2018年11月17日土曜日

ジョン・ディクスン・カー作「盲目の理髪師」(The Blind Barber by John Dickson Carr)–その1

東京創元社が発行する創元推理文庫「盲目の理髪師」の表紙−
  カバーフォーマット:本山 木犀氏
カバーデザイン:折原 若緒氏
カバーイラスト:榊原 一樹氏

「盲目の理髪師(The Blind Barber)」は、米国のペンシルヴェニア州(Pennsylvania)に出生して、英国人のクラリス・クルーヴス(Clarice Cleaves)との結婚後、1932年から1946年にかけて英国のブリストル(Bristol)に居を構えていた米国の推理作家で、「不可能犯罪の巨匠」とも呼ばれているジョン・ディクスン・カー(John Dickson Carr:1906年ー1977年)が1934年に発表した推理小説で、ギディオン・フェル博士(Dr. Gideon Fell)シリーズの長編第4作目に該る。

大西洋を横断して、米国のニューヨークから英国のサウサンプトン(Southampton)へと向かう外洋航路船クイーンヴィクトリア号(ocean liner Queen Victoria)内で、船長のヘクター・ホイッスラーが主催する夕食会において、船長と同じテーブルとなった

(1)ヘンリー・モーガン(Henry Morgan):探偵小説家(英国人)
(2)カーティス・G・ウォーレン(Cartis G. Warren):外交官(米国人)
(3)トマッセン・ヴァルヴィック(Captain Thomassen Valvick):元船長(ノルウェー人)
(4)ペギー・グレン(Peggy Glenn):あやつり人形師のジュール・フォータンブラに同行している姪(秘書兼マネージャー)

の一行は、親しくなる。

クイーンヴィクトリア号がニューヨークを出港して4日目、サウサンプトン到着を3日後に控えた午後、ヘンリー・モーガン、トマッセン・ヴァルヴィックとペギー・グレンの3人が遊歩甲板のデッキチェアに寝そべって、カーティス・G・ウォーレンを待っていたところ、あたふたと姿を現した客室係に呼ばれ、カーティス・G・ウォーレンの船室(Cデッキ右舷側にあるC913号室)へと駆け付ける。そして、ヘンリー・モーガン達3人がそこで見たのは、頭に濡れたタオルをターバンのように巻いたカーティス・G・ウォーレンの姿とひどく荒らされた船室であった。

彼によると、船室内で何者かに襲われ、目元や頭の後ろ等を殴られた、とのこと。彼の顔には、何者かの拳によってできた浅い切り傷があり、緑がかった目が3人を見つめていた。彼は、映画フィルムらしきものを手にしていたが、片端はちぎれていた。

創元推理文庫「盲目の理髪師」の旧訳版の表紙
(カバー装画: 山田 雅史氏)

カーティス・G・ウォーレンの説明では、ニューヨーク出港の1週間程前、別れの挨拶のため、彼の伯父(母方の親戚)で、政治家のサディアス・G・ウォーパスが住むワシントンの邸宅を訪れた。サディアス・G・ウォーパスは、米国大統領であるF・D・ルーズヴェルトからさほど遠くない大物で、彼の邸宅では、その日、格式ある盛大な舞踏会が開催されていた。サディアス・G・ウォーパス、彼の顧問と議員の友人達は、舞踏会を抜け出し、邸宅の2階にある書斎において、ウィスキーを飲みながら、パーカーを始めた。小型映写機が趣味のカーティス・G・ウォーレンは、伯父のサディアス・G・ウォーパス達に請われて、執事の助けを借りつつ、皆の余興を撮影し始めた。強い酒に酔ったサディアス・G・ウォーパスを含めた高名な政治家達は、数々の暴言を発し、それらがカーティス・G・ウォーレンのフィルムに残された。その内容が公にされた場合、政治的失脚や国際問題にまで発展しかねない恐れがあり、最悪のケースでは、宣戦布告に至る可能性もあった。

翌朝、酔いから目覚めて、正気を取り戻したサディアス・G・ウォーパスに要請されたカーティス・G・ウォーレンは、前の晩に撮影した問題のフィルム(リール2本分)を念入りに処分したものの、荷造りを任せた執事の手違いにより、カーティス・G・ウォーレンが処分したリール2本のうち、1本はブロンクス動物園を撮影したフィルムで、何の問題もないものだった。最も悪いことに、伯父のサディアス・G・ウォーパス達が行った数々の暴言を撮影したリールについては、処分されないまま、カーティス・G・ウォーレンの荷物と一緒に、クイーンヴィクトリア号に予約された彼の船室へと運び込まれ、そのことを知る何者かがそのリールを奪うべく、船室内で彼を襲ったのである。ただ、幸運なことに、何者かが奪い去ったのは、問題のリールの半分だけで、ちぎれたリールの半分は、カーティス・G・ウォーレンの手元にまだ残っていた。しかしながら、半分と言えども、全部が奪い去られたのと同じ位、危険と言えた。

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