2015年4月19日日曜日

シャーロック・ホームズ / 死者の遺言書(Sherlock Holmes / The Will of the Dead)


シャーロック・ホームズ / 死者の遺言書
(Sherlock Holmes / The Will of the Dead)
(著者)   George Mann 2013年
(出版) Titan Books  2013年

1889年10月後半のある夜、ベーカーストリート221Bに住むシャーロック・ホームズの元をピーター・モーハム(Peter Maugham)が相談に訪れる。ピーターの説明によると、2日前の夜中、彼の伯父であるセオバルド・モーハム卿(Sir Theobald Maugham)が自宅の階段から転落して、死亡したというのだ。モーハム卿の屋敷には、3人の甥ジョーゼフ(Joseph)、オズワルド(Oswald)とピーター、そして、姪アナベル(Annabel - ジョーゼフの妹)が同居していた。モーハム卿は、自分が死亡した場合、遺産を4人で均等に分配するよう定めた遺言書を作成していたのだが、彼の死後、彼の顧問弁護士であるトビアス・エドワード(Tobias Edward)がモーハム卿の部屋を探したにもかかわらず、肝心の遺言書が見当たらなかった。生憎と、モーハム卿の希望で、顧問弁護士のエドワードは、遺言書の写しを保管していなかったのである。このままの状況では、モーハム卿の遺言書は存在していないことになり、その場合、モーハム卿の血縁者の中で最年長であるジョーゼフがモーハム卿の遺産を一人で全て相続することになるのだ。
話の内容に興味を覚えたホームズは、ジョン・ワトスンを伴って、スコットランドヤードのバインブリッジ警部(Inspector Bainbridge)を訪ねて、事情を説明し、遺体安置所に保管されているモーハム卿の遺体を調べたところ、事故による転落ではなく、人為的な力が加わった転落である可能性が高まった。つまり、モーハム卿の転落死は他殺であ様相が強まったのである。
時をほぼ同じくして、ハンス・ゲルベル(Hans Gerber)と名乗る人物からの手紙がジョーゼフ、オズワルド、ピーターとアナベルの元に次々に届く。ハンス・ゲルベルの母親はモーハム卿の妹で、一族の意に沿わない相手(ドイツ人)と結婚したため、モーハム卿が彼女を勘当、つまり、遺産相続の対象者から除外してしまったのである。仮にハンス・ゲルベルが本人の言う通りだった場合、彼がモーハム家一族の最年長者となり、モーハム卿の遺産全てを一人で相続できる権利を有することになる。
モーハム卿の葬儀に参列したワトスンは、モーハム卿の埋葬時、参列者を見守る人々の中にハンス・ゲルベルらしき人物を見かけて、後を追うが、途中で彼を見失ってしまう。
本来であれば、モーハム卿の遺産の正当な相続人であるジョーゼフ、オズワルド、ピーターとアナベルの4人をハンス・ゲルベルの影が覆いつつある中、ピーターが自宅で何者かに殺害される。犯行現場に残されていたタバコ等の遺留品から、ハンス・ゲルベルが殺害犯として疑われるのであった。果たして、モーハム卿が作成した遺言書はどこに消えたのか?ピーターを殺害したのは、一体誰なのか?そして、ハンス・ゲルベルは、本当に本人の言う通りの人物なのか?
ロンドン市内では、もう一つの事件が進行していた。夜毎、金属の装甲をまとった自動機械人間の集団が市内に出没して、宝飾品や貴金属等の強奪を繰り返していたのである。果たして、ホームズの打つ手は如何に?


読後の私的評価(満点=5.0)

1)事件や背景の設定について ☆☆☆(3.0)
「四つの署名」事件(1888年9月発生)を経て、ワトスンがメアリー・モースタンと結婚した後で、1889年9月に発生した「技師の親指」事件/「背の曲がった男」事件と1890年3月に発生した「ウィステリア荘」事件の間に当事件が起きた設定となっている。事件の規模自体は、ドイル原作の短編で取り扱われている事件と同じ位で、わざわざ長編にするまでの内容ではないように思える。

2)物語の展開について ☆☆☆(3.0)
物語の展開自体はとてもスムーズで悪くない。ただ、本来であれば、中編程度で取り扱う事件に、別の事件(金品強奪)を絡ませることにより、長編に膨らませている。しかしながら、最終的には、2つの事件の間に特につながりはなく、途中まで関連性を期待して読み進めた分、やや肩すかしというか、物足りない感じが残る。

3)ホームズ/ワトスンの活躍について ☆☆半(2.5)
ホームズは、モーハム卿の殺害事件と彼の遺言書紛失事件を解決するために、つまり、犯人をあぶり出すために、やや禁じ手に近い手法を採っている。これが、ピーター・モーハムの殺害を引き起こす元となっていて、最終的には、ピーターにも責められる要因があったことが判明するものの、捜査手法としては適切ではなかったと思う。

4)総合 ☆☆☆(3.0)
ストーリー自体は非常に読みやすいが、長編として取り扱うには、事件がやや平凡で、当事件一つで中編でまとめた方が良かったのではないかと感じる。別の事件(金品強奪)を絡ませるのであれば、きちんと関連付けた話にしてもらえれば、もっと楽しめたかと思う。

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