2017年7月9日日曜日

ロンドン キングスベンチウォーク3番地(3 King’s Benchwalk)

ウィルブラームクレッセント62番地に住むクリストファー・マバットが勤める
アームストロングオードナンスの建物として
キングスベンチウォーク3番地が撮影に使用されている

アガサ・クリスティー作「複数の時計(The Clocks)」(1963年)は、エルキュール・ポワロシリーズの長編で、今回、ポワロは殺人事件の現場へは赴かず、また、殺人事件の容疑者や証人への尋問も直接は行わないで、ロンドンにある自分のフラットに居ながらにして(=完全な安楽椅子探偵として)、事件の謎を解決するのである。


キャサリン・マーティンデール(Miss Katherine Martindale)が所長を勤めるキャヴェンディッシュ秘書紹介所(Cavendish Secretarial Bureau)から派遣された速記タイピストのシーラ・ウェッブ(Sheila Webb)は、ウィルブラームクレッセント通り19番地(19 Wilbraham Crescent)へと急いでいた。シーラ・ウェッブが電話で指示された部屋(居間)へ入ると、彼女はそこで身なりの立派な男性の死体を発見する。男性の死体の周囲には、6つの時計が置かれており、そのうちの4つが何故か午後4時13分を指していた。鳩時計が午後3時を告げた時、ウィルブラームクレッセント19番地の住人で、目の不自由な女教師ミリセント・ペブマーシュ(Miss Millicent Pebmarsh)が帰宅する。自宅内の異変を感じたミリセント・ペブマーシュが男性の死体へと近づこうとした際、シーラ・ウェッブは悲鳴を上げながら、表へと飛び出した。そして、彼女は、ちょうどそこに通りかかった青年コリン・ラム(Colin Lamb)の腕の中に飛び込むことになった。
実は、コリン・ラム青年は、警察の公安部員(Special Branch agent)で、何者かに殺された同僚のポケット内にあったメモ用紙に書かれていた「M」という文字、「61」という数字、そして、「三日月」の絵から、ウィルブラームクレッセント19番地が何か関係して入るものと考え、付近を調査していたのである。「M」を逆さまにすると、「W」になり、「ウィルブラーム」の頭文字になる。「三日月」は「クレッセント」であり、「61」を逆さまにすると、「19」となる。3つを繋げると、「ウィルブラームクレッセント通り19番地」を意味する。

フリートストリート(Fleet Street)側から
インナーテンプルへと入る手前の広場

クローディン警察署のディック・ハードキャッスル警部(Inspector Dick Hardcastle)が本事件を担当することになった。
シーラ・ウェッブは、ミリセント・ペブマーシュの家へ今までに一度も行ったことがないと言う。また、ミリセント・ペブマーシュは、キャヴェンディッシュ秘書紹介所に対して、シーラ・ウェッブを名指しで仕事を依頼する電話をかけた覚えはないと答える。更に、シーラ・ウェッブとミリセント・ペブマーシュの二人は、ウィルブラームクレッセント通り19番地の居間で死体となって発見された男性について、全く覚えがないと証言するのであった。
ミリセント・ペブマーシュの居間においてキッチンナイフで刺されて見つかった身元不明の死体は「R.・H・カリイ(R. H. Curry)」とされたが、スコットランドヤードの捜査の結果、全くの偽名であることが判明し、身元不明へと逆戻りする。彼が目の不自由な老婦人の居間で刺殺される理由について、スコットランドヤードも、そして、コリン・ラムも、皆目見当がつかなかった。途方に暮れたコリン・ラムは、ポワロに助けを求める。年若き友人からの頼みを受けて、ポワロの灰色の脳細胞が事件の真相を解き明かす。

ここからインナーテンプルへと入る

英国のTV会社 ITV1 で放映されたポワロシリーズ「Agatha Christie’s Poirot」の「複数の時計」(2011年)では、アガサ・クリスティーの原作が第二次世界大戦(1939年ー1945年)後の米ソ冷戦状態を物語の時代背景としたことに対して、他のシリーズ作品と同様に、第一次世界大戦(1914年ー1918年)と第二次世界大戦の間に物語の時代設定を置いている関係上、第二次世界大戦前夜を時代背景として、英国の仮想敵国を原作のソビエト連邦からアドルフ・ヒトラー率いるナチス・ドイツへと変更している。また、物語の舞台も、サセックス州(Sussex)のクロウディーン(Crowdean)からケント州(Kent)のドーヴァー(Dover)へと変更されている。更に、コリン・ラムの名前は、コリン・レイス大尉(Liteunant Colin Race)となり、警察の公安部員ではなく、MI6 の秘密情報部員(intelligence officer)という設定に変えられている。

キングスベンチウォークの建物

TV版では、約1時間半のドラマ枠に物語をおさめる関係上、アガサ・クリスティーの原作の登場人物が整理され、ウィルブラームクレッセント63番地に住む引退した教授のアンガス・マクノートン(Angus McNaughton)と彼の妻のグレーテル・マクノートン(Gretel McNaughton)が、そして、事件現場であるウィルブラームクレッセント19番地近くのアパートに住む少女のゼラルディーン・ブラウン(Geraldine Brown)が、TV版からは削除された。
また、ウィルブラームクレッセント62番地に住む土木技師の妻ラムジィ夫人(Mrs Ramsay)と彼女の息子達のビル・ラムジィ(Bill Ramsay) / テッド・ラムジィ(Ted Ramsay)の三人は、クリストファー・マバット(Christopher Mabbuttー妻は死去)と彼の娘達のメイ・マバット(May Mabbutt) / ジェニー・マバット(Jenny Mabbutt)へと変更されている。
そして、クリストファー・マバットが勤めるアームストロングオードナンス(Armstrong Ordnanceーフランスの武器会社と取引があり)は、キングスベンチウォーク3番地(3 King’s Benchwalk)で撮影されている。物語の終盤、ドイツに英国の機密情報を渡していたスパイと判明したクリストファー・マバットは、MI6 の秘密情報部員であるコリン・レイス大尉によって、この建物の前で逮捕される場面もある。

キングスベンチウォーク3番地の建物

キングスベンチウォークは、ロンドンの経済活動の中心地であるシティー・オブ・ロンドン(City of London)のテンプル地区(Temple)内に所在している。更に細かく言うと、ロンドン内に4つある英国法曹院(Inns of Court)の一つであるインナーテンプル(Inner Temple)内にある。ちなみに、他の3つの英国法曹院は、(1)ミドルテンプル(Middle Temple)、(2)リンカーン法曹院(Lincoln’s Inn)と(3)グレイ法曹院(Gray’s Inn)である。

ドイツへ英国の機密情報を渡していたスパイと判明したクリストファー・マバットは、
MI6 の秘密諜報部員であるコリン・レイス大尉によって、この建物の前で逮捕される

1621年にこの通り沿いに王座裁判所(Court of King’s Bench)の事務所が設置されたことから、「キングスベンチウォーク」と呼ばれるようになった。
なお、王座裁判所は、元来、刑事裁判所であったが、民事裁判権も獲得して、民訴裁判所(Court of Common Pleas)の上訴裁判所としても事件を扱っており、1873年の裁判所法により高等法院(High Court of Justice)に吸収され、その一部門となった。女王の治世中は、「Court of Queen’s Bench」と呼ばれた。

キングスベンチウォークは、
日中でも静謐な空間に満ちている

キングスベンチウォークを含む一帯は、1666年のロンドン大火(Great Fire of London)、そして、それに続く1677年の火災で焼失してしまい、その後、1678年に再建される。

キングスベンチウォーク4番地の建物

キングスベンチウォーク4番地(4 King’s Benchwalk)の建物に、現在、法廷弁護士(barrister)の事務所(chamber)が集中している。同建物は、第二次世界大戦(1939年ー1945年)中、ドイツ軍による爆撃爆撃の難を逃れたインナーテンプル内の数少ない一つである。同建物は、1950年1月4日に「グレード1」の建物(Graded 1 listed building)に指定されている。

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