2017年3月4日土曜日

ロンドン ローリストンガーデンズ3番地(3 Lauriston Gardens)

スコットランドヤードのグレッグスン警部の依頼により、
ホームズとワトスンの二人が駆け付けた「ローリストンガーデンズ3番地」は架空の住所なので、
テムズ河南岸のブリクストンロード近辺には実在していない。

サー・アーサー・コナン・ドイル作「緋色の研究(A Study in Scarlet)」(1887年)の冒頭、1878年にジョン・H・ワトスンはロンドン大学(University of Londonー2016年8月6日付ブログで紹介済)で医学博士号を取得した後、ネトリー軍病院(Netley Hospitalー2016年8月13日付ブログで紹介済)で軍医になるために必要な研修を受けて、第二次アフガン戦争(Second Anglo-Afghan Wars:1878年ー1880年)に軍医補として従軍する。戦場において、ワトスンは銃で肩を撃たれて、重傷を負い、英国へと送還される。
英国に戻ったワトスンは、親類縁者が居ないため、ロンドンのストランド通り(Strandー2015年3月29日付ブログで紹介済)にあるホテルに滞在して、無意味な生活を送っていた。そんな最中、ワトスンは、ピカデリーサーカス(Piccadilly Circus)にあるクライテリオンバー(Criterion Barー2014年6月8日付ブログで紹介済)において、セントバーソロミュー病院(St. Bartholomew's Hospitalー2014年6月14日付ブログで紹介済)勤務時に外科助手をしていたスタンフォード(Stamford)青年に出会う。ワトスンがスタンフォード青年に「そこそこの家賃で住むことができる部屋を捜している。」という話をすると、同病院の化学実験室で働いているシャーロック・ホームズという一風変わった人物を紹介される。初対面にもかかわらず、ワトスンが負傷してアフガニスタンから帰って来たことを、ホームズは一目で言い当てて、ワトスンを驚かせた。
こうして、ベーカーストリート221B(221B Baker Streetー2014年6月22日/6月29日付ブログで紹介済)において、ホームズとワトスンの共同生活が始まるのであった。彼らが共同生活を始めて間もなく、ホームズの元にスコットランドヤードのグレッグスン警部(Inspector Gregson)から手紙が届く。


シャーロック・ホームズ殿ーブリクストンロードから少し入ったところにあるローリストンガーデンズ3番地において、昨夜、凶悪な事件が発生しました。午前2時頃、警邏中の巡査が建物内に明かりがついているのを見つけたのですが、この建物は空き家だったため、何か良くないことが起きたのではないかと疑いました。彼は、入口の扉が開け放たれていて、家具なしの表に面した室内に男性の死体があるのを発見しました。その部屋の中で死んでいた男性の服装はキチンとしていて、ポケットには「米国オハイオ州クリーブランドのイーノック・J・ドレッバー」という名刺が入っていました。強盗の痕跡はなく、この男性の死因に関する手掛かりはありませんでした。室内には出血の跡がありましたが、この男性には傷が見当たりません。どういった経緯で、この男性がこの空き家に入ったのか、我々は皆目見当がつきません。実際のところ、事件全体が謎のままです。もし12時までにこちらに来ていただけるのであれば、私は現場にずーっと居ります。貴殿から連絡があるまで、現場を発見した現状のままにしておきます。もし貴殿がこちらにお越しいただけないのであれば、私からより詳しい状況を御説明致します。そして、貴殿から御意見を伺うことができれば、非常に有り難いと存じます。
敬具
トビアス・グレッグスン

My dear Mr Sherlock Holmes - There has been a bad business during the night at 3 Lauriston Gardens, off the Brixton Road. Our man on the beat saw a light there about two in the morning, and as the house was an empty one, suspected that something was amiss. He found the door open, and in the front room, which is bare of furniture, discovered the body of a gentleman, well dressed, and having cards in the pocket bearing the name of Enoch J. Drebber, Cleveland, Ohio, USA. There had been no robbery, nor is there any evidence as to how the man met his death. There are marks of blood in the room, but there is no wound upon his person. We are at a loss as to how he came into the empty house; indeed the whole affair is a puzzler. If you can come round to the house anytime before twelve, you will find me there, I have left everything in the statu quo until I hear from you. If you are unable to come, I shall give you fuller details, and would esteem it a great kindness if you would favour me with your opinion.
Yours faithfully
TOBIAS GREGSON

スコットランドのエディンバラ市内にあるローリストン城の入口看板

ローリストンガーデンズ3番地は縁起の悪い不気味な建物だった。それは、通り(ブリクストンロード)から少し入ったところに建っている四軒のうちの一軒で、二軒には人が住んでいたが、残りの二軒は空き家だった。空き家は1階から3階まで虚ろで陰鬱な窓が並んでおり、空虚で汚れた窓ガラスのあちこちには、「貸家」の表示が白内障のようにぼんやりと貼り付けられている以外は、何も見えなかった。小さな庭には、所々に色の良くない草が生い茂っていて、この庭が各家と通りを隔てていた。この庭を横切って、、黄色い細い道が各家まで通っていた。道は土と砂利を混ぜたものでできているようだった。昨夜中降り続いた雨で、そこら中どこもかしこもびしょ濡れだった。庭の境界にあh、3フィートの高さの煉瓦(レンガ)塀があり、その上には木製の手摺りが付いていた。この煉瓦塀に屈強な巡査が凭れていて、彼の周りには少人数の野次馬が塊となり、首を突き出したり、目を凝らしたりして、建物の中で起きていることをちょっとでも見ようと、無駄な努力をしていたのであった。

Number 3, Lauriston Gardens, wore an ill-omened and minatory look. It was one of four houses which stood back some little way from the street, two being occupied and two empty. The latter looked out with three tiers of vacant melancholy windows, which were blank and dreary, save that here and there a 'To Let' card had developed like a cataract upon the bleared panes. A small garden sprinkled over with a scattered eruption of sickly plants separated each of these houses from the street and was traversed by a narrow pathway, yellowish in colour, and consisting apparently of a mixture of clay and of gravel. The whole place was very sloppy from the rain which had fallen through the night. The garden was boarded by a three-foot brick wall with a fringe of wood rails upon the top and against this wall was leaning a stalwart police constable, surrounded by a small knot of loafers, who craned their necks and strained their eyes on the vain hope of catching some glimpse of the proceedings within.

夕暮れ時に撮影したローリストン城の全景

スコットランドヤードのグレッグスン警部の依頼により、ホームズとワトスンが駆け付けたローリストンガーデンズ3番地(3 Lauriston Gardens)は、コナン・ドイルの原作では、テムズ河(River Thames)南岸のブリクストンロード(Brixton Road)から少し入ったところにあると記述されているものの、残念ながら、現在の住所表示上、ロンドン市内には存在しておらず、架空の住所である。ただし、ローリストンガーデンズは、スコットランドのエディンバラ(Edinburgh)市内に実在している。原作者のコナン・ドイルはエディンバラ市に出生しているので、もしかすると、事件現場の住所として、ロンドン市内の実在の場所を使用できないので、エディンバラ市内にある住所を代わりに使った可能性がある。

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