2019年8月17日土曜日

ジョン・ディクスン・カー作「緑のカプセルの謎」(The Problem of the Green Capsule by John Dickson Carr)–その2

創元推理文庫「緑のカプセルの謎」の旧訳版の表紙
(カバー装画: 山田 雅史氏)

ロンドン警視庁犯罪捜査部(スコットランドヤード CID)の上司であるハドリー警視(Superintendent Hadley)から命じられて、アンドルー・マッカンドルー・エリオット警部(Inspector Andrew MacAndrew Elliot)が愛車でロンドンを後にして、バース(Bath)に近いソドベリークロス村(Sodbury Cross)へと向かった10月3日は、天気も良く、暖かい日だった。
生憎と、愛車が途中でパンクしたため、エリオット警部がソドベリークロス村に到着したのは、午後11時半を過ぎていた。遅く時間にもかかわらず、地区警察本部長のクロウ少佐(Major Crow)とボストウィック警視(Superintendent Bostwick)の2人が、署内の警視の部屋で、エリオット警部の到着を待っていた。時間を無駄にせず、エリオット警部は、早速、彼らからソドベリークロス村での毒殺事件にかかる説明を受ける。

ソドベリークロス村には、煙草店兼菓子店が3軒あるが、ミセス・テリー(Mrs. Terry)が営む店が一番人気だった。ミセス・テリーは陽気な人物で、テキパキしている上に、夫に先立たれた後、5人の子供を一人で養育していることもあって、人情的に、村の人達はミセス・テリーの店を贔屓にしていたのである。

事件当日の6月17日は金曜日で、市が立つ日だったため、村には沢山の人が集まって来ていた。午後4時頃、マージョリー・ウィルズ(Marjorie Wills)は、伯父であるマーカス・チェズニー(Marcus Chesney)の車で、村の肉屋まで買い物にやって来た。肉屋での買い物を終えたところで、彼女はお気に入りの子供であるフランキー・デール(Frankie Dale - 8歳)に偶然出会った。そして、彼女は、フランキーに「ミセス・テリーの店へ行って、チョコレート・ボンボンを3ペンス分買って来て。」と頼み、6ペンス銀貨を渡した。
フランキーは、マージョリーから頼まれた通り、肉屋から50ヤード程離れたところにあるミセス・テリーの店へとお使いに行き、3ペンス分のチョコレート・ボンボン6個を小さな紙袋に入れてもらって、マージョリーの元へと走って戻って来た。
その日は雨が降っていて、マージョリーは大きなポケットが付いたレインコートを着ていた。彼女はフランキーから受け取った紙袋をレインコートのポケットに一旦入れた後、考え直したように取り出し、紙袋を開けて、中を見た。すると、マージョリーは、「白いクリームが詰まったチョコレート・ボンボンではなく、ピンククリームのものが良いので、ミセス・テリーに交換してもらってほしい。」と言って、フランキーを再度ミセス・テリーの店へと行かせた。ミセス・テリーは親切に交換に応じ、ピンククリームが詰まったチョコレート・ボンボンが入ったチョコレート・ボンボンが入った紙袋を持って、フランキーはマージョリーの元に戻り、3ペンスの釣り銭をお駄賃にもらったのである。

お茶の時間のため、一度自宅に戻り、お茶を済ますと、フランキーは再度ミセス・テリーの店へ向かい、白いクリームが詰まったチョコレート・ボンボンを2ペンス分、そして、グミを1ペンス分購入した。
その後、午後6時15分頃、アンダーソン夫妻のところで働くメイドのロイス・カーテンが、夫妻の子供二人(トミー・アンダーソンとドロシー・アンダーソン)を連れて、ミセス・テリーの店にやって来て、様々な味のチョコレート・ボンボンを重さ半ポンド分買ったのである。

ドロシー・アンダーソンとトミー・アンダーソンが一口かじったチョコレート・ボンボンが変な味がすると言うので、メイドのロイス・カーテンがそれぞれ一口かじってみると、苦い味がするため、不良品と判断して、バックに入れ、折を見て、ミセス・テリーの店へ苦情を言いに行くことにした。その後、3人とも、チョコレート・ボンボンに混入されていたストリキニーネによる中毒症状に陥ったが、幸いなことに、誰も命を落とすことはなかった。

一方、マージョリーからお駄賃にもらった釣り銭でチョコレート・ボンボンを2ペンス分購入したフランキーは、全部飲み込むように食べてしまった結果、一時間程すると苦痛に襲われ、ひどくもがき苦しみながら、その日の夜11時に息を引き取った。

警察が分析した結果、以下のチョコレート・ボンボン10個に、それぞれ2グレイン(約130ミリグラム)を超えるストリキニーネが混入されていたことが判明。1グレインでも、致死量に達することがある。
(1)フランキー・デールが食べたチョコレート・ボンボン4個
(2)メイドのロイス・カーテンとアンダーソン夫妻の子供二人が一口ずつかじったチョコレート・ボンボン2個
(3)ロイス・カーテンがバックの中に入れた紙袋内に残っていたチョコレート・ボンボン2個
(4)ミセス・テリーの店に並べてあるチョコレート・ボンボン2個

クロウ本部長とポストウィック警視は、以下の3つの可能性を考えていた。
(1)ミセス・テリーが故意に毒入りのチョコレート・ボンボンを販売した可能性 → 当初、村人はこの可能性に反射的に反応して、大きな騒ぎになったが、それも2日程で落ち着き、今では誰も信じていない。
(2)当日の昼間、ミセス・テリーの店へ行った何者かが、ミセス・テリーが背を向けた隙に、毒入りのチョコレート・ボンボンを無害のチョコレート・ボンボンの中に加えた可能性
(3)マージョリー・ウィルズが、フランキー・デールから受け取った無害なチョコレート・ボンボン入りの紙袋を、自分のレインコートのポケット内で、予め準備しておいた毒入りのチョコレート・ボンボン入りの紙袋と取り替えた後、フランキーに渡して、ミセス・テリーの店へ戻らせた可能性

当時の昼間、マーカス・チェズニーとジョーゼフ(ジョー)・チェズニー医師(Dr. Joseph (Joe) Chesney)の2人は、ミセス・テリーの店を訪れていた。一方、ギルバート・イングラム教授(Professor Gilbert Ingram)とウィルバー・コメット(Wilbur Emmet)の二人は、ミセス・テリーの店へは行っていなかった。

クロウ本部長とポストウィック警視が、マージョリー・ウィルズを含むマーカス・チェズニーとその関係者を疑う中、ジョーゼフ・チェズニー医師から緊急の電話があった。マーカス・チェズニーが、自宅のベルガード館(Bellegarde)において、青酸により毒殺されたとの一報がもたらされたのである。

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