2020年11月8日日曜日

アガサ・クリスティー作「メソポタミアの殺人」<グラフィックノベル版>(Murder in Mesopotamia by Agatha Christie

HarperCollinsPublishers から出ている
アガサ・クリスティー作「メソポタミアの殺人」のグラフィックノベル版の表紙
(Cover Design and Illustration by Ms. Nina Tara)-

米国人の考古学者であるエリック・ライドナー博士が率いるピッツタウン大学イラク調査隊が
チグリス河岸にあるテル・ヤリミヤ遺跡が描かれている。

9番目に紹介するアガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)によるグラフィックノベル版は、「メソポタミアの殺人(Murder in Mesopotamia)」(1936年)である。

本作品は、アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第19作目に該り、エルキュール・ポワロシリーズに属する長編のうち、第12作目に該っている。


HarperCollinsPublishers から出ている
アガサ・クリスティー作「メソポタミアの殺人」のグラフィックノベル版の裏表紙
(Cover Design and Illustration by Ms. Nina Tara)-

エリック・ライドナー博士が率いるピッツタウン大学イラク調査隊が
テル・ヤリミヤ遺跡を発掘する道具が描かれている。


本作品のグラフィックノベル版は、元々、フランス人の作家であるフランソワ・リヴィエール(Francois Riviere:1949年ー)が構成を、そして、フランス人のイラストレーターであるシャンドレ(Chandre)が作画を担当して、2005年にフランスの Heupe SARL から「Meurtre en Mesopotamie」というタイトルで出版された後、2008年に英国の HarperCollinsPublishers から英訳版が発行されている。


エリック・ライドナー博士の妻であるルイーズ・ライドナーが、
新たに雇われた英国人看護婦のエイミー・レザランに対して、
ピッツタウン大学イラク調査隊のメンバーを紹介する。


バグダッドでの仕事を終えた英国人看護婦のエイミー・レザラン(Amy Leatheran)は、イラクの遺跡発掘調査隊を率いる米国人考古学者のエリック・ライドナー博士(Dr. Eric Leidner)に雇われ、彼の妻であるルイーズ・ライドナー(Louise Leidner)の付き添いをすることになった。そのため、エイミーは、古代メソポタミアの地、チグリス河岸にあるテル・ヤリミヤ(Tell Yarimjah)遺跡の発掘調査隊宿舎へとやって来た。


ルイーズ・ライドナーは、神経衰弱により、ノイローゼになる位に怯えていた。

発掘調査隊宿舎に到着したエイミーは、ルイーズ・ライドナーから、ピッツタウン大学イラク調査隊のメンバーを紹介される。ルイーズは、40歳近くの魅力的で美しい女性であったが、神経衰弱により、ノイローゼになる位に怯えていたのである。


発掘調査隊宿舎に着いて1週間が経過し、エイミーのことを信頼したルイーズは、彼女に対して、「自分は、もうすぐ殺されてしまうかもしれない。」と打ち明ける。

ルイーズによると、第一次世界大戦(1914年ー1918年)中の20歳の時に、フレデリック・ボスナー(Frederick Bosner)と最初の結婚をした。フレデリックは米国政府で働いていたが、ルイーズは、夫のフレデリックが実際にはドイツのスパイであることに気付き、陸軍省に勤めていた父親に通報した。その結果、フレデリックは、米国政府によって逮捕されてしまう。そして、ルイーズは、夫のフレデリックがドイツのスパイとして、米国政府により処刑されたものと思っていた。


ルイーズ・ライドナーは、エイミー・レザランに対して、
彼女の最初の夫であるフレデリック・ボスナーのことを話す。


ところが、後にルイーズが他の男性と親しくなると、夫のフレデリックの名前で、「その相手と直ぐに別れろ。」と迫る脅迫状が届くようになる。驚くルイーズに対して、父親は真相を話す。ルイーズの夫フレデリックは、米国政府により逮捕されたものの、処刑前に脱走を図った後、列車の転覆事故に巻き込まれて、死亡したことになっていた。ただ、遺体の損傷が激しかったため、間違いなく、遺体がフレデリック本人であるとは断言できなかったのである。


その後も、ルイーズが新しい男性と親しくなる度に、夫のフレデリックの名前で、脅迫状が舞い込んだ。ところが、ルイーズがエリック・ライドナー博士と出会って結婚するまでの間、脅迫状は届かなかった。しかしながら、二人の結婚後、夫のフレデリックの名前で、「命令に背いたお前を殺す。」と書かれた脅迫状が再び届き、その直後、ルイーズとエリックの二人は、自宅において、危うくガス中毒で殺されかけたのである。そのため、二人は、イラクで発掘調査をする時以外も、海外で暮らし始めると、それから2年間、脅迫状はぱたりと止んだ。


しかし、今年の発掘調査が始まると、3週間前に、「お前の命は、風前の灯だ。」と、そして、1週間前には、「俺は、遂にやって来たぞ。」と書かれた脅迫状がまた届いたため、ルイーズは、恐怖に怯えていたのである。

ただ、脅迫状に書かれた筆跡が、ルイーズのものによく似ていたため、夫のエリックとエイミーの二人は、ルイーズが自分で自分宛に脅迫状を書いているのではないかと疑う。


エリック・ライドナーは、妻のルイーズが自室の床の上で死んでいるのを発見した。


翌日の午後、昼寝の床に就いたルイーズが自室の床の上で死んでいるのを、夫のエリックが発見した。何か重いものによる右のこめかみへの一撃が、彼女の死因だった。ところが、ルイーズの部屋の窓は、内側から鍵がかかっている上に、室内から凶器らしきものは、全く見つからなかった。

事件発生当時、ルイーズの部屋の前の中庭では、現地の少年が発掘された土器を洗っており、彼女の部屋には、誰も出入りしなかったと証言する。更に、中庭へと通じる宿舎の入口には、現地雇いの使用人達が集まって、雑談に興じており、見知らぬ外部の人間が宿舎内へと侵入することは、不可能だった。

つまり、ルイーズを殺害した犯人は、発掘調査隊のメンバーの中に居ると思われた。


折しも、シリアからバグダッドへと向かう途中、この辺りを通りかかったエルキュール・ポワロは、自分達の手には負えないと判断した地元の警察署長から要請され、事件の捜査を引き受けるのであった。



シリアからバグダッドへと向かう途中だったエルキュール・ポワロは、
地元の警察署長から要請されて、事件の捜査を行うことになった。

本作品のグラフィックノベル版は、エイミー・レザランが、「タイムズ」誌(The Times)の記者であるジェイムズ・ハーヴェー(James Harvey)からの取材を受け、テル・ヤリミヤ遺跡の発掘調査隊宿舎で発生した殺人事件の顛末を話すという後日談の体裁となっている。そして、物語は、彼女が、次の任地であるスコットランドの城へと向かうところで終わっている。

前回紹介した「ハロウィーンパーティー(Hallowe’en Party→2020年11月1日付ブログで紹介済)と同じイラストレーターであるシャンドレが本作品の作画を担当しており、土色を主体とする色彩と相まって、物語の雰囲気に非常にうまくマッチしている。

1ページ目の最後のコマにおいて、エイミーがホテルのエレベーター / リフトを待っているところ、彼女の前で待っている男女のカップルが、「An archaeologist makes an ideal husband. The older you get, the more interesting he finds you !!」と話をしているが、この物語の結末に対する痛烈な皮肉になっていると言える。


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