2020年2月1日土曜日

キム・ニューマン作「モリアーティ秘録」(’Professor Moriarty : The Hound of the D’Ubervilles’ by Kim Newman)–その3

東京創元社から出版された創元推理文庫「モリアーティ秘録(上)」の表紙
カバーイラスト: アオジ マイコ 氏
        カバーデザイン: 東京創元社装幀室

英国のファンタジー作家、映画批評家で、かつ、ジャーナリストでもあるキム・ニューマン(Kim Newman:1959年ー)が執筆した「Professor Moriarty : The Hound of the D’Ubervilles(モリアーティー教授:ダーバヴィル家の犬)」(2011年)の日本語訳版である「モリアーティ秘録」(2018年に東京創元社刊)の上巻には、以下の4編が収録されている。

<第1章:血色の記録(A Volume in Vermilion)>
当然のことながら、第1章は、サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)によるシャーロック・ホームズシリーズの第1長編「緋色の研究(A Study in Scarlet→2016年7月30日付ブログで紹介済)」が元ネタになる。
訳者の北原尚彦氏(1962年ー)によると、ゼーン・グレイ作「ユタの流れ者」も元ネタになっている、とのこと。
「緋色の研究」の場合、アフガニスタンから帰国したジョン・H・ワトスンは、ピカデリーサーカス(Piccadilly Circus)にあるクライテリオンバー(Criterion Bar→2014年6月8日付ブログで紹介済)において、セントバーソロミュー病院(St. Bartholomew’s Hospital→2014年6月14日付ブログで紹介済)で助手を務めていたスタンフォード青年(Stamford)から同居人を探している人物(シャーロック・ホームズ)について聞かされるが、「血色の記録」の場合、セバスチャン・モラン大佐(Colonel Sebastian Moran)は、旧知の悪党であるアーチボルド・スタンフォード(手形詐欺師)からジェイムズ・モリアーティー教授(Professor James Moriarty)について聞かされる。
また、「緋色の研究」の場合、スタンフォード青年を介し、セントバーソロミュー病院において、ホームズを紹介されたワトスンは、開口一番、ホームズから「You have been in Afghanistan, I perceive.」と言われたが、「血色の記録」の場合、モラン大佐は、モリアーティー教授からいきなり「お前、アフガニスタンに行ってきたな。」と言われるのである。

<第2章:ベルグレーヴィアの騒乱(A Shambles in Belgravia)>
第2章の元ネタは、コナン・ドイル原作の「ボヘミアの醜聞(A Scandal in Bohemia→「シャーロック・ホームズの冒険(The Adventures of Sherlock Holmes)」(1892年)に収録)」である。
訳者の北原尚彦氏によると、アンソニー・ホープ作「ゼンダ城の虜」も元ネタになっている、とのこと。
「ベルグレーヴィアの騒乱」には、当然のことながら、あの米国の歌姫アイリーン・アドラー(Irene Adler)が登場する。
「ボヘミアの醜聞」の場合、この事件以降、ホームズは、アイリーン・アドラーのことを、「あの女性(ひと)= the woman」と呼ぶようになったが、「ベルグレーヴィアの騒乱」の場合、物語の冒頭から、モリアーティー教授は、アイリーン・アドラーのことを、「あのあばずれ」と呼んでいる。

<第3章:赤い惑星連盟(The Red Planet League)>
第3章の元ネタは、コナン・ドイル原作の「赤毛組合(The Red-Headed League→「シャーロック・ホームズの冒険(The Adventures of Sherlock Holmes)」(1892年)に収録)」である。
訳者の北原尚彦氏によると、H・G・ウェルズ作「宇宙戦争」も元ネタになっている、とのこと。
「赤毛組合」において、ホームズ達が逮捕するロンドンでも指折りの悪党であるヴィンセント・スポールディングこと、ジョン・クレイの名前が、「赤い惑星連盟」でも登場する。
モリアーティー教授の元教え子で、ケンブリッジ大学のルーカス数学教授職に任命されたサー・ネヴィル・ユアリー・ステントは、教え子時代にクラスの面前で笑い者にされた恨みから、モリアーティー教授が唱えた「小惑星の力学」を否定するが、モリアーティー教授は、ある秘策を用いて、元教え子を懲らしめるのであった。

<第4章:ダーバヴィル家の犬(The Hound of the D’Urbervilles)>
第4章の元ネタは、言わずと知れたコナン・ドイル原作のシャーロック・ホームズシリーズの第3長編「バスカヴィル家の犬(The Hound of the Baskerville)」である。
訳者の北原尚彦氏によると、トマス・ハーディ作「テス(ダーバヴィル家のテス)」も元ネタになっている、とのこと。
ウェセックス州トラントリッジホールに住むジャスパー・ストーク=ダーバヴィルから、彼の地所内に出没する巨大な赤い猟犬「レッド・ジャック」を退治してほしいという依頼を受けたモリアーティー教授は、モラン大佐を現地へと派遣するのであった。

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