2016年4月16日土曜日

ロンドン マクロードズミューズ/オーステンミューズ(McLeod's Mews / Osten Mews)―コールフィールドガーデンズ13番地(13 Caulfield Gardens)の候補地

コールフィールドガーデンズの最有力候補地であるマクロードズミューズ/オーステンミューズ

サー・アーサー・コナン・ドイル作「ブルース・パーティントン型設計図(The Bruce-Partington Plans)」では、1895年11月の第3週の木曜日、ベーカーストリート221Bのシャーロック・ホームズの元を彼の兄であるマイクロフト・ホームズ(Mycroft Holmes)が、スコットランドヤードのレストレード警部(Inspector Lestrade)を伴って、緊急の要件で訪れるところから、物語が始まる。
マイクロフトによると、同じ週の火曜日の朝、ウールウィッチ兵器工場(Woolwich Arsenal)に勤めるアーサー・カドガン・ウェスト(Arthur Cadogan West)が地下鉄オルドゲート駅(Aldgate Tube Station)の線路脇で死体となって発見された、とのことだった。前日の月曜日の夜、彼は婚約者のヴァイオレット・ウェストベリー(Violet Westbury)をその場に残したまま、突然霧の中を立ち去ってしまったと言う。そして、翌朝、死体となった彼のポケットから、英国政府の最高機密で、ウールウィッチ兵器工場の金庫室内に厳重に保管されていたはずの「ブルース・パーティントン型潜水艦」の設計図10枚のうちの7枚が出てきた。ところが、一番重要な残り3枚はどこにもなかったのである。


マイクロフトは、シャーロックに対して、(1)新型潜水艦の設計図が何故持ち出されたのか、(2)アーサー・カドガン・ウェストは本件にどのように関与しているのか、(3)彼はどのようにして殺されて、現場まで運ばれたのか、そして、(4)残りの3枚の設計図は一体どこへ消えたのかを早急に調べるよう、強く要請した。そこで、シャーロックは、ワトスンを連れて、地下鉄オルドゲート駅へと向かった。
地下鉄オルドゲート駅での調査を終えた後、ワトスンと一緒にウールウィッチへ向かう途中、シャーロックはロンドンブリッジ駅(London Bridge Station)に立ち寄って、マイクロフト宛に電報を打ち、「英国に居る外国のスパイや国際的なエージェントの完全な一覧表を、彼らの住所付きで、ベーカーストリートへ届けてくれ。」と依頼した。

マクロードズミューズ/オーステンミューズ手前の
エンペラーズゲート(その1)

シャーロックが地下鉄オルドゲート駅やウールウィッチでの調査を終えて、ワトスンと一緒にベーカーストリート221Bに戻ると、依頼通り、マイクロフトからの手紙が待っていた。彼の手紙によると、こんな大それた事件を手掛ける人物は、以下の3人しか居ない、と言う。
(1)ウェストミンスターのグレイトジョージストリート13番地に住むアドルフ・メイヤー(Adolph Meyer - 13 Great George Street, Westminster)
(2)ノッティングヒルのキャンプデンマンションズに住むルイス・ラ・ロティエール(Louis La Rothiere - Campden Mansions, Notting Hill)
(3)ケンジントンのコールフィールドガーデンズ13番地に住むヒューゴ・オーバーシュタイン(Hugo Oberstein - 13 Caulfield Gardens, Kensington)
シャーロックはロンドンの地図を熱心に眺めた後、ワトスンに「1、2時間で戻って来る。」と言い残すと、偵察に出かけて行った。午後9時過ぎにシャーロックからの手紙が届けられ、ワトスンにケンジントンのグロスターロード(Gloucester Road)にあるゴルジーニのレストラン(Goldini's Restaurant)へ今直ぐ来るよう、指示があった。薄暗い霧の中、シャーロックから指示された住所へ向かって、ワトスンは馬車を走らせたのである。ワトスンが到着すると、シャーロックは偵察の結果を話し始めた。

エンペラーズゲート(その2)

シャーロックは、地下鉄グロスターロード駅(Gloucester Road Tube Station)から調査を始め、コールフィールドガーデンズ(Caulfield Gardens)の裏階段の窓が線路に面していることから、ヒューゴ・オーバーシュタインが今回の事件の黒幕と結論づけたのである。そして、彼はワトスンを誘うと、コールフィールドガーデンズ13番地へと向かった。

エンペラーズゲート(その3)

「コールフィールドガーデンズまで半マイル程あるが、急ぐ必要はない。歩いて行こう。」と、彼(ホームズ)は言った。
「頼むから、道具類を落とさないでくれよ。怪しい男ということで、君が逮捕されたら、極めて不幸な事態になりかねないからな。」
コールフィールドガーデンズは、ロンドンのウェストエンドにおいて、ヴィクトリア朝中期に流行した平らな面をし、支柱毎に分けられた家並みの一つであった。隣りの家では、子供達の集まりが行われているようだった。というのも、子供達のはしゃぎ声とピアノの騒々しい音が夜間響いていたのである。霧はまだ深く垂れ込めており、上手い具合に私達の姿を隠してくれた。ホームズは手提げランプに火を灯すと、大きな扉を照らした。
「この扉から入るのは無理だな。」と、彼は言った。「この扉には、鍵がかかっている上に、閂がかけられている。半地下から侵入した方がいい。職務熱心な警官の邪魔が入った時でも、逃げるのに使えそうなアーチ道(=屋根付き通路)が向こうにある。ワトスン、手を貸してくれ。僕も君と同じようにする。」

エンペラーズゲート(その4)

'It is nearly half a mile, but there is no hurry. Let us walk,' said he.
'Don't drop the instruments, I beg. Your arrest as a suspicious character would be a most unfortunate complication,'
Caulfield Gardens was one of those lines of flat-faced, pillared, and portioned houses which are so prominent a product of the middle Victorian epoch in the West End of London. Next door there appeared to be a children's party, for the merry buzz of young voices and the clatter of a piano resounded through the night. The fog still hung about and screened us with its friendly shade. Holmes had lit his lantern and flashed it upon the massive door.
'This is a serious proposition,' said he. 'It is certainly bolted as well as locked. We would do better in the area. There is an excellent archway down yonder in case a too zealous policeman should intrude. Give me a hand, Watson, and I'll do the same for you.'

エンペラーズゲートからマクロードズニューズへ入ったところ

ホームズが今回の事件の黒幕だと疑うヒューゴ・オーバーシュタインが住むコールフィールドガーデンズは、残念ながら、ロンドンの住所表記上、存在しておらず、架空の住所である。当時、出版業界にジェイムズ・コールフィールド(James Caulfield:1764年ー1826年)がおり、彼の子供も出版社を経営していたようなので、コナン・ドイルは、彼らから場所の名前を採ったのかもしれない。

マクロードズミューズを北へ進む―
左側は地下鉄サークルラインが通る線路

それでは、コールフィールドガーデンズに該当する場所は、ロンドン内に存在するのか?コールフィールドガーデンズの条件は以下の通り。
(1)ケンジントン地区内にあること
(2)ホームズが地下鉄グロスターロード駅から調査を始めて、コールフィールドガーデンズに辿り着いているため、同駅の近辺に存在していると思われること
(3)ホームズがワトスンに対して、「コールフィールドガーデンズ13番地の裏階段が地下鉄の線路に面している。」と説明していること
(4)また、ホームズが「コールフィールドガーデンズの辺りで、大きな鉄道と交差している関係で、地下鉄が頻繁に数分間停車している。」と言ったこと
(5)更に、ホームズがワトスンと一緒にコールフィールドガーデンズへ向かう際、「地下鉄グロスターロード駅から半マイル程ある。」と話していること

マクロードズミューズを更に北へ進んだところ

上記の条件を総合して考えると、マクロードズミューズ(McLeod's Mews)/オーステンミューズ(Osten Mews)がその候補地として最適かと思われる。

デパートのハロッズ(Harrods)、ヴィクトリア&アルバート博物館(Victoria and Albert Museum)や自然史博物館(Natural History Museum)等の前を通って西方面へ延びるクロムウェルロード(Cromwell Road)があり、地下鉄グロスターロード駅の前を通るグロスターロードが南北に横切る。クロムウェルロードを横切ったグロスターロードの北側部分の一本西側にグレンヴィルプレイス(Grenville Place)がある。ここからエンペラーズゲート(Emperor's Gate)を通って、更に西へ進むと、そこにマクロードズミューズ/オーステンミューズが位置している。

マクロードズミューズの奥にあるオーステンミューズ内に建つ住居

両通りとも、ケンジントン&チェルシー王立区(Royak Borough of Kensington and Chelsea)のケンジントン地区(Kensington)内にあるので、(1)の条件を満たす。また、地下鉄グロスターロード駅から徒歩圏内なので、(2)と(5)の条件も充足する。マクロードズミューズ/オーステンミューズの横を地下鉄の線路が通っているので、(3)の条件も満たされる。更に、地下鉄グロスターロード駅を出た地下鉄は、マクロードズミューズ/オーステンミューズの手前で二手に分かれ、マクロードズミューズ/オーステンミューズ方面にはサークルライン(Circle Line)が、西方面にはディストリクトライン(District Line)/ピカデリーライン(Piccadilly Line)が進むので、「大きな鉄道と交差していること」と「その地点で、地下鉄が頻繁に数分間停車していること」の通りではないものの、(4)の条件も概ね充足していると言える。

オーステンミューズを画面右奥に進むと、
エンペラーズゲートへ出ることが可能

マクロードズミューズ/オーステンミューズの他にも、地下鉄の線路が地上に出ている箇所はあるが、地下鉄ハイストリートケンジントン駅(High Street Kensington Tube Station)の近くになってしまい、地下鉄グロスターロード駅から北側へかなり離れてしますので、(2)と(5)の条件を満たさなくなってしまう。また、その辺りだと、サークルラインだけの運行となるので、(4)の条件も充足されなくなる。

よって、マクロードズミューズ/オーステンミューズがコールフィールドガーデンズの候補地として最有力だと言える。

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