2016年11月20日日曜日

ロンドン カールトンハウステラス8番地(8 Carlton House Terrace)

カールトンハウステラス8番地の建物全景

アガサ・クリスティー作「厩舎街(ミューズ)の殺人(Murder in the Mews)」(1937年)は、ガイ・フォークス ナイト(Guy Fawkes Night)に該る11月5日、打ち上げられる花火がロンドンの夜空を照らす中、物語が始まる。
「厩舎街の殺人」は、1937年に出版された中編集「厩舎街の殺人」(英国版)/「死人の鏡(Dead Man's Mirror)」(米国版)に収められている。

「厩舎街(ミューズ)」とは、厩舎(うまや)から表通りまでの路地のことを指している。ロンドン市内では、厩舎だった建物が後にフラット等の住居に改装され、人が住むようになったが、「ミューズ」という名は市内各所にそのまま残り、以前、厩舎が建ち並ぶ路地であったことを今に伝えている。


夕食を終えて、静かな脇道のバーズリーガーデンミューズ(Bardsley Garden Mews)を歩くスコットランドヤードのジャップ主任警部(Chief Inspector Japp)は、隣りを歩くエルキュール・ポワロに次のように話しかける。「殺人を行うには、うってつけの晩だ。今夜なら、たとえピストルを撃ったとしても、誰にも聞こえやしない。」と...
全くの偶然ではあるが、彼らが歩いていたバーズリーガーデンミューズにおいて、事件が発生する。若い未亡人であるバーバラ・アレン夫人(Mrs. Barbara Allen)が拳銃自殺をしたのである。しかし、彼女には自殺する理由が見当たらない上に、現場には自殺と断定するには疑わしい点が多かった。何故ならば、ピストルは彼女の右手の中にあったものの、握られていた訳ではなかった。不自然なことに、ピストルの弾丸は、彼女の頭の右側からではなく、左側から入っていたのである。つまり、何者かが彼女を殺害した後で、自殺に見せかけようとしたのだ!これを他殺と考えたジャップ主任警部は、ポワロに事件の捜査協力を依頼する。


容疑者は以下の3名。
一人目は、アレン夫人の家に同居していたミス・ジェーン・プレンダーリース(Miss Jane Plenderleith)。事件発生当時、彼女は遠く離れた田舎に居たことが判っているが、何故か、アレン夫人の家の階段の下にある戸棚の中を、ポワロやジャップ主任警部に見せたがらない態度をとる。実際、戸棚の中にあったのは、ゴルフクラブ、傘と小型のスーツケースだけだった。
二人目は、アレン夫人と婚約していた今売り出し中の下院議員チャールズ・レイヴァートンーウェスト(Charles Laverton-West)。事件発生当時における彼のアリバイはハッキリしていない。
三人目は、アレン夫人の知人ユースタス少佐(Major Eustace)。事件発生当時、彼はアレン夫人の家から出て来るところを目撃されている上、アレン夫人から多額の現金を強請っていたようである。
果たして、アレン夫人を射殺した真犯人は誰なのか?

カールトンハウステラス8番地の建物入口―
TV版のポワロシリーズでは、ポワロとジャップ主任警部が
ここを事務所とする下院議員チャールズ・レイヴァートンーウェストを訪ねる

英国のTV会社 ITV1 で放映された「Agatha Christie's Poirot」シリーズの「厩舎街の殺人」(1989年)の回では、ポワロとジャップ主任警部が下院議員チャールズ・レイヴァートンーウェストの事務所を訪ねて、彼にアレン夫人が死亡したことを告げるが、その際、カールトンハウス8番地(8 Carlton House Terrace)の建物が撮影に使用されている。


カールトンハウステラス8番地は、シティー・オブ・ウェストミンスター区(City of Westminster)のセントジェイムズ地区(St. James's)内にあり、トラファルガースクエア(Trafalgar Square)からセントジェイムズ宮殿(St. James's Palace)へ向かって西に延びるパル・マル通り(Pall Mallー北側)とチャリングクロス交差点(Charing Cross)からバッキンガム宮殿(Buckingham Palace)へ向かって西に延びるザ・マル通り(The Mallー南側)に挟まれたエリアに位置している。
カールトンハウステラス(Carlton House Terrace)自体については、2015年10月24日付ブログで御参照いただきたい。
カールトンハウステラス8番地の建物は、カールトンハウステラスに沿って建つテラス式ハウスのうち、西棟の東から2番目に該り、パル・マル通りからリージェントストリート(Regent Street)が始まって北上するところにあるウォーターループレイス(Waterloo Place)に近い。

カールトンハウステラス8番地から見える景色―
奥に見える建物は「アセニアムクラブ(Athenaeum Club)」で、
シャーロック・ホームズシリーズの作者である
サー・アーサー・コナン・ドイルも会員であった

カールトンハウステラス8番地の建物は、以前、ドイツ大使館が使用していたが、現在、「王立協会(Royal Society)」が入居している。
「王立協会」の正式名は「The President, Council, and Fellows of the Royal Society of London for Improving Natural Knowledge」で、現存する最も古い科学学会で、英国王チャールズ2世(Charles II:1630年ー1685年 在位期間:1660年ー1685年)の勅許を得て、1660年11月に設立されている。


アガサ・クリスティーの原作では、ピストルの弾丸が頭の左側から入っているにもかかわらず、アレン夫人はピストルを右手に握って死亡していたため、自殺ではなく、他殺ではないかと疑われた。一方。TV版のポワロシリーズでは、アレン夫人はピストルを左手に握って死亡しており、ピストルの弾丸が頭の左側から入っているので、死亡状況としては、他殺を疑う要因は一見ない。ストーリー的には、ポワロとジャップ主任警部の二人は、アレン夫人が実際に右利きだったのか、それとも左利きだったのかを調査することで、話が進んでいく。

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