2014年12月21日日曜日

ロンドン ハーフムーンストリート369番地(369 Half Moon Street)


サー・アーサー・コナン・ドイル作「高名な依頼人(The Illustrious Client)」において、サー・ジェイムズ・デマリー大佐(Colonel Sir James Damery)経由、匿名の依頼人からの頼みを受けたシャーロック・ホームズは、ド・メルヴィル将軍(General de Merville)の令嬢ヴァイオレット・ド・メルヴィル(Violet de Merville)とオーストリアのアデルバート・グルーナー男爵(Baron Adelbert Grunerーハンサムであるが、非常に残虐な男)の結婚をなんとか阻止しようと試みる。ホームズは、英国のキングストン(Kingston)に住むグルーナー男爵との直接交渉やロンドンのバークリースクエア(Berkeley Square)に住むド・メルヴィル嬢への説得を行うが、残念ながら、どちらも失敗に終わってしまう。そして、ド・メルヴィル嬢との会見の二日後、昼の12時頃、リージェントストリート(Regent Streetーピカデリーサーカス(Piccadilly Circus)から北方面にのびる大通り)沿いにあるカフェ・ロイヤル(Cafe Royal)の前の路上で、ホームズはグルーナー男爵が放った手下達の襲撃を受けて、瀕死の大怪我を負ってしまうのである。

ハーフムーンストリートの中間辺りから
北側のカーゾンストリートを見た写真

ホームズの大怪我から一週間が経過した日の夕刊に、「ド・メルヴィル嬢と結婚する前に、アメリカ合衆国で重要な取引を片付ける必要があるため、グルーナー男爵は金曜日にリヴァプールを出航するキューナード汽船のルリタニア号に乗船する予定(It was simply that among the passengers on the Cunard boat Ruritania, starting from Liverpool on Friday, was the Baron Adelbert Gruner, who had some important financial business to settle in the States before his impending wedding to Miss Violet de Merville, only daughter of, etc., ec.)との記事が掲載された。グルーナー男爵が英国から逃げ出すつもりと考えたホームズは、ジョン・ワトスンに助けを求める。ワトスンに丸一日がかりで中国の陶器に関する詰め込み勉強をさせた後、翌日の夕方、デマリー大佐が匿名の依頼人から借り受けた明朝の本物の薄手磁器(the real eggshell pottery of the Ming dynasty)を、ホームズがワトスンに手渡す。ワトスンはホームズに尋ねる。

「僕はこれをどうしたらいいいんだい?」
すると、ホームズは「ハーフムーンストリート369番地 ヒル・バートン博士」と印刷された名刺を私に渡した。
「ワトスン、今夜、君はこの人物になるんだ。そして、君にはグルーナー男爵邸へ行ってもらいたい。…」
('What am I to do with it ?' Holmes handed me a card upon which was printed : 'Dr Hill Barton, 369 Half Moon Street'. 'That is your name for the evening, Watson. You will call upon Baron Gruner. ...)

ホームズとしては、貴重で珍しい美術工芸品には目がないグルーナー男爵を英国内にできる限り長くとどめて、時間稼ぎをするとともに、ド・メルヴィル嬢との結婚を阻止できるための証拠を手に入れる段取りをしようとしていたのだ。

ハーフムーンストリートの中間辺りから
南側のピカデリー通りを望む

ハーフムーンストリート(Half Moon Street)は、ピカデリーサーカスとハイドパークコーナー(Hyde Park Corner)を結ぶピカデリー通り(Piccadilly)の中間辺りから北にのびる通りで、北側はカーゾンストリート(Curzon Street)に接している。
とても素敵なこの通りの名前は、ここにあった居酒屋の名に由来しているとのこと。

ピカデリー通りからカーゾンストリート方面にハーフムーンストリートを北上した中間点辺りに、二つのホテルがある。左手のホテルは「ヒルトン・ロンドン・グリーンパーク(Hilton London Green Park)」で、右手のホテルは「フレミングス・メイフェア(Flemings Mayfair:ミス・ジェーン・マープルが探偵役を務めるアガサ・クリスティー作「バートラムホテルにて(At Bertram's Hotel)」のモデルとなった候補地の一つ)」である。

アガサ・クリスティー作「バートラムホテルにて」のモデルとなった
候補地の一つの「フレミングス メイフェア ホテル」

最初の夫アーチボルド・クリスティー(Archibald Christie:1889年ー1962年)の浮気が原因で、1928年に彼と離婚したアガサ・クリスティーは、中東旅行の際に知り合った考古学者サー・マックス・エドガー・ルシアン・マローワン(Sir Max Edgar Lucien Mallowan:1904年ー1978年)と1930年に再婚する。その後、1934年に二人は地下鉄ノッティングヒルゲート駅(Notting Hill Gate Tube Station)の近くにあるシェフィールドテラス58番地(58 Sheffield Terrace)の家を購入した。このシェフィールドテラス58番地を賃貸して、彼らはデヴォン(Devon)州のグリーンウェイハウス(Greenway House)に住んでいたが、1939年に第二次世界大戦が勃発すると、グリーンウェイハウスが英国海軍省に接収され、アメリカ軍の宿舎として使用されることになったため、彼らはデヴォン州からロンドンへ出て来ることになった。
シェフィールドテラス58番地の借家人が退去するまでの間、彼らはハーフムーンストリートにフラットを見つけて、一時住んでいたのである。その期間はたったの1週間で、その理由はそのフラットの状態があまりにもひどかったためだとのこと。当時、ハーフムーンストリート沿いは、貴族、外科医、内科医や弁護士等が住む高級住宅街の一つであったが、やむを得ず、彼らはリッツ(The Ritz)ホテルの近くにあるパークプレイス(Park Place)へと移ってしまった。

なお、ホームズが準備してワトスンに渡したヒル・バートン博士の名刺に記載されていたハーフムーンストリート369番地は架空の住所であり、同ストリートは3桁の番地が存在できる程には長くない。

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