2019年2月17日日曜日

カーター・ディクスン作「九人と死で十人だ」(Nine - and Death makes Ten by Carter Dickson)–その1

東京創元社が発行する創元推理文庫「九人と死で十人だ」の表紙−
カバーイラストは ヤマモト マサアキ氏、
カバーデザインは 折原 若緒氏、フォーマットは 本山 木犀氏

「九人と死で十人だ(Nine - and Death makes Ten)」は、米国のペンシルヴェニア州(Pennsylvania)に出生して、英国人のクラリス・クルーヴス(Clarice Cleaves)との結婚後、1932年から1946年にかけて英国のブリストル(Bristol)に居を構えていた米国の推理作家で、「不可能犯罪の巨匠」とも呼ばれているジョン・ディクスン・カー(John Dickson Carr:1906年ー1977年)が、カーター・ディクスン(Carter Dickson)名義で1940年に発表した推理小説で、ヘンリー・メリヴェール卿(Sir Henry Merrivale)シリーズの長編第11作目に該る。

第二次世界大戦初期(1月19日(金))、米国ニューヨーク西20丁目の外れにある埠頭から、ホワイト・プラネット・ライン社が運航する大型客船エドワーディック号(2万7千トン級)が、物々しい厳戒態勢の下、英国の某港へ向けて出航した。本来、エドワーディック号は客船だが、今回は特別に、英国の某港へ軍需品(代価50万ポンド相当の高性能爆薬とロッキード社製の爆撃機4機)を輸送するという秘密の任務を負っていた。エドワーディック号には、船長のフランシス・マシューズ海軍中佐、事務長のグリズワルド、事務長秘書のタイラーや三等航海士のクルクシャンク等が乗り込んでいた。

正に、エドワーディック号は、洋上に浮かぶ弾薬庫のようなもので、大西洋上で狡猾なドイツ軍の潜水艦による魚雷で、いつ何時、木っ端微塵にされるのか判らないというリスクを抱えていた。ジェノヴァ(イタリア)、あるいは、リスボン(ポルトガル)経由、陸路を行けば、多少時間を要しても、英国へ安全に辿り着けるにもかかわらず、ダイナマイト同然のエドワーディック号には、何故か、一般人の乗客が9人も乗船していた。撃沈される危険を顧みないで、最速で英国に到着したいとは、揃いも揃って、何故か訳ありなのか?

エドワーディック号に乗船していた訳ありの一般人の乗客は、以下の通り。

(1)マックス・マシューズ: エドワーディック号の船長フランシス・マシューズ海軍中佐の弟で、元新聞記者
(2)ジョン・E・ラスロップ: 6人を殺害した容疑で、凶悪な恐喝犯カルロ・フェネッリを英国から米国へ護送する任務を負ったニューヨークの地方検事補
(3)エステル・ジア・ベイ: 米国生まれで、トルコ外交官(ロンドンのトルコ大使館勤務)の元夫人
(4)ジョージ・A・フーパー: 英国ブリストル出身の実業家
(5)ピエール・ブノワ: プロヴァンス地方出身のフランス狙撃隊大尉
(6)レジナルド・アーチャー: 医師
(7)ヴァレリー・チャトフォード: 若い女性
(8)ジェローム・ケンワージー: 貴族の子息

ところが、乗客名簿には、8人の名前しか記載されておらず、残りの1人の詳細は、全く不明だった。マックス・マシューズが尋ねても、兄であるエドワーディック号の船長フランシス・マシューズ海軍中佐は、言葉をにごずだけであった。

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