2015年11月14日土曜日

ロンドン ゴドルフィンストリート16番地(16 Godolpfin Street)

アビンドンストリート側からグレイトカレッジストリートを望む

サー・アーサー・コナン・ドイル作「第二のしみ(The Secon Stain)」では、秋のある火曜日の朝、英国首相であるベリンガー卿(Lord Bellinger)と欧州問題担当大臣(Secretary for European Affairs)のトレローニー・ホープ(Trelawney Hope)が、ある極秘の用件で、ベーカーストリート221Bのシャーロック・ホームズの元を訪ねて来る。
彼らの説明によると、ある非常に重要な手紙が入った封筒が盗まれたと言う。問題の封筒は、欧州問題担当大臣の自宅寝室の鏡台に置いてある鍵のかかった書類箱内に保管されていたのだが、今朝、それが無くなっていたのである。首相曰く、この手紙を無事に取り戻せるかどうかによって、欧州全体の平和が大きく左右される、とのことだった。
首相と欧州問題担当大臣の二人が帰ると、ホームズはジョン・ワトスンに対して、「こんな大それたことができるのは、僕が知る限りでは、三人だけで、エドアルド・ルーカス(Eduardo Lucas)がその一人だ。」と話す。ワトスンが「新聞記事によると、エドアルド・ルーカスは昨夜自宅で殺害されたようだ。」と告げると、ホームズは非常に驚くのであった。


ウェストミンスター殺人事件
昨夜、ゴドルフィンストリート16番地において、不可解な事件が発生した。現場は、国会議事堂のヴィクトリアタワーすぐ近く、テムズ河とウェストミンスター大寺院の間にあり、古めかしく、そして、辺りから隔絶された18世紀の家々が建ち並ぶ通りの一つである。この小さいながらも洗練された邸宅に、エドアルド・ルーカス氏はここ数年住んでいた。彼は魅力的な性格をしており、その上、我が国における最も優れたアマチュアのテノール歌手の一人であるという正にその通りの評判によって、彼は社交界では非常に有名であった。ルーカス氏は独身の34歳で、彼の世帯構成は、老家政婦のプリングル夫人と従者のミットンの二人だけだった。家政婦は家の最上階で早めに就寝する習慣であった。また、従者はその晩ハマースミスの友人のところへ出かけて不在だった。よって、午後10時以降、ルーカス氏は家に一人で居たのである。その間に何が起きたのかについては、まだ判っていないが、午後11時45分にバレット巡査がゴドルフィンストリートを巡回した際、16番地の戸口が少し開いているのに気がついた。そこで、彼は扉をノックしたが、何の返事もなかった。正面の部屋に灯りが点いているのが判ったので、彼は廊下を進み、もう一度ノックしたものの、応答がなかった。それかれ、彼はドアを押し開いて、その部屋へ入った。その部屋の内は、手に負えない程乱れた状態で、家具は全て片側に寄せられ、部屋の中央には倒れた椅子が一脚あった。椅子の近くには、その椅子の一本の足をまだ握ったままの状態で、その家の不幸な住民であるルーカス氏が横たわっていたのである。彼は心臓を刺されて、即死だったものと思われる。彼の殺害に使用されたナイフは、湾曲したインドの短剣で、ある壁に飾ってあった東洋の武器の戦利品の一つであった。強盗が犯行の目的ではなかったようだ。何故ならば、その部屋にあった貴重品を持ち去ろうとした様子がなかったからである。エドアルド・ルーカス氏は非常に有名で、人気があったので、彼の乱暴で謎に満ちた死は、各方面の友人達に悲痛な関心と強烈な同情を引き起こすだろう。

画面手前がグレイトカレッジストリート、
画面中央右手がアビンドンストリートガーデンズ、画面中央左手がザ・カレッジガーデン、
画面奥が国会議事堂のヴィクトリアタワー

Murder in Westminster
A crime of mysterious character was committed last night at 16 Godolphin Street, one of the old-fashioned and secluded rows of eighteenth-century houses which lie between the river an the Abbey, almost in the shadow of the great tower of the House of Parliament. This small but select mansion has been inhabited for some years by Mr Eduardo Lucas, well known in society circles both on account of his charming personality and because he has the well-deserved reputation of being one of the best amateur tenors in the country. Mr Lucas is an unmarried man, thirty-four years of age, and his establishment consists of Mrs Pringle, an elderly housekeeper, and of Mitton, his valet. The former retires early and sleeps at the top of the house. The valet was out for the evening, visiting a friend at Hammersmith. From ten o'clock onwards Mr Lucas had the house to himself. what occurred during that time has not yet transpired, but at a quarter to twelve Police-constable Barrett, passing along Godolphin Street, observed that the door of Number 16 was ajar. He knocked, but received no answer. Perceiving a light in the front room, he advanced into the passage and again knocked, but without reply. He then pushed open the door and entered. The room was in a state of wild disorder, the furniture being all swept to one side, and one chair lying on its back in the centre. Beside this chair, and still grasping one of its legs, lay the unfortunate tenant of the house. He had been stabbed to the heart and must have died instantly. The knife with which the crime had been committed was a curved Indian dagger, plucked down from a trophy of Oriental arms which adorned one of the walls. Robbery doe not appear to have been the motive of the crime, for there had been no attempt to remove the valuable contents of the room. Mr Eduardo Lucas was so well known and popular that his violent and mysterious fate will arouse painful interest and intense sympathy in a widespread circle of friends.

リトルカレッジストリートから見たグレイトカレッジストリート

ホームズが、欧州問題担当大臣の自宅から問題の手紙を盗んだ容疑者の一人と見做したエドアルド・ルーカスが住んでいたゴドルフィンストリート16番地(16 Godolphin Street)は、現在の住所表記上、ロンドン中心部には存在しておらず、残念ながら、架空の住所である。

リトルカレッジストリートの角から
グレイトカレッジストリートの奥を望む

パーラメントスクエア(Parliament Square)から国会議事堂(House of Parliament)に沿って南へ下るアビンドンストリート(Abingdon Street)を進み、左手にヴィクトリアタワーガーデンズ(Victoria Tower Gardens)、右手にアビンドンストリートガーデンズ(Abingdon Street Gardens)が見えて来たところで右折すると、グレイトカレッジストリート(Great College Street)という細い通りへ入る。
このグレイトカレッジストリートであるが、
・国会議事堂のヴィクトリアタワー(Victoria Tower)のすぐ近くであること
・ウェストミンスター大寺院(Westminster Abbey)の裏手に該り、コナン・ドイルの原作で言及されているように、「テムズ河(River Thames)とウェストミンスター大寺院の間」にあると言えること
・通りの北側は、(1)アビンドンストリートガーデンズ、そして、(2)ザ・カレッジガーデン(The College Garden)を囲む壁、更に、(3)ウェストミンスター学校(Westminster Schoolーパブリックスクール)と続くが、通りの南側は古めかしい建物が建ち並び、国会議事堂、ウェストミンスター大寺院や首相官邸を初めとする英国政府関係各機関等が入居する建物が近くにあるとは思えない程、閑静であり、辺りから隔絶されていること
等を考慮すると、ゴドルフィンストリートの候補地としての要件をほぼ充足していると言える。

グレイトカレッジストリートの奥

ウェストミンスター学校の正式名は「The Royal College of St. Peter in Westminster」で、その設立は14世紀後半まで遡る。この学校の名に因んで、この通りは「グレイトガレッジストリート」と呼ばれるようになったと思われる。
ちなみに、グレイトカレッジストリートの中央辺りに南北へ延びる短い通りが存在しているが、この通りは「リトルカレッジストリート(Little College Street)」と呼ばれている。

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