2020年6月7日日曜日

エセル・リナ・ホワイト作「誰かが見ている」(Some Must Watch by Ethel Lina White)

英国の Arcturus Publishing Limited から
 Crime Classics シリーズの一つとして出版されている
エセル・リナ・ホワイト作「誰かが見ている」の表紙–
「激しくなる嵐の夜、サミット邸内の階段に佇み、
恐怖に震えるヘレンに忍び寄る連続殺人鬼の影」という感じで、
物語のハイライト場面の雰囲気を非常にうまく伝えている。
ただし、厳密に言うと、ヘレンが着ている服の色は、
赤色ではなく、青色が正当である。

エセル・リナ・ホワイト(Ethel Lina White:1876年ー1944年)は、英国ウェールズ地方モンマスシャー生まれの女性推理作家で、1930ー1940年代を代表する推理作家の一人と言われている。彼女は、アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)の活躍時期(1887年ー1927年)の後半部分とアガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)の活躍時期(1920年ー1976年)の前半部分にちょうどオーバーラップしている。また、彼女は、アガサ・クリスティーのような多作ではなく、1944年に亡くなるまでに、推理小説は15作品しか執筆していない、とのこと。

本作品「誰かが見ている(Some Must Watch)」は、彼女の代表作の一つで、ロバート・シオドマク監督により、「螺旋階段(The Spiral Staircase)」というタイトルで映画化されている。他には、「サイコ」、「鳥」や「レベッカ」等で有名なアルフレッド・ヒッチコック監督が映画化した「バルカン超特急」等がある。

イングランドとウェールズの境界、何もない荒涼とした田園地帯に建つサミット邸(The Summit)。一番近い町から22マイル(約36㎞)、一番近い村からは1マイル(約15㎞)離れている。
一風変わったウォーレン(Warren)一家が住むこの屋敷に、女主人の世話役として雇われたヘレン・カペル(Helen Capel)は、不吉な予感に震えていた。何故ならば、近隣の町や村で、若い女性4人が連続して、何者かに殺害されているのだ。最初の2人は町で、3人目は村で殺されたのだが、サミット邸からはまだ離れた世界の話である。ところが、4人目はサミット邸から僅か5マイル(約8㎞)しか離れていない一軒家の中で絞殺されたのである。つまり、若い女性ばかりを殺害している犯人は、少しずつサミット邸へと近づいて来ているのであった。次に殺人鬼に狙われるのは、自分かもしれない。ヘレンは、そう感じていた。

雷鳴が近づくある夕暮れ、散歩に出かけたヘレンは、サミット邸に戻ろうとしていた。雨と風が激しくなりつつある中、正門からサミット邸の玄関へと向かうヘレンは、ある樹木の幹が2つに分かれるのを目撃した。それは、つまり、謎の男が樹木の幹の後ろから出て来て、暗闇の中へと姿を消したのである。

嵐が激しくなる夜、サミット邸に居るのは、ヘレンの他には、
(1)レディーウォーレン(Lady Warren):老齢の女主人
(2)ウォーレン教授(Professor Warren):女主人の息子
(3)ミスウォーレン(Miss Warren):ウォーレン教授の妹
(4)ニュートン・ウォーレン(Newton Warren):ウォーレン教授の息子
(5)シモーネ・ウォーレン(Simone Warren):ニュートンの妻
(6)ステファン・ライス(Stephen Rice):サミット邸に居ついているウォーレン教授の学生
(7)バーカー(Nurse Barker):レディーウォーレンを担当する新任の看護婦
(8)オーテス夫妻(Mr. & Mrs. Oates):サミット邸の家事全般をとりしきる執事と家政婦
(9)パリー(Dr. Parry):レディーウォーレンを担当する若き医師
の10人。
そこに、パブ「ザ・ブル(The Bull)」のオーナーであるウィリアムス(Williams)からパリー医師宛に電話がある。以前、サミット邸で働いていた女性セリドウェン・オーウェン(Ceridwen Owen)の死体が見つかったのである。近所に住むビーン大尉(Captain Bean)が市場から自宅に戻った際、ドアの鍵を開けようと、鍵穴をよく見るために、マッチを擦ったところ、庭の隅に彼女の死体が横たわっているのを発見したのであった。遂に、連続殺人鬼の魔の手が、サミット邸の近くまで達したのだ。

パリー医師は死体を調べるために、オーテス氏はレディーウォーレン用の酸素ボンベを調達するために、嵐の中、サミット邸を出て行く。更には、ニュートン、シモーネとステファンの間で、痴話喧嘩が発生し、ステファン、シモーネ、そして、ニュートンの順に、サミット邸を出て行ってしまう。
サミット邸からどんどん人が居なくなるにつれて、ヘレンは、ひたひたと忍び寄る連続殺人鬼の影に怯えるのであった。遂には、男性のように体格がよいベーカー看護婦に対して、ヘレンは疑惑の目を向けるようになる。この非常事態の下、ウォーレン教授は、翌朝までサミット邸を内側から封鎖するよう、指示を下す。しかし、実際には、ヘレンが恐れるよりもずっと近くに、連続殺人鬼はその姿を隠していたのである。
最後、連続殺人鬼が、遂にヘレンの前にその姿を現す...

本作品は、ゴシックサスペンスの古典的傑作と言われている。作者のエセル・リナ・ホワイトは、サミット邸内で各人を疑い、誰も頼りにできないヘレンの不安と緊張をうまく盛り上げてはいる。
ただ、全編を通して、ヘレンがサミット邸内を行ったり来たりして、屋敷内に残る人を遭遇しては、また不安に苛まれるというやや堂々巡りの繰り返しという印象を、個人的には否めない。確かに、最後の最後で、驚きのどんでん返しはあるものの、そこへ至る論理的な必然性が欠けているように感じる。また、あまり詳細には書けないものの、話の途中でサミット邸から出て行ってしまった、つまり、舞台から途中退場してしまった登場人物達にとって、再度の出番はほとんどなく、登場人物をできる限り多くして、読者を惑わそうとしたのかもしれないが、話の流れ上というか、舞台の構成上、登場人物の全員をうまく処理しきれていないように思えてならない。

0 件のコメント:

コメントを投稿