2017年3月25日土曜日

ロンドン ケニントンパークゲート/オードリーコート46番地(Kennington Park Gate / 46 Audley Court)

これは、地下鉄ベーカーストリート駅(Baker Street Tube Station)へと至る
マリルボーンロード(Marylebone Road)の地下通路内の壁に描かれている

サー・アーサー・コナン・ドイル作「緋色の研究(A Study in Scarlet)」(1887年)の冒頭、1878年にジョン・H・ワトスンはロンドン大学(University of Londonー2016年8月6日付ブログで紹介済)で医学博士号を取得した後、ネトリー軍病院(Netley Hospitalー2016年8月13日付ブログで紹介済)で軍医になるために必要な研修を受けて、第二次アフガン戦争(Second Anglo-Afghan Wars:1878年ー1880年)に軍医補として従軍する。戦場において、ワトスンは銃で肩を撃たれて、重傷を負い、英国へと送還される。

英国に戻ったワトスンは、親類縁者が居ないため、ロンドンのストランド通り(Strandー2015年3月29日付ブログで紹介済)にあるホテルに滞在して、無意味な生活を送っていた。そんな最中、ワトスンは、ピカデリーサーカス(Piccadilly Circus)にあるクライテリオンバー(Criterion Barー2014年6月8日付ブログで紹介済)において、セントバーソロミュー病院(St. Bartholomew's Hospitalー2014年6月14日付ブログで紹介済)勤務時に外科助手をしていたスタンフォード(Stamford)青年に出会う。ワトスンがスタンフォード青年に「そこそこの家賃で住むことができる部屋を捜している。」という話をすると、同病院の化学実験室で働いているシャーロック・ホームズという一風変わった人物を紹介される。初対面にもかかわらず、ワトスンが負傷してアフガニスタンから帰って来たことを、ホームズは一目で言い当てて、ワトスンを驚かせた。

こうして、ベーカーストリート221B(221B Baker Streetー2014年6月22日/6月29日付ブログで紹介済)において、ホームズとワトスンの共同生活が始まるのであった。彼らが共同生活を始めて間もなく、ホームズの元にスコットランドヤードのグレッグスン警部(Inspector Gregson)から事件発生を告げる手紙が届く。ホームズに誘われたワトスンは、ホームズと一緒に、ブリクストンロード(Brixton Road)近くの現場ローリストンガーデンズ3番地(3 Lauriston Gardensー2017年3月4日付ブログで紹介済)へと向かった。ホームズ達が到着した現場には、グレッグスン警部とレストレード警部(Inspector Lestrade)が二人を待っていた。現場で死亡していたのは、イーノック・J・ドレッバー(Enoch J. Drebber)の名刺を持つ、立派な服装をした中年の男性だった。

ディアストーカーを冠り、パイプを咥えたホームズの横顔―
彼の顔の辺りには、地下鉄ベーカーストリート駅構内を支える
地面らしきものがガラス越しに見えている

「何か判りましたか?」と、二人(グレッグスン警部とレストレード警部)が尋ねた。
「僕が差し出がましく君達を手助けすると、君達から手柄を横取りすることになるかもしれない。」と、ホームズは答えた。「今のところ、君達は非常にうまくやっているので、誰かに横槍を入れられたら嫌だろう。」ホームズは、話している間、皮肉一杯の口調だった。「今後、君達の捜査の進捗状況について教えてもらえるのであれば。」と、彼は続けた。「喜んで、僕が出来る限りの手助けをさせてもらうよ。それまでの間、僕は死体を発見した巡査と話がしたい。その巡査の名前と住所を教えてくれないか?」
レストレード警部は、自分の手帳に目をやった。「ジョン・ランス巡査です。」と、彼は言った。「彼は、現在、非番です。ケニントンパークゲートのオードリーコート46番地へ行けば、彼に会えるでしょう。」
ホームズは、レストレード警部が教えた住所を書き留めた。

'What do you think of it, sir?' they both asked.
'It would be robbing you of the credit of the case if I was to presume to help you,' remarked my friend. 'You are doing so well now that t would be a pity for anyone to interfere.' There was a world of sarcasm in his voice as he spoke. 'If you will let me know how your investigation go,' he continued, 'I shall be happy to give you any help I can. In the meantime I should like to speak to the constable who found the body. Can you give me his name and address?'
Lestrade glanced at his note-book, 'John Rance,' he said. 'He is off duty now. You will find him at 46 Audley Court, Kennington Park Gate.'
Holmes took a note of the address.

開設した当時の地下鉄ベーカーストリート駅

話をしている間、私達が乗った辻馬車は薄汚れた通りと物寂しい脇道を次々と縫うように通り抜けていった。最も薄汚れた通りに来ると、御者は辻馬車を停めた。「あれがオードリーコートです。」と、濁った色をしたレンガが中に見える細い隙間を指差しながら、彼は言った。「御二人が戻って来るまで、ここでお待ちします。」
残念ながら、オードリーコートは魅力的な場所ではなかった。狭い小道を進むと、むさ苦しい住居に囲まれた石畳の中庭へと出た。私達は薄汚れた子供達の一団の間を、そして、色あせた下着を干した群れも通り抜けて、46番地へと辿り着いた。46番地の戸口には、ランスという名前が彫られた真鍮の小片が取り付けられていた。戸を叩くと、幸い巡査は寝室に居たので、彼が寝室から出て来るまで、私達は小さな客間へ通されて、彼を待った。
間もなく、彼は寝室から出て来たものの、睡眠を邪魔されて、少しばかり不機嫌そうだった。「警察本部に報告書を提出済ですが...」と、彼は言った。
ホームズはポケットから半ソブリン金貨を取り出すと、考え込むようにもてあそんだ。「僕達は君から直接全てを聞きたいと思っているんだ。」と、彼は言った。
「話せることならば、喜んで何でもお話します。」と、巡査は半ソブリン金貨に目をやりながら答えた。

This conversation had occurred while our cab had been threading its way through a long succession of dingy streets and dreary by-ways. In the dingiest of them our driver came to a stand. 'That's Audley Court in there,' he said, pointing to a narrow slit in the line of dead-coloured brick. 'You'll find me here when you come back.'
Audley Court was not an attractive locality. The narrow passage led us into a quadrangle paved with flags and lined by sordid dwellings. We picked our way among groups of dirty children, and through lines of discoloured linen, until we came to Number 46, the door of which was decorated with a small slip of brass on which the name Rance was engraved. On enquiry we found that the constable was in bed, and we were shown into a little front parlour to await his coming.
He appeared presently, looking a little irritable at being disturbed in his slumbers. 'I made my report at the office,' he said. 
Holmes took a half-sovereign from his pocket and played with it pensively. 'We thought that we should like to hear it all from your own lips,' he said.
'I shall be most happy to tell you anything I can,' the constable answered with his eyes upon the little gold disk.

ブリクストンロード近くのローリストンガーデンズ3番地でイーノック・J・ドレッバーの死体を発見したジョン・ランス巡査(Constable John Rance)が住んでいるケニントンパークゲートのオードリーコート46番地(46 Audley Court, Kennington Park Gate)は、テムズ河(River Thames)の南側にあることになっているが、残念ながら、ロンドンにおける現在の住所表記上、ケニントンパークゲートも、オードリーコート(46番地)も存在しておらず、両方とも架空の住所である。

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