2017年10月28日土曜日

ロンドン ピンチンレーン3番地(No. 3 Pinchin Lane)

2012年ロンドンオリンピック / パラリンピックの際、
ランベス宮殿(Lambeth Palace)前に設置されたマスコット
「ランベス宮殿マンデヴィル(Lambeth Place Mandeville)」

サー・アーサー・コナン・ドイル作「四つの署名(The Sign of the Four)」(1890年)では、若い女性メアリー・モースタン(Mary Morstan)がベーカーストリート221Bのシャーロック・ホームズの元を訪れて、風変わりな事件の調査依頼をする。

元英国陸軍インド派遣軍の大尉だった彼女の父親アーサー・モースタン(Captain Arthur Morstan)は、インドから英国に戻った10年前に、謎の失踪を遂げていた。彼はロンドンのランガムホテル(Langham Hotel→2014年7月6日付ブログで紹介済)に滞在していたが、娘のモースタン嬢が彼を訪ねると、身の回り品や荷物等を残したまま、姿を消しており、その後の消息が判らなかった。そして、6年前から年に1回、「未知の友」を名乗る正体不明の人物から彼女宛に大粒の真珠が送られてくるようになり、今回、その人物から面会を求める手紙が届いたのである。
彼女の依頼に応じて、ホームズとジョン・H・ワトスンの二人は彼女に同行して、待ち合わせ場所のライシアム劇場(Lyceum Theatreー2014年7月12日付ブログで紹介済)へ向かった。そして、ホームズ達一行は、そこで正体不明の人物によって手配された馬車に乗り込むのであった。


ホームズ、ワトスンとモースタン嬢の三人は、ロンドン郊外のある邸宅へと連れて行かれ、そこでサディアス・ショルト(Thaddeus Sholto)という小男に出迎えられる。彼が手紙の差出人で、ホームズ達一行は、彼からモースタン嬢の父親であるアーサー・モースタン大尉と彼の父親であるジョン・ショルト少佐(Major John Sholto)との間に起きたインド駐留時代の因縁話を聞かされるのであった。
サディアス・ショルトによると、父親のジョン・ショルト少佐が亡くなる際、上記の事情を聞いて責任を感じた兄のバーソロミュー・ショルト(Bartholomew Sholto)と彼が、モースタン嬢宛に毎年真珠を送っていたのである。アッパーノーウッド(Upper Norwood)にある屋敷の屋根裏部屋にジョン・ショルト少佐が隠していた財宝を発見した彼ら兄弟は、モースタン嬢に財宝を分配しようと決めた。

しかし、ホームズ一行がサディアス・ショルトに連れられて、バーソロミュー・ショルトの屋敷を訪れると、バーソロミュー・ショルトはインド洋のアンダマン諸島の土着民が使う毒矢によって殺されているのを発見した。そして、問題の財宝は何者かによって奪い去られていたのである。


「君が居てくれると、僕は非常に助かる。」と、彼(ホームズ)は答えた。「僕達は、スコットランドヤードとは別個に、この事件を調べたい。ジョーンズ警部には、彼がでっち上げるであろう見込みのない内容に大喜びさせておけば良い。ワトスン、君はモースタン嬢を(ローワーキャンバーウェルのセシル・フォレスター夫人の家に)送り届けた後、ランベスの水辺近くにあるピンチンレーン3番地へ向かってほしい。右手の3番目の家が、鳥の剥製屋で、そこにはシャーマンという老人が住んでいる。店の窓際には、子ウサギを咥えたイタチの剥製が見える筈だ。ノックして、そのシャーマン老人を起こして、僕が宜しくと言っていたと彼に告げた後、僕がトビーを早急に必要としていると伝えてくれ。そして、トビーを馬車に乗せて、ここに連れて来てほしいんだ。」
「君が言うトビーとは、犬のことかい?」
「そうだ。トビーは、変わった雑種犬で、臭いを嗅ぎ分ける能力が凄いんだ。僕なら、ロンドン中の警察官よりも、トビーに手助けしてもらう方を選ぶね。」
「判った。それじゃ、その犬を連れて帰って来るよ。」と、私は言った。「今、午前1時だから、新しい馬車を捕まえられれば、午前3時までにここに戻って来られると思う。」

ランベス地区側から見たテムズ河と国会議事堂(その1)

‘Your presence will be of great service to me,’ he answered. ‘We shall work the case out independently, and leave this fellow Jones to exult over any mare’s-nest which he may choose to construct. When you have dropped Miss Morstan, I wish you to go to No. 3, Pinchin Lane, down near the water’s edge at Lambeth. The third house on the right-hand side is a bird-stuffer’s; Sherman is the name. You will see a weasel holding a young rabbit in the window. Knock old Sherman up, and tell him, with my compliments, that I want Toby at once. You will bring Toby back in the cab with you,’
‘A dog, I suppose?’
‘Yes, a queer mongrel, with a most amazing power of scent. I would rather have Toby’s help than that of the whole detective force of London.’
‘I shall bring him then,’ said I. ‘It is one now. I ought to be back before three, if I can get a fresh horse.’

2012年ロンドンオリンピック / パラリンピックの際、
テムズ河沿い設置されたマスコット「ガーデンウェンロック(Garden Wenlock)」−
近くにある「庭園歴史博物館(Museum of Garden History)」をテーマにしている

ピンチンレーンはランベスの下級地区内にあり、むさ苦しい二階建ての煉瓦造りの家が建ち並んでいた。私は3番地の扉を何回かノックしたが、何の反応もなかった。しかし、遂に鎧戸の向こうにロウソクの灯りが見えると、上階の窓から顔が覗いた。
「とっとと帰れ、この酔っ払いの浮浪者め。」と、その男が言った。「これ以上騒ぎ続けたら、犬小屋を開けて、43匹の犬をお前にお見舞いするぞ。」
「1匹だけ貸してくれれば充分だ。そのためにここに来たんだ。」と、私は言った。
「帰れ!」と、その男は大声をあげた。「言っとくが、この袋の中に毒蛇が入っている。さっさと立ち去らないと、お前の頭の上に毒蛇を落とすぞ!」
「しかし、私は犬が一匹必要なんだ。」と、私は叫んだ。
「お前の話を聞く耳を持たんわ!」と、シャーマン老人も叫んだ。「そこから離れておくんだな。儂が3つ数えたら、毒蛇を落とすぞ。」
「シャーロック・ホームズが…」と、私は言いかけた。しかし、その言葉は魔法の呪文のような効果があった。と
いうのも、窓が直ぐに閉まると、一分も経たないうちに、扉の閂が外されて、扉が開いたのである。シャーマンは手足がひょろ長い痩せた老人で、背中が曲がり、首は筋張っていて、そして、青い色の眼鏡をかけていた。
「シャーロック・ホームズさんの御友人であれば、何時でも大歓迎ですよ。」と、彼は言った。

ランベス地区側から見たテムズ河と国会議事堂(その2)

Pinchin Lane was a row of shabby, two-storeyed brick houses in the lower quarter of Lambeth. I had to knock for some time at No. 3 before I could make any impression. At Last, however, there was the glint of a candle behind the blind, and a face looked out at the upper window.
‘Go on, you dranken vagabond,’ said the face. ‘If you kick up any morrow, I’ll open the kennels and let out forty-three dogs upon you.’
‘If you’ll let one out, it’s just what I have come for,’ said I.
‘Go on!’ Yelled the voice. ‘So help me gracious, I have a wiper in this bag, an’ I’ll drop it on your’ed if you don’t hook it!’
‘But I want a dog,’ I cried.
‘I won’t be argued with!’ shouted Mr Sherman. ‘Now, stand clear; for when I say ‘’three’’, down goes the wiper.’
‘Mr Sherlock Holmes -‘ I began; but the words had a most magical effect, for the window instantly slammed down, and within a minute the door was unbarred and open. Mr Sherman was a lanky, lean old man, with stooping shoulders, a stringy neck and blue-tinted glasses.
‘A friend of Mr Sherlock Holmes is always welcome,’ said he. …

2012年ロンドンオリンピック / パラリンピックの際、
テムズ河沿い設置されたマスコット「ドクターウェンロック(Dpctor Wenlock)」−
近くにある「St. Thomas' Medical School」をテーマにしている

ホームズに頼まれて、犬のトビーを借りるために、ワトスンが向かったピンチンレーン(Pinchin Lane)は、コナン・ドイルの原作によると、ランベス地区(Lambeth)のテムズ河(River Thames)沿い近辺にあるようだが、現在の住所表記上、ランベス地区内を含めて、ピンチンレーンに該当する通りはなく、残念ながら、架空の住所である。

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