2017年1月29日日曜日

ロンドン サヴォイプレイス(Savoy Place)

美術館でマルク・シャガールの絵画等を鑑賞した後、
エルキュール・ポワロとヴェラ・ロサコフ伯爵夫人がタクシーに乗って美術館を後にする場面として
サヴォイプレイスが撮影に使用されている

アガサ・クリスティー作「二重の手がかり(The Double Clue)」は、短編集「ポワロ初期の事件(Poirot's Early Cases)」(1974年)に収録されている作品である。


ある日、エルキュール・ポワロは、宝石コレクターとして非常に有名なマルカス・ハードマン(Marcus Hardman)から事件の調査依頼を受ける。マルカス・ハードマンは自宅でお茶会(ティーパーティー)を開催したが、その後、金庫がこじ開けられ、中に保管してあった宝石が盗まれていることを発見したのである。マルカス・ハードマンが開催したお茶会には、以下の4人が招待されていた。

(1)ジョンストン氏(Mr Johnston)ー南アフリカの実業家
(2)ヴェラ・ロサコフ伯爵夫人(Countess Vera Rossakoff)ーロシアからの亡命貴族
(3)バーナード・パーカー(Bernard Parker)ーマルカス・ハードマンの仕事のパートナー
(4)レディー・ランコーン(Lady Runcorn)ー中年の社交家

サヴォイプレイスに設置されている
マイケル・ファラデーのブロンズ像

マルカス・ハードマンの依頼に応じて、宝石が盗まれた現場をポワロが調べた結果、金庫を開けるのに使用されたと思われる男性用手袋と「BP」というイニシャルが刻まれたシガレットケースが残されているのを発見する。シガレットケースに刻まれたイニシャル「BP」とは、バーナード・パーカーのことを指しているのだろうか?

マイケル・ファラデーのブロンズ像アップ

ポワロの訪問を受けたバーナード・パーカーは、手袋が自分の物であることを認めるが、シガレットケースについては、自分の物ではないと強く否定する。
その後、ロサコフ伯爵夫人の訪問を受けたポワロが、その日の夜、ロシア語文法に関する本を読みふける姿をアーサー・ヘイスティングス大尉は見かける。その翌日、マルカス・ハードマン宅を訪れたポワロは、「宝石を盗んだ犯人が判明しました。」と告げる。マルカス・ハードマンの自宅金庫から宝石を盗んだ真犯人は、お茶会の招待客4人のうち、一体、誰なのか?

工学技術協会が入居している建物「サヴォイプレイス」を
東側から西へ向かって眺めたところ

英国の TV 会社 ITV1 で放映されたポワロシリーズ「Agatha Christie's Poirot」の「二重の手がかり」(1991年)の回では、宝石コレクターであるマルカス・ハードマンより彼の自宅から盗難された宝石の捜索依頼を受けたものの、何故か、ポワロは気乗りしない様子を見せる。そこで、アーサー・ヘイスティングス大尉とミス・フェリシティ・レモンの二人が、ポワロに代わって、マーカス・ハードマンがパーティーに招待した客の中から、宝石を盗んだ犯人を見つけ出そうと、容疑者の一人である南アフリカの実業家マーティン・ジョンストンがオフィスを構えるビルを訪ねる。一方、美術館でマルク・シャガール(Marc Chagall:1887年ー1985年)の絵画等を鑑賞したポワロとヴェラ・ロサコフ伯爵夫人は、美術館の外へ出ると、タクシーに乗って、美術館を後にする。これらの場面は、サヴォイプレイス(Savoy Place)において撮影されている。

工学技術協会が入居している建物「サヴォイプレイス」を
西側から東へ向かって見たところ

フランスに居住するサヴォイ家のピーター伯爵(Peter II, Count of Savoy:1203年ー1268年)は、姪が英国王ヘンリー3世(Henry III:1207年ー1272年 在位期間:1216年ー1272年)と結婚したことに伴い、英国に移住した。1246年、彼はヘンリー3世からリッチモンド伯爵(Earl of Richmond)に叙せられて、現在のストランド通り(Strandー2015年3月29日付ブログで紹介済)とテムズ河(River Thames)の間の土地を与えられた。1263年、彼はそこにサヴォイパレス(Savoy Palace)を建設したのである。それに因んで、この一帯にはサヴォイの名を冠した通りが多くある。

ヴィクトリアエンバンクメントガーデンズ内の風景

サヴォイプレイスは、ロンドンの中心部シティー・オブ・ウェストミンスター区(City of Westminster)のストランド地区(Strand)内にあり、地下鉄エンバンクメント駅(Embankment Tube Station)から地下鉄テンプル駅(Temple Tube Station)の前を通り、地下鉄ブラックフライアーズ駅(Blackfriars Tube Station)へ向かって、テムズ河沿いに東へ延びるヴィクトリアエンバンクメント通り(Victoria Embankment)とトラファルガースクエア(Trafalgar Square)からシティー(City)へ向かって東に延びるストランド通りに南北を挟まれており、ヴィクトリアガーデンズ(Victoria Embankment Gardens)の北側に位置している。

ポワロとヴェラ・ロサコフ伯爵夫人がタクシーで
美術館を後にする場面に使用されたサヴォイプレイス

1268年にサヴォイ家のピーター伯爵が死去した後、サヴォイプレイスは病院、牢獄、そして、英国陸軍の兵舎等、様々な変遷を辿る。

サヴォイプレイスを飾る植栽

現在、サヴォイプレイスの一番東側には、通り名と同じ「サヴォイプレイス」という建物が建っており、1909年以降、工学技術協会(Institution of Engineering and Technology : IET)の本部が入居している。また、建物の前には、アイルランド人の彫刻家ジョン・ヘンリー・フォリー(John Henry Foley:1818年ー1874年)が制作した英国の化学者/物理学者で、電磁気学や電気化学の分野での貢献で有名なマイケル・ファラデー(Michael Faraday:1791年ー1867年)のブロンズ像が設置されている。

サヴォイプレイス側に面したサヴォイホテルの入口

また、サヴォイプレイスの中間辺りには、サヴォイホテル(Savoy Hotel)が建っているが、詳細については、2016年6月12日付ブログを御参照いただきたい。ちなみに、サヴォイホテルは、アガサ・クリスティー作「愛国殺人(→英国での原題は「One, Two, Buckle My Shoe(いち、にい、私の靴の留め金を締めて)」であるが、日本でのタイトルは米国版「The Patriotic Murders」をベースにしている)」(1940年)において、歯科医が使用する麻酔剤の過剰投与により、アムバライオティス氏(Mr Amberiotis)が死亡しているのが発見された場所である。

南アフリカの実業家マーティン・ジョンストンが
構えるオフィスは、ニューアデルフィビル内にある
設定になっている―
アーサー・ヘイスティングス大尉と
ミス・フェリシティ・レモンの二人がここを訪れる

サヴォイプレイスの一番西側には、ニューアデルフィビル(New Adelphi Building)が建っているが、ここに南アフリカの実業家マーティン・ジョンストンがオフィスを構えている設定となっている。ITV1 で放映された「Agatha Christie's Poirot」の「盗まれたロイヤルルビー(The Theft of the Royal Ruby)」(1991年)では、ファールーク王子(Prince Farouk)が宿泊するホテルとして撮影に使用されている。こちらに関しては、2016年1月10日付ブログを御参照願いたい。

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