である。

彼女(当時の名前は、まだメアリー・ウルストンクラフト・ゴドウィン)は、1813年頃、英国のロマン派詩人であるパーシー・ビッシュ・シェリー(Percy Bysshe Shelley:1792年ー1822年)と出会い、付き合うようになる。ただ、当時、パーシー・シェリーは妻帯者だったため、彼との恋愛について、彼女の父親であるウィリアム・ゴドウィンは大反対をし、その結果、彼女は、パーシー・シェリーと一緒に、欧州大陸へ駆け落ちをすることになる。

彼ら二人は、一旦、欧州大陸から英国に帰国するものの、パーシー・シェリーの友人で、英国のロマン派詩人である第6代バイロン男爵ジョージ・ゴードン・バイロン(George Gordon Byron, 6th Baron Byron:1788年ー1824年)に誘われて、1816年5月、バイロン卿、彼の愛人であるクレア・クレモント(Claire Clairmont:1798年ー1879年 / メアリー・シェリーの義姉妹)、パーシー・シェリーと彼女の4人は、スイス / ジュネーヴ近郊のレマン湖畔にあるディオダディ荘(Villa Diodati)に滞在した。

ナショナルポートレートギャラリー
(National Portrait Gallery)で販売されている
第6代バイロン男爵ジョージ・ゴードン・バイロンの肖像画の葉書
(Richard Westall
 / 1813年 / Oil on panel
914 mm x 711 mm) 


同年7月、長く降り続く雨のため、屋内に閉じ込められていた折、バイロン卿は、「皆で一つずつ怪奇譚を書こう。(We will write a ghost story.)」と、他の3人に提案した。このディオダディ荘での怪奇談議を切っ掛けに、彼女は、フランケンシュタインの怪物の着想を得て、小説の執筆に取りかかった。


メアリー・シェリーは、ディオダディ荘での怪奇談議を切っ掛けに着想を得たフランケンシュタインの怪物の話を1817年5月に脱稿し、翌年の1818年1月に匿名で出版した。このゴシック小説の正式なタイトルが、「フランケンシュタイン、或いは、現代のプロメテウス(Frankenstein; or, the Modern Prometheus.)」である。当作品の出版により、後に、彼女は SF の先駆者と見做されるようになる。

1818年3月には、夫である英国のロマン派詩人パーシー・ビッシュ・シェリー(Percy Bysshe Shelley:1792年ー1822年)の序文を付けて、再度、匿名で同作品を出版した。

現在、一般に流布している版は、1831年に出版された第3版(改訂版)がベースとなっている。


小説は、英国人で、北極探検隊の隊長であるロバート・ウォルトン(Robert Walton)が、彼の姉であるマーガレット(Margaret)宛に書いた手紙という形式を採っている。


ロバート・ウォルトンが乗る北極探検船が北極点へと向かう途中、北極海において、衰弱した男性を発見して、その男性を救助することになる。救助された男性の名前は、ヴィクター・フランケンシュタイン(Victor Frankenstein)で、船室において目覚めた彼は、ロバート・ウォルトンに対して、自身の恐るべき体験談を語り始めるのであった。


ヴィクター・フランケンシュタインは、スイスの名家出身である父母(Alphonse and Caroline Frankenstein)の下、ナポリに出生した。彼は、両親、弟のウィリアム(William)、養女のエリザベス(Elizabeth → 後に、彼の妻となる)、そして、親友のヘンリー・クラーヴァル(Henry Clerval)に囲まれ、スイスのジュネーヴにおいて、幸せな幼少期 / 少年期を過ごす。ある日、彼は、落雷が大樹に落ちたのを見て、科学に興味を抱き、科学者を志す。


不幸なことに、17歳の時、彼は、母親を猩紅熱(scarlet fever)により失くすが、両親の元々の勧めに従い、故郷のジュネーヴを離れて、ドイツのバイエルン地方の名門であるインゴルシュタット大学(University of Ingolstadt)において自然科学を学ぶこととなった。

自然科学を学んでいたヴィクター・フランケンシュタインであったが、ある時を境にして、生命の謎を解き明かしたいという野心に取り憑かれた。そして、彼は、その研究に打ち込んだ末に、「理想の人間」の設計図を遂に完成させた。これから行う内容が神に背く行為であることを自覚しつつも、彼は自分の計画を実行する段階へと移った。彼は、自ら墓を暴いて、計画の実行に必要な人間の死体の部位を集めると、それらを繋ぎ合わせる作業に入った。

そして、11月のある夜、彼は「理想の人間」の創造に成功した。それが、フランケンシュタインの怪物であった。


本小説の場合、映画による影響があまりにも強いため、ホラー小説的な扱いを受けることが多分にあるものの、実際のところ、ヴィクター・フランケンシュタインが想像したのは、孤独の中、自己の存在に悩む怪物で、自分の醜さゆえに、子供が川で溺れかけているのを救ったにもかかわらず、人間達から忌み嫌われた上に、迫害を受ける。怪物は、自分の創造主であるヴィクター・フランケンシュタインに対して、自分の伴侶となり得る異性の怪物を一人造るよう、強く要求するが、最終的には、創造主にも裏切られ、大きな絶望を味わう。その結果、怪物は、自分の創造主であるヴィクター・フランケンシュタインに対する復讐のため、弟のウィリアム、親友のヘンリー・クラーヴァル、そして、妻のエリザベスと、創造主の大切な人間を次々と殺害していく。憎悪に燃えるヴィクター・フランケンシュタインは、怪物の行方を追跡する。


物語の最後は、ヴィクター・フランケンシュタインにとって、また、彼が創造した怪物にとっても、悲劇的なラストであり、ホラー小説的な扱いだけでは決して終わらない深く、かつ、重い余韻を残す作品なので、是非、原作を御一読願いたい。


0 件のコメント:

コメントを投稿