2020年9月20日日曜日

アガサ・クリスティー作「ひらいたトランプ」<グラフィックノベル版>(Cards on the Table by Agatha Christie

HarperCollinsPublishers から出ている
アガサ・クリスティー作「ひらいたトランプ」の
グラフィックノベル版の表紙
(Cover Design and Illustration by Ms. Nina Tara)-
ナイフが突き刺さったハートのトランプが描かれている。
ハートの絵柄から血が流れているので、
シャイタナ氏の心臓も指しているのではないかと思う。


2番目に紹介するアガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)によるグラフィックノベル版は、「ひらいたトランプ(Cards on the Table)」(1936年)である。

本作品は、アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第20作目に該り、エルキュール・ポワロシリーズに属する長編のうち、第13作目に該っている。

HarperCollinsPublishers から出ている
アガサ・クリスティー作「ひらいたトランプ」の
グラフィックノベル版の裏表紙
(Cover Design and Illustration by Ms. Nina Tara)-
トランプの絵柄(ハート / スペード / クラブ / ダイヤ)が
画面一杯に散りばめられている。


本作品のグラフィックノベル版は、元々、ベルギー出身のイラストレーターであるフランク・ルクレルク(Frank Leclercq:1967年ー)が作画を担当して、2009年にフランスの Heupe SARL から「Cartes sur table」というタイトルで出版された後、2010年に英国の HarperCollinsPublishers から英訳版が発行されている。

エルキュール・ポワロが、シャイタナ氏から夕食に招かれる物語冒頭のシーン


作画を担当しているフランク・ルクレルクは、アガサ・クリスティーのグラフィックノベル版では、「ひらいたトランプ」が4作目に該る。彼が他に担当したのは、「そして誰もいなくなった(And Then There Were None)」、「終わりなき夜に生れつく(Endless Night)」、そして、「秘密機関(The Secret Adversary)」の3作で、エルキュール・ポワロが登場する作品を担当するのは、本作が最初である。今までの3作において、彼の作画は劇画風で、登場人物もリアルであったが、本作では、前の3作とは異なり、作画がより漫画風へと大きく転換しており、同じイラストレーターによる作品とは思えない位である。また、淡いパステル調の色彩(ピンク色、黄色、オレンジ色、黄緑色、水色や紫色等)が多用されていて、フランス人好みのグラフィックノベルに仕上がっている。

招かれた夕食の席において、エルキュール・ポワロは、
シャイタナ氏から他の招待客を紹介される。

アガサ・クリスティーの原作通り、主要な登場人物は、以下の10名。

(1)被害者

*シャイタナ氏(Mr. Shitana)ー謎めいた裕福な蒐集家

(2)探偵組

*エルキュール・ポワロ

*アリアドニ・オリヴァー夫人(Mrs. Ariadne Oliver)ー女性推理作家

*バトル警視(Superintendent Battle)ースコットランドヤードの警察官

*レイス大佐(Colonel Race)ー英国秘密情報局の情報部員

(3)容疑者組

*ロバーツ医師(Dr. Roberts)ー成功をおさめた中年の医師

*ロリマー夫人(Mrs. Lorrimer)ーブリッジ好きな初老の女性

*デスパード少佐(Major Despard)ー未開地を探索する探検家

*アン・メレディス(Miss Anne Meredith)ー内気で若く麗しい女性

(4)その他

*ローダ・ドーズ(Rhoda Dawes)ーアン・メレディスの友人


ブリッジを続けるロリマー夫人、ロバート医師、アン・メレディスとデスパード少佐、
そして、それを見つめるシャイタナ氏


個人的には、容疑者組の4人は、イメージに近いが、探偵組について、アリアドニ・オリヴァー夫人は、アガサ・クリスティーの原作に比べると、歯に衣を着せず、思ったことをズバズバと言うキャラクターではあるものの、やや落ち着いた感じになっているように思える。バトル警視の場合、もう10歳程度、年齢が上である必要を感じる。逆に、レイス大佐の場合、アガサ・クリスティーの原作では、50歳位になっているが、グラフィックノベルでは、10歳程度、年齢が下のように設定されている。


ストーリー自体は、シャイタナ氏が彼の自宅において刺し殺された後、ポワロとバトル警視が主体となって、容疑者組の4人に対して、交互に、かつ、個別に会って、事件の捜査を進めるという体裁を採っている。アリアドニ・オリヴァー夫人が活躍するのは、ストーリーの半分程までで、レイス大佐の場合は、残念ながら、出番がかなり限定されている。


グラフィックノベルの性質上、ブリッジ自体の詳細なルール説明には立ち入らず、ポワロによる容疑者組の4人に対する捜査方法は、ブリッジの経過内容やブリッジが行われたシャイタナ氏の客間内の調度品をどの程度詳細に記憶しているかに着目して進められており、50ページ弱(46ページ)という制約があるにもかかわらず、個人的には、かなり手堅くまとめられていると思う。


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