2014年8月3日日曜日

ロンドン パディントン駅(Paddington Station)

午後4時50分を指すパディントン駅コンコース上の時計

ロンドンでのクリスマスショッピングを済ませた老齢のエルスペス・マクギリカディは、午後4時50分のパディントン駅(Paddington Station)発ブラッカムプトン行きの列車に乗車する。座席に腰を下ろし、一息ついたマクギリカディ夫人は、この後、恐ろしいものを目撃することになる。

パディントン駅を出たブラッカムプトン行きの列車は、間もなく、同じ速度で同じ方向に進む列車と並走する。並走する列車の、ある車輛の仕切り客室に目を向けたマクギリカディ夫人は、まるで舞台のような殺人劇を見かけてしまう。背の高い男が女性の首を締めつけており、女性の顔がみるみると紫色になっていく。マクギリカディ夫人は、自分が目撃した殺人を列車の車掌や駅長に知らせるものの、まともに取り合ってもらえなかった。落胆した彼女は、セントメアリーミード村に住む旧友ミス・ジェーン・マープルを訪ね、事件の内容を聞かせた。

これが、アガサ・クリスティー作「パディントン発4時50分(4:50 from Paddington)」(1957年)のプロローグである。

この物語の幕が開くのは、パディントン駅で、ロンドン北西のパディントン地区にある。ナショナルレール(National Rail)とロンドン地下鉄の鉄道駅で、オックスフォード(Oxford:ケンブリッジと並ぶ大学都市)やストラトフォード・アポン・エイヴォン(Stratford upon Avon:シェイクスピアの生誕地)等への近郊路線と、バース(Bath)、ブリストル(Bristol)やコンウォール(Cornwall)方面への長距離路線を運行するファーストグレートウェスタン(First Great Western)や、パディントン駅とヒースロー空港を結ぶヒースローエクスプレス(Heathrow Express)等がターミナル駅として使用している。

パディントン駅で発車を待つヒースローエクスプレス

当駅は1854年に開設され、駅舎は建築家であるイザムバード・キングダム・ブルネル(Isambard Kingdom Brunel:1806年ー1859年)により設計された。彼の偉業を讃えるため、駅のコンコース脇に、彼の銅像が設置されている。

パディントン駅コンコース脇に設置されているブルネルの銅像

駅の天井は練鉄の柱に支えられた3連のガラス屋根で、開設当時の雰囲気を今に伝えている。1906年から1915年の駅拡張時に、ホームの北側に4つ目のガラス屋根が平行して追加されている。クリスティーが「パディントン発4時50分」を執筆した頃に、思いを馳せるのも一興である。現在、ロンドン東部とロンドン西部の鉄道網をロンドン市内に新たに削岩する地下トンネルで一本に結ぶための一大プロジェクトである「クロスレールプロジェクト(Crossrail Project)」が、英国政府のサポートを受けて進められており、クロスレールのルートに該るパディントン駅も大改修の真最中である。駅のガラス屋根は長年の列車運行による影響により薄汚れて、昼間でも駅構内はどこか薄暗い印象が否めなかったが、順次クリーニングを終えて、駅構内は以前に比べてかなり明るくなったように思う。

パディントン駅コンコース上のガラス屋根

他のクリスティー作品で言うと、エルキュール・ポワロシリーズの「プリマス行き急行列車(The Plymouth Express)」では、同駅発の列車が犯行現場となっている。

同駅は、ホームズシリーズの中でも一番人気がある長編にも登場している。シャーロック・ホームズシリーズの「バスカヴィル家の犬(The Hound of the Baskervilles)」(1901年ー1902年)において、ダートムーア(Dartmoor)にあるバスカヴィル家に向かうジョン・ワトスンを見送るべく、ホームズは「土曜日にパディントン駅発午前10時30分発の列車で待ち合わせよう。(Then on Saturday, unless you hear to the contrary, we shall meet at the ten-thirty train from Paddington.)」とワトスンに話している。その他にも、「ボスコム谷の謎(The Boscombe Valley Mystery)」や「名馬シルヴァーブレイズ(Silver Blaze)」等で、ホームズはワトスンと一緒にパティントン駅から旅立っている。だが、個人的には、パディントン駅と言うと、やはりクリスティー作「パディントン発4時50分」の印象が一番強い。

パディントン駅構内の待合エリアに設置されている「くまのパディントン」

また、探偵小説ではないが、マイケル・ボンド(Michael Bond:1926年ー)の児童文学作品のキャラクターで、皆に愛されている「くまのパディントン(Paddington Bear)」(1958年)の名前は、登場人物のくまが、パディントン駅で見つけられたことに由来している。同駅構内の待合エリアには「くまのパディントン」の銅像が置かれていて、近くには関連グッズを販売するお店も出店している。

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