2021年11月7日日曜日

ジョン・ディクスン・カー作「カー短編全集4 幽霊射手」(The Door to Doom and Other Detections by John Dickson Carr)

東京創元社から、創元推理文庫の一冊として出版されている
ジョン・ディクスン・カー作
「カー短編全集4 幽霊射手」の表紙
(カバー : アトリエ絵夢 志村 敏子氏) -
表紙に描かれているのは、
ラジオドラマ「幽霊射手」に登場する鸚鵡(オウム)のシーザー


「不可能犯罪の巨匠」とも呼ばれているジョン・ディクスン・カー(John Dickson Carr:1906年ー1977年)は、米国のペンシルヴェニア州(Pennsylvania)に出生して、英国人のクラリス・クルーヴス(Clarice Cleaves)との結婚後、1932年から1946年にかけて英国のブリストル(Bristol)に居を構えていた米国の推理作家である。彼は、シャーロック・ホームズシリーズで有名なサー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)の伝記を執筆するとともに、コナン・ドイルの息子であるエイドリアン・コナン・ドイル(Adrian Conan Doyle:1910年ー1970年)と一緒に、ホームズシリーズにおける「語られざる事件」をテーマにした短編集「シャーロック・ホームズの功績(The Exploits of Sherlock Holmes)」(1954年)を発表している。


彼が、ジョン・ディクスン・カー名義で発表した作品では、当初、パリの予審判事のアンリ・バンコラン(Henri Bencolin)が探偵役を務めたが、その後、ギディオン・フェル博士(Dr. Gideon Fell)が探偵役として活躍した。彼は、カーター・ディクスン(Carter Dickson)というペンネームでも推理小説を執筆しており、カーター・ディクスン名義の作品では、ヘンリー・メルヴェール卿(Sir Henry Merrivale)が探偵役として活躍している。


日本の出版社である東京創元社から、創元推理文庫の一冊として、「カー短編全集4 幽霊射手」が1982年に出版されているが、これは、ジョン・ディクスン・カーの死後、ダグラス・G・グリーンが編集して、1980年に米国の Harper & Row 社からジョン・ディクスン・カー名義で出版された作品集「The Door to Doom and Other Detections」がベースとなっている。なお、The Door to Doom and Other Detections」は、「カー短編全集4 幽霊射手」と「カー短編全集5 黒い塔の恐怖」の2冊に分かれている。


「カー短編全集4 幽霊射手」には、以下の作品が収録されている。


<短編>

(1)「死者を飲むかのように…(As Drink the Dead …)」(1926年)

   ジョン・ディクスン・カーの処女作で、「ハヴァフォーディアン(The Haverfordian)」誌の1926年3月号に発表。

(2)「山羊の影(The Shadow of the Goat)」(1926年)

(3)「第四の容疑者(The Fourth Suspect)」(1927年)

(4)「正義の果て(The Ends of Justice)」(1927年)

(5)「四号車室の殺人(The Murder in Number Four)」(1928年)

          「山羊の影」は、「ハヴァフォーディアン」誌の1926年11月号 / 12月号に、「第四の容疑者」は、同誌の1927年1月号に、「正義の果て」は、同誌の1927年5月号に、そして、「四号車室の殺人」は、同誌の1928年6月号に掲載。これらの短編には、若き日のアンリ・バンコランが登場して、不可能犯罪を解決する。当時の彼は、フランス国内に86ある警察署の署長に過ぎなかったが、ジョン・ディクスン・カーが有名となる最初の長編で、アンリ・バンコランシリーズの第1長編でもある「夜歩く(It Walks by Night)」(1930年)では、パリの予審判事にまで昇進している。


<ラジオドラマ>

(6)「B13号船室(Cabin B-13)」(1943年)

(7)「絞首人は待ってくれない(The Hangman Won’t Wait)」(1943年)

   ギディオン・フェル博士が探偵役を務める。

(8)「幽霊射手(The Phantom Archer)」(1943年)

(9)「花嫁消失(The Bride Vanishes)」(1942年)


「カー短編全集4 幽霊射手」において、特にお薦めは、「B13号船室」で、名作である。


10月の温暖な夜、ホワイト・プラネット船舶会社のモーレヴァニア号(2万5千トン)が、ニューヨーク市西22丁目の大桟橋を離れ、ヨーロッパへと向かって出航した。

モーレヴァニア号には、新婚のリチャード・ブルースター(35歳)とアン・ブルースター(30少し前)も、ヨーロッパへの新婚旅行のため、乗船した。結婚して、まだ間もない関係上、パスポートの手続が間に合わず、アンは、旧姓である「アン・ソーントン」のパスポートを所持していた。彼らの船室は、BデッキのB13号室になっており、リチャードによると、彼らの荷物は、B13号室に既に運び込まれている筈とのことだった。


アンから預かった彼女のお金2万ドルについては、「用心のため、事前に事務長の部屋に預けておく。」と言うリチャードに促されたアンは、一人、甲板へと出て、出航の光景を楽しんでいた。彼女は、そこで船医のポール・ハードウィックと知り合いになるが、彼によると、「B13号室は、モーレヴァニア号内には存在していない。」と言う。

驚いたアンがBデッキへ向かうと、担当のステュワーデスによると、「彼女の船室は、B13号ではなく、B16号室で、彼女の荷物(スーツケース2個+小型トランク1個)だけを預かっており、男性の荷物はない。」とのことだった。

状況が理解できないアンは、リチャードと一緒に、モーレヴァニア号に乗船した際、側に居た二等航海士のマーシャルを呼んでもらう。呼ばれてやって来たマーシャル二等航海士は、ハードウィック船医の問い掛けに、次のように答えるのであった。

「いいですか、先生。この御婦人は一番最後に乗船なさったので、私の記憶は絶対に確かです。聖書に誓ってでも言えますよ。連れのお客は居なかった。前にも後にも、とね。」


果たして、アンと結婚したリチャード・ブルースターは、一体、どこに姿を消してしまったのか?何故、Bデッキ担当のステュワーデスやマーシャル二等航海士は、「アンは、一人旅行で、連れのお客は居ない。」という主張を繰り返すのだろうか?


なお、2021年11月現在、東京創元社の公式サイト上、「カー短編全集4 幽霊射手」は、「在庫なし」となっている。


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