2015年11月8日日曜日

ロンドン BBCブロードキャスティングハウス(BBC Broadcasting House)

BBCブロードキャスティングハウスのオリジナル部分

アガサ・クリスティー作「戦勝記念舞踏会事件(The Affair at the Victory Ball)」(1951年ー「負け犬他(The Under Dog and Other Stories)」に収録)では、コロッソスホールにおいて開催されていた戦勝記念の仮装舞踏会で惨劇が起きる。仮装舞踏会に来ていた6人組の一人、若きクロンショー子爵(Viscount Cronshaw)が心臓をナイフで刺されて殺されているのが発見されたのである。彼はイタリアの即興喜劇(commedia dell'arte)の道化役(Harlequin)の仮装をしていたのだが、彼の死体が発見された時、死後硬直が既にかなり進んでいた。

BBCブロードキャスティングハウスの外壁に架けられているレリーフ

また、クロンショー子爵のフィアンセと噂されている女優のココ・コートニー(Miss "Coco" Courtenay)がチェルシー地区(Chelsea)にある彼女のフラットで死亡しているのを翌朝発見された。コカインの過剰摂取による薬物中毒が原因であった。ココ・コートニーも前日仮装舞踏会に出席していた6人組の一人であったが、舞踏会出席者によると、当夜、クロンショー子爵と彼女は何故か喧嘩していたと言う。そのため、彼女は舞踏会を途中退席し、6人組の一人、夫妻で出席していた舞台俳優のクリストファー・デイヴィッドソン(Mr Christopher Davidson)に頼んで、自分のフラットへ連れ帰ってもらっていたのだ。検死解剖の結果、彼女は常習的な薬物中毒者であることも判明した。
動機、アリバイや2つの事件の関連性等、全てが謎めいており、自分の手に余ると考えたスコットランドヤードのジャップ主任警部(Chief Inspector Jaap)はエルキュール・ポワロに捜査協力を求めるのであった。

BBCブロードキャスティングハウスのオリジナル部分の上部

英国のTV会社ITV1が放映していたポワロシリーズ「Agatha Christie's Poirot」の「戦勝記念舞踏会事件」(1991年)の回では、BBCブロードキャスティングハウス(BBC Broadcasting House)が物語の舞台として何度か使用されている。
一番最初は、ココ・コートニーとクリストファー・デイヴィッドソンがここでラジオドラマの録音をしている場面で出てくる。そして、そこへ仮装したクロンショー子爵が伯父達を引き連れて、建物の玄関口へココとクリストファーを迎えにやって来る。
二番目は、戦勝記念舞踏会にヘイスティングス大尉と一緒に来ていて、クロンショー子爵の殺害事件に偶然居合わせたポワロが、前夜の様子をクリストファーにここで尋ねていた時に、ココが自宅で薬物中毒のため死亡しているという知らせが飛び込んでくる。
そして、最後は、全国へのラジオ放送の最中、関係者を前にして、ポワロが事件の真相を説明し、殺害犯を名指しする大一番の場面でも、ここが舞台として使用されているのである。

画面左手がオリジナル部分で、画面右手が John Peel Wing

BBCブロードキャスティングハウスは、ロンドンの中心部オックスフォードサーカス(Oxford Circus)の北側、リージェンツパーク(Regents Park)へ向かって北上するリージェントストリート(Regent Street)が名前を変えるランガムプレイス(Langham Place)とポートランドプレイス(Portland Place)の中間辺りに位置している。通りを挟んだ反対側には、サー・アーサー・コナン・ドイル作「四つの署名(The Sign of the Four)」や「ボヘミアの醜聞(A Scandal in Bohemia)」等、シャーロック・ホームズシリーズにおいて何度か舞台として使用されたランガムホテル(Langham Hotel)が建っている。

画面奥がオリジナル部分と John Peel Wing を接続する新築部分

BBCブロードキャスティングハウスの建設は1928年11月21日に始まり、ここで最初のラジオ放送が行われたのは1932年3月15日であるが、建物自体がオフィシャルにオープンしたのは、2ヶ月後の同年5月15日とのこと。
建物は、建設当時に流行したアールデコスタイルで、地下3階地上9階建となっている。

画面右手がオリジナル部分で、
画面左手がオリジナル部分と John Peel Wing を接続する新築部分

その後、BBCの関係各機能を統合するため、2回にわたって大規模な改修工事が実施されている。
1回目は、オリジナルの建物の東側に新たなウィングが建設され、2005年に完成し、2006年4月20日に女王エリザベス2世(Queen Elizabeth Ⅱ)により女王の80歳を祝う行事の一環で除幕された。なお、内装設備工事が終わったのは、2007年である。完成当初は、「エグトンウィング(Egton Wing)」と呼ばれたが、2012年、BBCラジオ1(BBC Radio 1)のディスクジョッキーだった人物の名前にちなんで、「ジョン・ピール・ウィング(John Peel Wing)」に変更された。
2回目は、オリジナルの建物の裏手にもウィングが建設され、オリジナルの建物と東側のウィングを接続して、一つの建物となった。工事は2010年に竣工して、2011年にBBC側に引き渡されている。
これら2回の工事を経て、BBCラジオ各局やBBCワールドニュース等、多くの関係機能がこのBBCブロードキャスティングハウスに集約されることになり、現在に至っている。
オリジナルの建物はグレードⅡ(Grade Ⅱ)に指定され、イングリッシュヘリテージ(English Heritage)が管理している。

BBCブロードキャスティングハウスの外壁に設置されている
プロスペローとエアリエルの彫像

BBCブロードキャスティングハウスの外壁には、英国の劇作家で詩人のウィリアム・シェイクスピア(William Shakespeare:1564年ー1616年)作「テンペスト(The Tempest)」を題材にした彫像が設置されている。彫像の2人は、主人公のプロスペロー(Prospero - 弟によってミラノ大公の地位を奪われ、絶海の孤島に追放されたが、そこで魔法と学問を研究している)とエアリエル(Ariel - 空気の精)である。エアリエルが選ばれたのは、ラジオの電波が空気を通って伝わるからではないかと言われている。

BBCブロードキャスティングハウス側から見た
教会 All Souls Langham Place

TVシリーズのクリストファー・デイヴィッドソンは、俳優のナサニエル・パーカー(Nathaniel Parker:1962ン年ー)が演じている。彼は、BBCで放映された「リンリー警部捜査ファイル(The Inspector Lynley Mysteries)」(2001年ー2008年)において、主人公であるスコットランドヤードのトーマス・リンリー警部(Inspector Thomas Lynley)としても活躍している。リンリー警部は、第8代アッシャートン伯爵(8th Earl of Asherton)の爵位を有し、オックスフォードに進んだエリートである。彼は、労働者階級出身の女性巡査部長バーバラ・ヘイバース(Sergeant Barbara Havers)をパートナーにして、異なる環境や性格等を乗り越えて、事件の捜査に挑んでいく。

リンリー警部シリーズは、パイロット版以降、第6シリーズ(計23話)まで制作されている。当初は、原作者であるスーザン・エリザベス・ジョージ(Susan Elizabeth George:1949年ー)の小説をベースにしているが、第3シリーズの途中からは、BBCのオリジナル作品である。

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