2017年7月30日日曜日

ロンドン ロウワーブリクストンロード(Lower Brixton Road)

ブリクストンロードの上を通る鉄道高架

サー・アーサー・コナン・ドイル作「六つのナポレオン(The Six Napoleons)」において、ある夜、スコットランドヤードのレストレード警部(Inspector Lestrade)がベーカーストリート221Bのシャーロック・ホームズの元を訪れる。ここのところ、ロンドンの街中で何者かが画廊、住居や診療所に押し入って、ナポレオンの石膏胸像を壊してまわっていたのだ。そのため、レストレード警部は、ホームズのところに相談に来たのである。

地下鉄ブリクストン駅の外観(その1)

最初の事件は4日前で、テムズ河(River Thames)の南側にあるケニントンロード(Kennington Roadー2016年6月11日付ブログで紹介済)で画廊を経営しているモース・ハドソン氏(Mr Mose Hudson)の店で発生していた。そして、レストレード警部は、2番目の事件に関する説明に移った。

地下鉄ブリクストン駅の外観(その2)

「しかしながら、2番目の事件はもっと深刻で、かつ奇妙なものでした。それは、昨夜起きたばかりです。」
「ケニントンロード沿いで、モース・ハドソンの画廊から数百ヤード以内のところに、バーニコット博士という非常に有名な開業医が住んでいます。彼はテムズ河の南側で最も流行っている医者の一人です。彼の住まいと主診療室はケニントンロードにありますが、診療所兼薬局の分室は、2マイル離れたロウワーブリクストンロードにあります。バーニコット博士はナポレオンの熱狂的な崇拝者で、彼の住まいはナポレオンの本、絵画や記念品で一杯です。少し前ですが、彼はモース・ハドソンからフランスの彫刻家ドゥヴィーヌ作の有名なナポレオン頭部彫刻の複製石膏像を2個購入しました。その一つをケニントンロードの住まいのホールに置き、もう一つをロウワーブリクストンロードの診療所の暖炉の上に置きました。…」
ホームズは両手を擦り合わせた。
「これは、確かに非常に目新しいね。」と、彼は言った。
「あなたが喜ぶだろうと思っていました。しかし、話はまだ終わっていませんよ。バーニコット博士は12時に分室の診療所での予約がありました。彼が診療所に到着すると、夜の間に窓が抉じ開けられ、2つ目の胸像が粉々になって、部屋中に散らばっているのを発見したのです。その際、彼がどんなに驚いたのか、想像がつくでしょう。石膏像は、置いてあった場所で粉々になっていました。どちらの事件でも、この犯行を行った犯罪者か、あるいは、精神異常者の手掛かりとなる痕跡は、何もありませんでした。さあ、ホームズさん、事実関係の説明は、これで全てです。」

ブリクストンロードの南端

‘The second case, however, was more serious and also more singular. It occurred only last night.
‘In Kennington Road, and within a few hundred yards of Mose Hudson’s shop, there lives a well-known medical practitioner, named Dr Barnicot, who has one of the largest practices upon the south side of the Thames. His residence and principal consulting-room is at Kennington Road, but he has a branch surgery and dispensary at Lower Brixton Road, two miles away. This Dr Barnicot is an enthusiastic admirer of Napoleon, and his house is full of books, pictures, and relics of the French Emperor. Some little time ago he purchased from Mose Hudson two duplicate plaster casts of the famous head of Napoleon by the French sculptor, Devine. One of these he placed in his hall in the house at Kennington Road, and other on the mantelpiece of the surgery at Lower Brixton Road, … ‘
Holmes rubbed his hands.
‘This is certainly very novel,’ said he.
‘I thought it would please you. But I have not got to the end yet. Dr Barnicot was due at his surgery at twelve o’clock and you can imagine his amazement when, on arriving there, he found that the window had been opened in the night, and that the broken pieces of his second bust were strewn all over the room. It had been smashed to atoms where it stood. In neither case were there any signs which could give us a clue as to the criminal or lunatic who had done the mischief. Now, Mr Holmes, you have got the facts.’


バーニコット博士(Dr Barnicot)がモース・ハドソン氏の画廊から購入したナポレオンの石膏胸像2個のうちの1つが置かれていた診療所はロウワーブリクストンロード(Lower Brixton Road)にあるが、この通りは架空の通りである。
その代わり、ブリクストンロード(Brixton Road)は実在する。ブリクストンロードは、ロンドン・ランベス区(London Borough of Lambeth)内を南北に走る大通りで、北はケニントンパーク(Kennington Park)から始まって、南は地下鉄ブリクストン駅(Brixton Tube Station)で終わり、そこからブリクストンヒル通り(Brixton Hill)と名前が変わる。

ブリクストンロードが
ブリクストンヒル通りへと変わったところ

モース・ハドソン氏が経営する画廊やバーニコット博士の自宅と主診療室があるケニントンロードについては、以前に紹介したが、このケニントンロードはケニントンパークロード(Kennington Park Road)に突き当たり、ケニントンパークに沿いつつ、同じ通りになった後、ケニントンパークの南側で再び2つに分かれ、ブリクストンロードへと名前を変え、南へ延びている。
ブリクストンロードの存在はローマ時代まで遡り、当時よりロンドンから英国南部海岸に面する保養地ブライトン(Brighton)へと至る行程の一部を成していたそうである。

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