2019年2月2日土曜日

カーター・ディクスン作「殺人者と恐喝者」(Seeing is Believing by Carter Dickson)–その2

東京創元社が発行する創元推理文庫「殺人者と恐喝者」の表紙に描かれている
「小道具A:ゴム製の短剣」と
「小道具B:弾丸が込められた拳銃(ウェブリー38口径リヴァルバー)」−
    カバーイラスト:ヤマモト マサアキ氏
カバーデザイン:折原 若緒氏
  カバーフォーマット:本山 木犀氏

ある晩、グロスターシャー州チェルトナムのフィッツハーバートアベニューにあるアーサーとヴィッキーの自宅において、晩餐会の後、リチャード・リッチ博士による催眠術の実験が行われることになった。叔父のヒューバートによると、リチャード・リッチ博士は、あるホテルのバーで偶然出会った人物で、精神科医という触れ込みだった。

晩餐会後に行われる催眠術の実験のため、以下の人物が会場となる客間に集まった。客間内は、ソファー脇にある背の高いスタンドによる明かりを除くと、薄暗がりに沈んでいた。

(1)アーサー・フェイン: チェルトナムでフェイン・フェイン・アンド・ランドル法律事務所を経営
(2)ヴィクトリア(ヴィッキー)・フェイン: アーサーの妻
(3)ヒューバート・フェイン: アーサーの叔父
(4)リチャード・リッチ博士: 精神科医
(5)フランク・シャープレス: ヴィッキーに好意を抱いている工兵連隊の大尉
(6)アン・ブラウニング: ヴィッキーの友人

催眠術の実験において、リチャード・リッチ博士による催眠術を受ける実験台となったのは、ヴィッキーであった。リチャード・リッチ博士の求めに応じて、ヴィッキーは、客間を一旦中座して、ホールへと出て行った。彼女が中座している間に、リチャード・リッチ博士は、これから行う催眠術の実験にかかる説明を始めた。
他の4人が見守る中、リチャード・リッチ博士は、ボール箱の中から二つの品物を取り出して、皆に見せたのである。

・小道具A:ゴム製の短剣→当日の朝、リチャード・リッチ博士が小売店ウールワース(Woolworth)で購入したもの
・小道具B:弾丸が込められた拳銃(ウェブリー38口径リヴォルバー)

その時、フランク・シャープレス大尉が、客間のドアが少し開いていることを人指し指で何度も示すと、リチャード・リッチ博士は、急ぎ足でドアへと向かい、今度はドアをしっかりと閉めた。客間からホールへと一旦出て行ったヴィッキーに、今の話は全て聞こえてしまったらしい。

ところが、それは、リチャード・リッチ博士にとって、予定通りだったようで、ホールに居るヴィッキーに話が聞こえていないことを確認すると、フランク・シャープレス大尉に拳銃を放って寄越すと、弾倉内の弾丸を調べるように言った。リチャード・リッチ博士が言う通り、フランク・シャープレス大尉が調べてみると、弾丸は全てダミーであった。つまり、小道具Aも、小道具Bも、全く危険なものではないことになる。
一方で、ホールにおいて、話の途中までしか聞こえていないヴィッキーにとって、小道具Aの短剣については、無害であることを判っているが、小道具Bの拳銃に関しては、本物であると信じていることを意味する。

そして、リチャード・リッチ博士は、こう言い放ったのである。「実験として、ヴィッキーに催眠術を施し、彼女の夫のアーサーを殺せと命令する。」と。

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