2020年11月14日土曜日

リチャード・ハル作「伯母殺人事件」(The Murder of My Aunt by Richard Hull)

大英図書館(British Library)が発行する
British Library Crime Classics の一つに加えられている
リチャード・フル作「伯母殺人事件」の表紙

「伯母殺人事件(The Murder of My Aunt)」は、英国の推理作家であるリチャード・フル(Richard Hull:1896年ー1973年)が1934年に発表した倒叙推理小説である。

リチャード・フルの本名は、リチャード・ヘンリー・サンプソン(Richard Henry Sampson)で、1846年9月6日、ロンドンのケンジントン地区(Kensington)に出生。彼は、第一次世界大戦(1914年ー1918年)のため、ウォーリック州(Warwickshire)のラグビー校から大学への進学を取り止めて、徴兵。戦争からの復員後、彼は会計士となり、会計事務所に勤務した後、自ら事務所を開設。

彼は、会計事務所を経営するかたわら、1934年に処女作の「伯母殺人事件」を発表して、大評判を得た。その後も、会計士として働きつつ、推理作家として、1953年までに15作の長編と1作の短編集を発表。その後、「英国探偵作家クラブ(Detection Club)」という協会で、会長であるアガサ・クリスティーの仕事をサポート。

第二次世界大戦(1939年ー1945年)中は、会計士として、英国海軍省(Admirality)に勤務。会計士としての実績を評価されて、彼は、イングランド&ウェールズ公認会計士協会(The Institute of Chartered Accountants in England and Wales : CAEW)の終身会員(Fellow)に選ばれている。

彼は、生涯独身で通して、1973年4月19日、ロンドンで死去した。


英図書館(British Library)が発行する
British Library Crime Classics の一つに加えられている
リチャード・フル作「伯母殺人事件」の裏表紙

英国ウェールズ(Wales)の小さな町ルウール(Llwll)から2マイル程離れたブラインモーア(Brynmawr)という家に、エドワード・パウエル(Edward Powell)は、伯母のミルドレッド・パウエル(Mildred Powell)と一緒に住んでいた。ただし、彼は、田舎暮らしには満足しておらず、都会での生活に夢を抱いていた。

エドワードの両親は、彼がまだ幼い頃に、既に他界しており、彼の祖母は、彼の伯母に対して、ブラインモーアを含む全財産を遺贈していたのである。


伯母のミルドレッドは、甥のエドワードを、生活面だけではなく、金銭面でも、厳しく管理していた。日頃から、エドワードは、口やかましい伯母のことを非常に苦々しく思ってはいたが、財布の紐は伯母が完全に握っているため、彼は、ブラインモーアから出て、伯母から独立して生活していくことができなかった。


そして、ある日起こった諍いが元となって、エドワードは、自分の自由とパウエル家の全財産を手に入れるために、自分を束縛する伯母を殺害しようと、秘かに企むのであった。

エドワードは、いろいろと計画した結果、

(1)ブレーキに細工した上での自動車事故

(2)不審火による焼死

(3)誤飲による毒死

と、一度ならず、二度、三度と、彼は殺害計画を実行して、伯母のミルドレッドの命は風前の灯となるが、何故か、幸運なことに、彼女は九死に一生を得る。

計画通りに、伯母のミルドレッドをなかなか殺せないため、焦るエドワードであったが、終盤、物語は意外な展開を示すのである。


リチャード・ハル作「伯母殺人事件」は、フランシス・アイルズ(Francis Iles:1893年ー1971年→なお、彼は、本名のアントニー・バークリー・コックス(Anthony Berkeley Cox)名義でも、推理小説を執筆している)作「殺意(Malice Aforethought : A Story of a Commonplace Crime)」(1931年)やフリーマン・ウィルス・クロフツ(Freeman Wills Crofts:1879年ー1957年)作「クロイドン発12時30分(The 12:30 from Croydon→2020年5月31日付ブログで紹介済)」(1934年)と並び、倒叙推理小説の三大傑作の一つに数えられている。


ただし、本作品の内容が、通常の倒叙推理小説に見られるように、犯人が犯罪を成し得た後、探偵役が登場して、その犯人を一歩一歩追い詰めていき、自供に追い込むという展開にはなっていないこと、また、物語の最後に衝撃的な結末が明かされることもあり、本作品を純粋な意味での倒叙推理小説と定義することに対して、疑問を呈する人も居る。



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