2020年11月29日日曜日

アガサ・クリスティー作「無実はさいなむ」<グラフィックノベル版>(Ordeal by Innocence by Agatha Christie

HarperCollinsPublishers から出ている
アガサ・クリスティー作「無実はさいなむ」のグラフィックノベル版の表紙
(Cover Design and Illustration by Ms. Nina Tara)-

義母レイチェル・アージル殺害の容疑で無期懲役を宣告され、
肺炎のため、獄中死したジャッコ・アージルが描かれている。


11番目に紹介するアガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)によるグラフィックノベル版は、「無実はさいなむ(Ordeal by Innocence)」(1958年)である。本作品は、アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第50作目に該る。

HarperCollinsPublishers から出ている
アガサ・クリスティー作「無実はさいなむ」のグラフィックノベル版の裏表紙
(Cover Design and Illustration by Ms. Nina Tara)-

レイチェル・アージル殴殺に使用された火搔き棒が描かれている。


本作品のグラフィックノベル版は、イラストレーターであるシャンドレ(Chandre)が作画を担当して、2006年にフランスの Heupe SARL から「Temoin indesirable」というタイトルで出版された後、2008年に英国の HarperCollinsPublishers から英訳版が発行されている。

サニーポイント邸を
地理学者のアーサー・キャルガリ博士が訪れる。


195X年11月9日の午後7時から午後7時半の間に、サニーポイント邸(Sunny Point)の書斎において、資産家のレイチェル・アージル(Rachel Argyle)が、火搔き棒で後頭部を殴られて、殺害された。

間もなく、彼女の養子の一人であるジャッコ・アージル(Jacko Argyle)が、義母殺害の容疑で、警察に逮捕される。ジャッコは、その晩、義母のレイチェルを訪ねており、金の無心を断われると、彼女を脅しているのを、他の家族に聞かれていたのである。義母殺害の動機は、金の無心を断られた腹いせだと考えられた。

更に、ジャッコが警察に逮捕された際、彼のポケットから、義母のレイチェルが金庫にしまってあった印の付いた紙幣が出てきたのである。義母殺害の容疑としては、十分な程だった。


ところが、ジャッコは、問題の30分間のアリバイを主張した。彼によると、サニーポイント邸からドライマス(Drymouth)へと戻る途中、ヒッチハイクをして、中年の男性が運転する黒い車に乗せてもらった、と言うのだ。しかし、警察による度重なる呼びかけにもかかわらず、ジャッコが言い張る男性や車は、全く見つからなかった。子供の頃から嘘つきだったジャッコは、義母殺害の容疑を免れるために、またしても嘘をついたのだ、と世間一般は理解した。


地理学者のアーサー・キャルガリ博士は、
アージル家の弁護士であるアンドリュー・マーシャル(Andrew Marshall)からの手紙を持参していた。


その結果、ジャッコの裁判は、形ばかりのものとなった。彼は無期懲役を宣告され、そして、刑務所に入って僅か6ヶ月後に、肺炎が元で獄中で世を去った。
ジャッコの獄中死を経て、残されたアージル家の人々は、元通りの生活を取り戻そうとしていた。


事件の2年後、地理学者のアーサー・キャルガリ(Dr. Arthur Calgary)が、サニーポイント邸を訪れる。キャルガリ博士は、アージル家の人々に対して、問題の晩の7時少し前に、ジャッコ・アージルを車に乗せて、ドライマスまで送って行ったことを告げるのであった。

地理学者のアーサー・キャルガリ博士は、アージル家の人々に対して、
2年前に自分が遭った交通事故について話す。


彼によると、ドライマスでジャッコを車から降ろした後、交通事故に遭って、脳震盪を起こし、数日間入院していた。その際、彼は部分的な記憶喪失になってしまい、問題の晩のことを忘れてしまったのである。そして、病院から退院すると、彼はそのまま南極探検に出かけてしまったため、事件のことについては、全く知らなかった。彼は、最近、南極から戻ったばかりで、自分の部屋で古新聞等を整理していた際に、ジャッコの写真を見かけ、部分的な記憶喪失からふいに回復して、問題の晩にかかる記憶が戻ってきた、と話すのであった。


画面左から、カーステン・リンツトロム、アーサー・キャルガリ博士、
へスター・アージル、グエンダ・ヴォーン、そして、リオ・アージル


キャルガリ博士の話が本当だとすると、嘘つきで、レイチェル・アージルを殺害した犯人だと皆が思っていたジャッコは、結局のところ、彼が出張していた通り、無実だった訳である。

ところが、ジャッコの汚名は回復されたにもかかわらず、アージル家の人々は喜んではいないように見えた。寧ろ、キャルガリ博士の話を聞きたくなかったと言わんばかりだった。アージル家の人々の反応に、キャルガリ博士は非常に困惑する。

それは、つまり、ジャッコが無実であるということは、残ったアージル家の人々の誰かが真犯人だということになるからであった。問題の晩、サニーポイント邸の玄関には、鍵がかかっていた。レイチェル・アージルを殺害した犯人は、彼女に邸宅内に入れてもらったか、あるいは、自分の鍵で中に入ったかのどちらかだった。いずれにしても、アージル家の関係者が真犯人ということになる。



キャルガリ博士が言う通り、ジャッコが無実だとすると、問題の晩、レイチェル・アージルを殺害した真犯人は、以下の人物のうちの誰なのか?

(1)リオ・アージル(Leo Argyle):レイチェル・アージルの夫

(2)メアリー・デュラント(Mary Durrant):アージル家の養子

(3)マイケル・アージル(Michael Argyle):アージル家の養子で、愛称はミッキー(Mickey)

(4)へスター・アージル(Hester Argyle):アージル家の養子

(5)クリスティーナ・アージル(Christina Argyle):アージル家の養子で、名称はティナ(Tina)

(6)フィリップ・デュラント(Philip Durrant):メアリーの夫

(7)グエンダ・ヴォーン(Gwenda Vaughan):リオ・アージルの秘書

(8)カーステン・リンツトロム(Kirsten Lindstrom):アージル家の家政婦


画面左から、アージル家の弁護士アンドリュー・マーシャル、リオ・アージル、へスター・アージル、
グエンダ・ヴォーン、カーステン・リンツトロム、クリスティーナ・アージル、
メアリー・デュラント、フィリップ・デュラント、そして、マイケル・アージル


アガサ・クリスティーは、自伝において、本作品を自作の推理小説の中で最も満足している2作のうちの1作として挙げている。ちなみに、もう1作は、「ねじれた家(Crooked House)」(1949年)である。

私にとっても、本作品は、アガサ・クリスティーの推理小説の中で、最も好きな作品の一つである。個人的な理解ではあるが、作者であるアガサ・クリスティーの「悪い種は、永久に悪い種のままで、更正させることはできない。」と言う信念みたいなものが、「ねじれた家」と「無実はさいなむ」の2作品に共通して、色濃く反映されていると思う。


無実がさいなみ、眠れない夜を過ごすアージル家の人々 - 
上段:マイケル・アージル、カーステン・リンツトロム、フィリップ・デュラント、メアリー・デュラント
中段:リオ・アージル、グエンダ・ヴォーン、へスター・アージル
下段:クリスティーナ・アージル


私の好きな作品を他に挙げると、
(1)「エンドハウスの怪事件(Peril at End House)」(1932年)

(2)「ABC 殺人事件(The ABC Murders)」(1935年)

(3)「復讐の女神(The Nemesis)」(1971年)

(4)「象は忘れない(Elephants Can Remember)」(1972年)

である。


イラストレーターのシャンドレによる作画は、本作品の暗く、かつ、重い雰囲気によくマッチしており、47ページの分量の中で、非常にうまくまとめられている。


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