2020年9月27日日曜日

アガサ・クリスティー作「死者のあやまち」<グラフィックノベル版>(Dead Man’s Folly by Agatha Christie

HarperCollinsPublishers 社から出ている
アガサ・クリスティー作「死者のあやまち」の
グラフィックノベル版の表紙
(Cover Design and Illustration by Ms. Nina Tara)-
物語のメイン舞台となるナス屋敷が描かれている。

3番目に紹介するアガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)によるグラフィックノベル版は、「死者のあやまち(Dead Man’s Folly)」(1956年)である。

本作品は、アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第48作目に該り、エルキュール・ポワロシリーズに属する長編のうち、第27作目に該っている。

本作品のグラフィックノベル版は、元々、イラストレーターであるマレック(Marek)が作画を担当して、2011年にフランスの Heupe SARL から「Poirot joue le jeu」というタイトルで出版された後、2012年に英国の HarperCollinsPublishers から英訳版が発行されている。


HarperCollinsPublishers 社から出ている
アガサ・クリスティー作「死者のあやまち」の
グラフィックノベル版の裏表紙
(Cover Design and Illustration by Ms. Nina Tara)-
2番目の被害者となるマーデル老人が乗っていたボートが描かれている。


1954年11月、アガサ・クリスティーは、自分の生まれ故郷デヴォン州のチャーストン フェラーズ(Churston Ferrers)にあるセントメアリー聖母教会(St. Mary the Virgin Church)に寄付するため、ある中編を執筆して、その印税収入を充てようとした。そこで、彼女は自分の住まいがあるグリーンウェイ(Greenway)を小説の舞台にした。それが、「エルキュール・ポワロとグリーンショア屋敷の阿房宮(Hercule Poirot and the Greenshore Folly)」である。殺人事件が発生する小説の舞台に実在の場所である「グリーンウェイ」をそのまま使用できないので、「グリーンショア」と変更したものと思われる。なお、この中編は、雑誌掲載には難しい長さであったため、残念ながら、未発表のままに終わっている。

上記の中編の代わりに、アガサ・クリスティーは、ミス・ジェーン・マープルを主人公とした短編「グリーンショウ氏の阿房宮(Greenshaw's Folly)」を教会に寄付している。


クリスティーは、この中編を長編にして、2年後に出版している。それが「死者のあやまち」である。中編と長編を比較すると、物語のメイン舞台となるのが、グリーンショア屋敷とナス屋敷(Nasse House)で名前が異なることや登場人物の名前の一部が変更されていること等を除くと、基本的なプロットは同じだ。


グラフィックノベル版の場合、舞台となる屋敷名は、「死者のあやまち」の「ナス屋敷」を採用している。一方、登場人物は、基本的に、「死者のあやまち」のキャラクターとなっているものの、一部、「エルキュール・ポワロとグリーンショア屋敷の阿房宮」のキャラクターが混在している。


ある日、ロンドン市内にあるエルキュール・ポワロのオフィスで電話が鳴る。相手は、人気推理作家で、昔なじみのアリアドニ・オリヴァー夫人(Mrs. Ariadne Oliver)であった。電話はデヴォン州(Devon)からで、オリヴァー夫人はポワロにすぐこちらに来てほしいと頼み込む。そこで、ポワロは早速ロンドン発の列車でデヴォン州へ向かう。


駅からオリヴァー夫人が滞在しているナス屋敷へ迎えの車で向かう途中、ポワロは外国人旅行者の女性二人(オランダ人とイタリア人)を車に乗せて、近くのユースホステルまで送ってあげる。この辺り一帯は外国人ハイカー達に人気の場所で、後でも、彼女達はナス屋敷の地所を勝手に横切ろうとして、屋敷の主であるサー・ジョージ・スタッブス(Sir George Stubbs)から厳重な注意を受けている。


ナス屋敷に到着したポワロに対して、オリヴァー夫人は、次のように説明する。屋敷で催される慈善パーティーのために、(殺人)犯人探しゲーム(Murder Hunt)の段取りをしているところだが、このゲーム自体に何かおかしな点があるものの、それが何なのか、よく判らない。オリヴァー夫人は、そんな不安を口にする。彼女としては、それをポワロに明らかにしてほしいと頼む。


エルキュール・ポワロが、ナス屋敷に集まったメンバーに紹介される場面 -
画面左から、マスタートン夫人、ペギー・レッグ、
アリアドニ・オリヴァー夫人、ポワロ、フォリアット夫人、
ウォーバートン大尉、執事のヘンデン、サー・ジョージ・スタッブス、
アレック・レッグ、そして、アマンダ・ブレウィス。


ナス屋敷では、次の人達が慈善パーティーの準備をしていた。

(1)屋敷の主サー・ジョージ・スタッブス

(2)彼の年若い妻レデイー・スタッブス ハティー(Lady Stubbs, Hattie Stubbs)

(3)サー・ジョージ・スタッブスの秘書アマンダ・ブレウィス(Amanda Brewis)

(4)サー・ジョージ・スタッブスに雇われて、ナス屋敷の改装を行っている建築家マイケル・ウェイマン(Michael Weyman)

(5)近所のコテージに住むアレックとペギーのレッグ若夫婦(Alec Legge + Peggy Legge)→「エルキュール・ポワロとグリーンショア屋敷の阿房宮」に登場。「死者のあやまち」では、原子科学者のアレック・レッグ(Alec Legge)と彼の妻であるサリー・レッグ(Sally Legge)に変更されている。

(6)慈善パーティー全体のとりまとめ役マスタートン夫人(Mrs. Masterton)

(7)彼女の手助けをしているジム・ウォーバートン大尉(Captain Warburton)→「エルキュール・ポワロとグリーンショア屋敷の阿房宮」では、ウォーボロー大尉(Captain Warborough)。

(8)ハティーの庇護者フォリアット夫人(Mrs. Folliat)- ナス屋敷の前の持ち主でもある。フォリアット家は1598年から何代にもわたってこの地所を所有していたが、第二次世界大戦前に、彼女の夫が亡くなってしまった。また、彼女の長男であるヘンリー・フォリアット(Henry Folliat)は海軍で出征した後、乗っていた艦が沈められ、彼女の次男であるジェイムズ・フォリアット(James Folliat)は陸軍に入隊したが、イタリアで戦死したようである。財政上の窮地に陥ったフォリアット夫人はサー・ジョージ・スタッブスに屋敷を売却し、その代わりに、園丁が住んでいたコテージを貸し与えられて住んでいる。


オリヴァー夫人によると、犯人探しゲームのアイデアを出したのはマスタートン夫人だが、何か腑に落ちないところがあるという言う。ある誰かが何らかの意図をもって、他の人達の背後で彼らを操りながら、何かを計画しているような気がしてならない、と...


ポワロとオリヴァー夫人が、1番目の被害者となるマーリン・タッカーと話をしている場面


犯人探しゲームの被害者は、原子科学者の先妻のユーゴスラビア人女性で、ボート小屋で殺される筋書きになっていた。当初、ペギー・レッグが被害者役を務める筈だったが、慈善パーティーで占い師の役を担当することになり、この村に住む少女マーリン・タッカー(Marlene Tucker)が被害者役を代わった。パーティー当日、ポワロとオリヴァー夫人がボート小屋へ様子を見に行くと、マーリンはスカーフで本当に絞殺されていたのであった!


一方、慈善パーティー会場に、(9)ハティーの従兄弟と称するエティエンヌ・ド・スーザ(Etienne da Sousa→「エルキュール・ポワロとグリーンショア屋敷の阿房宮」では、ポール・ロペス(Paul Lopez))が姿を現す。西インド諸島から到着したばかりで、ダートマス(Dartmouth)にヨットを係留し、ダート河(River Dart)をボートで上がって、屋敷にやって来たのである。ハティー・スタッブスに久しぶりに会いたいと言う。ところが、従兄弟を忌み嫌うハティー・スタッブスは、エティエンヌ・ド・スーザの到着前に姿を消してしまい、その後、その行方が杳として知れない。


ナス屋敷において、慈善パーティーが行われている場面 -
画面中央で、少年に熊のぬいぐるみを渡しているのが、ポワロ。


その後、また一人犠牲者が出る。この村に住むマーデル老人(Old Merdel)で、ある晩、乗っていた船(ボート)から舟着き場に飛び移ろうとして、ダート河に落ちて溺死したのである。彼は、絞殺された少女の祖父だったことが判明する。警察当局は老人の死を事故死として処理しようとするが、ポワロは、以前マーデル老人に会った際、彼が発した思わせ振りな言葉が非常に気になった。「フォリアット家が、ナス屋敷からは離れることはない。('Always be Folliats at Nasse.')」と...


果たして、マーデル老人の溺死は事故死なのか?彼女の孫であるマーリン・タッカーを殺害したのは誰なのか?そして、その理由は?更に、ハティー・スタッブスは何処に行ってしまったのか?


アガサ・クリスティーの原作を読んだ方であれば、お判りいただけると思うが、犯人側が仕掛ける「あるトリック」の関係上、彼女の文章だけであれば、大丈夫であるものの、TV ドラマ、映画やグラフィックノベル等による視覚化は、非常に難しいと言える。

本グラフィックノベル版の場合、犯人側のトリックを作画の中に割合とうまい具合に溶け込ませているのではないかと思う。


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