2021年10月29日金曜日

ジョン・ディクスン・カー作「カー短編全集1 不可能犯罪捜査課」(The Department of Queer Complaints by John Dickson Carr)

東京創元社から、創元推理文庫の一冊として出版されている
ジョン・ディクスン・カー作
「カー短編全集1 不可能犯罪捜査課」の表紙
(カバー : アトリエ絵夢 志村 敏子氏)


「不可能犯罪の巨匠」とも呼ばれているジョン・ディクスン・カー(John Dickson Carr:1906年ー1977年)は、米国のペンシルヴェニア州(Pennsylvania)に出生して、英国人のクラリス・クルーヴス(Clarice Cleaves)との結婚後、1932年から1946年にかけて英国のブリストル(Bristol)に居を構えていた米国の推理作家である。彼は、シャーロック・ホームズシリーズで有名なサー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)の伝記を執筆するとともに、コナン・ドイルの息子であるエイドリアン・コナン・ドイル(Adrian Conan Doyle:1910年ー1970年)と一緒に、ホームズシリーズにおける「語られざる事件」をテーマにした短編集「シャーロック・ホームズの功績(The Exploits of Sherlock Holmes)」(1954年)を発表している。


彼が、ジョン・ディクスン・カー名義で発表した作品では、当初、パリの予審判事のアンリ・バンコラン(Henri Bencolin)が探偵役を務めたが、その後、ギディオン・フェル博士(Dr. Gideon Fell)が探偵役として活躍した。彼は、カーター・ディクスン(Carter Dickson)というペンネームでも推理小説を執筆しており、カーター・ディクスン名義の作品では、ヘンリー・メルヴェール卿(Sir Henry Merrivale)が探偵役として活躍している。


日本の出版社である東京創元社から、創元推理文庫の一冊として、「カー短編全集1 不可能犯罪捜査課」が1970年に出版されているが、これは、1940年にカーター・ディクスン名義で出版された短編集「The Department of Queer Complaints」がベースとなっている。


「カー短編全集1 不可能犯罪捜査課」には、以下の短編が収録されている。


(1)「新透明人間(The New Invisible Man)」

(2)「空中の足跡(The Footprint in the Sky)」 → 原題「Clue in the Snow」

(3)「ホット・マネー(Hot Money)」 → 原題「The Hiding Place」

(4)「楽屋の死(Death in the Dressing-Room)」

(5)「銀色のカーテン(The Silver Curtain)」

(6)「暁の出来事(Error at Daybreak)」

(7)「もう一人の絞刑史(The Other Hangman)」

(8)「二つの死(New Murders for Old)」

(9)「目に見えぬ凶器(Persons or Things Unknown)」

(10)「めくら頭巾(Blind Man’s Hood)」


最初の6編は、奇妙な事前を専門に処理するため、ロンドン警視庁内に設置されたD三課の課長であるマーチ大佐が、推理眼を披露している。

「新透明人間」では、覗き趣味の紳士が、向かい側の部屋において、腕も身体もない手袋だけがピストルの引き金を引き、老人が殺害される現場を目撃したり、「空中の足跡」では、夢遊病癖がある女性と軋轢があった婦人が殺されるが、婦人の家の周囲に積もった雪の上には、当該女性の靴跡だけが残されていたため、彼女に殺人容疑がかけられたり、また、「銀色のカーテン」では、賭博で負けが込んだ男性が、ある場所に来るように指示されたが、彼がその場所に着いたところ、周囲に誰も居ない広場において、首の後ろを短剣で殺されたばかりの被害者を発見する等、不可能犯罪がメインで取り扱われている。

特に、上記の3編では、不可能状況が合理的に解決されており、お薦めである。「新透明人間」で取り扱われる事件には、非常に有名な奇術トリックが使われている。


厳密に言うと、短編集「The Department of Queer Complaints」には、「見知らぬ部屋の犯罪(The Crime in Nobody’s Room)」も収録されているが、当該作品は、東京創元社の創元推理文庫「世界短編傑作集5」に収録されているため、「カー短編全集1 不可能犯罪捜査課」からは割愛されている。


カー短編全集は、「カー短編全集1 不可能犯罪捜査課」から「カー短編全集6 ヴァンパイアの塔」(今後、紹介する予定)まで、6冊が出版されているが、文庫本のカバーについては、アトリエ絵夢の志村敏子氏が全て担当しており、どのカバーも非常に良い(特に「カー短編全集2」と「カー短編全集5」)ので、個人的には、購入する価値ありと思う。

ただし、2021年10月現在、東京創元社の公式サイト上、「カー短編全集1 不可能犯罪捜査課」は、「在庫なし」となっている。


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