2020年2月23日日曜日

ジョン・ディクスン・カー作「連続殺人事件」(The Case of the Constant Suicides by John Dickson Carr)–その2

英国のエディンバラにある
Polygon Books 社から2018年に出版された「連続殺人事件」の表紙
(イラスト:  Danny Grogan)

一族の当主であるアンガス・キャンベル(Angus Campbell)が死亡し、親族会議が開かれるという報せを受けて、スコットランドへとやって来たロンドンの University College, Highgate で教授を務める若手歴史学者のアラン・D・キャンベル(Allan D. Campbell)と Harpenden College for Women の史学科に勤務するキャスリーン・アイリーン・キャンベル(Kathryn Irene Campbell)の二人は、彼らを出迎えたアンガスの弟であるコリン・キャンベル(Colin Campbell)に案内された部屋に居る際、意図せず、隣りの部屋での会話を耳にしてしまう。
会話の主は、弁護士のアリステア・ダンカン(Alistair Duncan)とヘラクレス保険会社(Hercules Insurance Company)のウォルター・チャップマン(Walter Chapman)の二人で、シャイラ城(Castle of Shira)の尖塔から自殺としか思えない状況で転落死したアンガス・キャンベルであったが、彼の死には、不審な点がいくつもあったのである。

吝嗇で知られていたアンガス・キャンベルであったが、アレック・フォーベス(Alec Forbes)なる人物に勧誘され、アイスクリーム事業を初めとする複数の儲け話に乗って、かなりの額を投資したものの、相当な損を出していた。そのため、アンガス・キャンベルは、アレック・フォーベスに騙されたのではないかと思い、二人の仲は険悪になっていた。
そして、問題の日、アレック・フォーベスがシャイラ城にアンガス・キャンベルを訪ねてやって来たものの、アンガス・キャンベルとアレック・フォーベスの二人は諍いを起こし、アンガス・キャンベルはアレック・フォーベスをシャイラ城から追い出した。

その日の夜、アンガス・キャンベルは、いつものように、午後10時になると、シャイラ城の尖塔の最上階にある寝室へと下がり、内側から鍵をかけると、眠りについた。
ところが、翌朝、尖塔の真下の地面に、アンガス・キャンベルが倒れているのが見つかり、尖塔の最上階にある寝室から転落したことにより、背骨を折り、その他にも諸々の負傷が原因で死亡していたのである。

アンガス・キャンベルの内縁の妻であるエルスパット・キャンベル(ElspatCampbell)とメイドによると、アンガス・キャンベルがアレック・フォーベスをシャイラ城から追い出したものの、いつ何時、アレック・フォーベスが戻って来て、アンガス・キャンベルに対して危害を加えるかもしれないと思い、アンガス・キャンベルが尖塔の最上階にある寝室へと下がる前に寝室内を調べたところ、ベッドの下を含めて、寝室内に誰か第三者が隠れていた可能性はなかった、とのことだった。

ところが、寝室内のベッドの下には、犬を入れて持ち運ぶためのケースが置かれていたが、中には何も入っていなかった。エルスパット・キャンベルとメイドは、彼らが事前に寝室内を調べた際、ベッドの下には、何もなかったと言う。
それに加えて、アンガス・キャンベルが毎日記していた日記帳が寝室内から紛失していることが判った。
尖塔の最上階にある寝室は地上から20m近くの高さにあり、尖塔をよじ登ることは不可能にもかかわらず、何者かがアンガス・キャンベルの寝室内に立ち入った可能性が出てきたのである。

更に、アンガス・キャンベルは、ジブラルタル保険会社(Gibralter Insurance Company)とプラネット保険会社(Planet Insurance Company)の二社が提供する生命保険に既に加入していたにもかかわらず、最近、ヘラクレス保険会社の生命保険にも加入していた。死の直前に、アンガス・キャンベルは、何故、いくつもの生命保険に入るような真似をしたのだろうか?
それも、各生命保険には、自殺免責条項があるため、アンガス・キャンベルの転落死が自殺として認定されると、保険金は支払われないことになる。
ただ、アンガス・キャンベルの転落死を取り巻く諸状況を考えると、彼の死が自殺とは考え難い一方で、事件当時、現場である尖塔の最上階にある彼の寝室は、内側から施錠された「完全な密室」状態となっており、他殺も不可能と思われた。

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