2021年2月6日土曜日

ジョーゼフ・シェリダン・レ・ファニュ作「吸血鬼カーミラ」(Carmilla by Joseph Sheridan Le Fanu) - その1

英国のプーシキン出版(Pushkin Press)から刊行されている
ジョーゼフ・シェリダン・レ・ファニュ作「吸血鬼カーミラ」の表紙
(Designed by Tetragon London)


「吸血鬼(vampire)」という概念は、アイルランド出身の小説家であるブラム・ストーカー(Bram Stoker)こと、エイブラハム・ストーカー(Abraham Stoker:1847年ー1902年)が1897年に発表した「吸血鬼ドラキュラ(Dracula → 2017年12月24日 / 12月26日付ブログで紹介済)」によって生み出されたと一般に思われているが、実際には、ブラム・ストーカーと同じアイルランド出身の小説家であるジョーゼフ・シェリダン・レ・ファニュ(Joseph Sheridan Le Fanu:1814年ー1873年)が1872年に発表した「吸血鬼カーミラ(Carmilla)」の方が先駆者であり、ブラム・ストーカー作「吸血鬼ドラキュラ」は、レ・ファニュ作「吸血鬼カーミラ」の影響を大きく受けて、執筆されているのである。

「吸血鬼カーミラ」は、作者のジョーゼフ・シェリダン・レ・ファニュにより、1871年から1872年にかけて、雑誌「ダークブルー(The Dark Blue)」上で連載された後、1872年、彼の短編集である「In a Glass Darkly」に収録された。


「吸血鬼カーミラ」の話は、主人公であるローラ(Laura)が手記にしたためた回想という形で始まる。


ローラは、オーストリアのシュタイアーマルク(Styria  独語:Steiermark)という自然豊かな土地で、父親と一緒に、森の中の城で暮らしていた。彼女は、幼い頃に母をなくしていた。彼女の父親は、英国人で、以前はオーストリア帝国(Austrian Empire)のために働いていたが、既に引退の身であった。彼女の父親は、引退する際、人里離れた城を比較的安く買い取って、娘のローラと一緒に、移住していた。父娘の他に、城に住んでいるのは、数人の使用人達(家庭教師を含む)だけだった。


父娘が住む城は、最も近い村まで約7マイル離れていて、父娘と親交のあるスピエルスドルフ将軍(General Spielsdorf)の城までは、村とは反対方向へ20マイル近く離れているという「陸の孤島」と言えた。そのため、スピエルスドルフ将軍の城へ出かけたり、逆に、遠方から来客が父娘の城を訪れる時以外、ローラは一人で寂しく過ごしていた。


ローラは、幼い頃(6歳の時)に、非常に奇妙な体験をする。

ある晩、彼女が一人で眠っていた時、ふと目を覚ますと、部屋の中には、メイドではなく、見知らぬ美しい女性が居た。その女性は、ローラが眠るベッドの脇にひざまづいていたが、ベッドの中に入ると、ローラを優しく抱きしめた。

幼かったローラが安心して再び眠った途端、胸を2本の針で刺されたような激しい痛みが走り、彼女は驚いて飛び起き、泣き喚いた。彼女の泣き声に反応して、見知らぬ美しい女性は、ベッドから床に降りると、ベッドの下へとその姿を消す。

ローラの泣き声を聞いて、メイド達が3人やって来るが、ベッドの下へと逃げた女性は、メイド達がどれだけ探しても、見つからなかった。しかしながら、ベッドの窪みから、ローラ以外に、誰かがベッドの上に居たという痕跡は残っていた。ローラは、胸を針のようなもので刺されたと言うが、何かに刺された痕はなかったのである。周囲の者は、ローラをどうにか安心させようとするが、彼女は神経質になってしまう。そのため、彼女が14歳になるまでの間、使用人達が3人、彼女が眠る部屋で寝ずの番を続けることとなった。


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