2020年6月20日土曜日

ジョン・ディクスン・カー作「三つの棺」(The Three Coffins by John Dickson Carr)–その5

早川書房からハヤカワミステリ文庫として出版された
ジョン・ディクスン・カー作「三つの棺」の表紙
(カバーデザイン: 山田雅史氏)

原作を既に読んだ人にはお判りになるかと思うが、
推理小説として、この表紙の内容は、非常に掟破りの内容を言える。

米国のペンシルヴェニア州(Pennsylvania)に出生して、英国人のクラリス・クルーヴス(Clarice Cleaves)との結婚後、1932年から1946年にかけて英国のブリストル(Bristol)に居を構えていた米国の推理作家で、「不可能犯罪の巨匠」とも呼ばれているジョン・ディクスン・カー(John Dickson Carr:1906年ー1977年)が1935年に発表した推理小説である「三つの棺(The Three Coffins 英題: The Hollow Man)」は、3部全21章から成っており、そのうち、第17章「密室の講義(The Locked-Room Lecture)」において、ギディオン・フェル博士(Dr. Gideon Fell)がスコットランドヤード犯罪捜査課(CID)のハドリー警視(Superintendent Hadley)とテッド・ランポール(Ted Rampole)に対して行う説明は、密室トリックを分類したエッセーとしても有名で、推理小説論のアンソロジーに収録されたりもする。

ジョン・ディクスン・カーは、パリの予審判事であるアンリ・バンコラン(Henri Bencolin)シリーズ第1作目に該る「夜歩く(It Walks by Night)」(1930年)を以って、推理作家としてデビューした後、

*「絞首台の謎(The Lost Gallows)」(1931年)
*「髑髏城(The Castle Skull)」(1931年)
*「蠟人形館の殺人(The Corpse in the Waxworks)」(1932年)

と、アンリ・バンコランシリーズを続けてきたが、アンリ・バンコランの人物像にリアリティーを段々と感じられなく成った彼は、舞台を英国へと移し、

*ギディオン・フェル博士シリーズ第1作目「魔女の隠れ家(Hag’s Nook)」(1932年)→2020年3月8日 / 3月15日 / 3月22日 / 3月29日付ブログで紹介済
*ヘンリー・メリヴェール卿(Sir Henry Merrivale)シリーズ第1作目「黒死荘の殺人(The Plague Court Murders)」(1934年)→2018年5月6日 / 5月12日付ブログで紹介済

を始動させた。

1935年初頭、ジョン・ディクスン・カーは、アンリ・バンコランを復帰させるために、「吸血鬼の塔(Vampire Tower)」という長編の執筆に取り掛かったものの、アンリ・バンコランシリーズを書き続けることができず、途中で原稿を破棄して、彼が書き直したのが、本作「三つの棺」である。

日本では、1935年の発表の翌年に該る1936年に、伴大矩(ばん だいん)訳の「魔棺殺人事件」(日本公論社)が初版として出版されたが、「抄訳」の上に、「悪訳」だった。不幸なことに、以降、「三つの棺」には悪訳が付いて回り、第二次世界大戦(1939年ー1945年)後の村崎敏郎訳「三つの棺」も、評価はあまり高くない。また、三田村裕訳「三つの棺」(1976年ーハヤカワポケットミステリ / ハヤカワミステリ文庫)にも、誤訳が続いた。そのため、2014年に加賀山卓郎氏による新訳(ハヤカワ文庫)が刊行された。

明智小五郎シリーズ等で有名な日本の推理作家である江戸川乱歩(1894年ー1965年)は、「カー問答」(1950年ー別冊宝石)の中で、ジョン・ディクスン・カーの作品を第1位グループから最もつまらない第4位グループまで評価分けしており、本作「三つの棺」については、第2位グループ7作品の筆頭に挙げている。
ただし、江戸川乱歩も、「抄訳」の上、「悪訳」だった「魔棺殺人事件」を読んでいて、本人としても、「最初に「魔棺殺人事件」の拙い役で読んだために本作の印象が悪いが、初めから原本で読んでいたらもっと高く評価していただろう。」と語っている。

一般に、「三つの棺」は、ジョン・ディクスン・カーの最高傑作と評する意見が多いが、物語の設定がかなり複雑で、細部を見ると、不自然なところや無理なところは、正直ベース、あると言えるが、1935年当時としては、この奇術的トリックは読者に大きな驚きを与えたのではないだろうか?個人的には、カリオストロストリート(Cagliostro Street)で発生した事件を解明するには、事件の現場となるブルームズベリー地区(Bloomsbury)を含むロンドンの地図が頭に完全に入っていないと、文章の説明だけでは、ロンドン以外に住む読者には、非常に難しいと思う。

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