2017年6月18日日曜日

ロンドン デュークスロード / ウォバーンウォーク(Duke’s Road / Woburn Walk)

ミリセント・ペブマーシュが勤めるライト氏の写真館として撮影に使用された
デュークスロードとウォバーンウォークの角に建つ建物(その1)

アガサ・クリスティー作「複数の時計(The Clocks)」(1963年)は、エルキュール・ポワロシリーズの長編で、今回、ポワロは殺人事件の現場へは赴かず、また、殺人事件の容疑者や証人への尋問も直接は行わないで、ロンドンにある自分のフラットに居ながらにして(=完全な安楽椅子探偵として)、事件の謎を解決するのである。


キャサリン・マーティンデール(Miss Katherine Martindale)が所長を勤めるキャヴェンディッシュ秘書紹介所(Cavendish Secretarial Bureau)から派遣された速記タイピストのシーラ・ウェッブ(Sheila Webb)は、ウィルブラームクレッセント通り19番地(19 Wilbraham Crescent)へと急いでいた。シーラ・ウェッブが電話で指示された部屋(居間)へ入ると、彼女はそこで身なりの立派な男性の死体を発見する。男性の死体の周囲には、6つの時計が置かれており、そのうちの4つが何故か午後4時13分を指していた。鳩時計が午後3時を告げた時、ウィルブラームクレッセント19番地の住人で、目の不自由な女教師ミリセント・ペブマーシュ(Miss Millicent Pebmarsh)が帰宅する。自宅内の異変を感じたミリセント・ペブマーシュが男性の死体へと近づこうとした際、シーラ・ウェッブは悲鳴を上げながら、表へと飛び出した。そして、彼女は、ちょうどそこに通りかかった青年コリン・ラム(Colin Lamb)の腕の中に飛び込むことになった。
実は、コリン・ラム青年は、警察の公安部員(Special Branch agent)で、何者かに殺された同僚のポケット内にあったメモ用紙に書かれていた「M」という文字、「61」という数字、そして、「三日月」の絵から、ウィルブラームクレッセント19番地が何か関係して入るものと考え、付近を調査していたのである。「M」を逆さまにすると、「W」になり、「ウィルブラーム」の頭文字になる。「三日月」は「クレッセント」であり、「61」を逆さまにすると、「19」となる。3つを繋げると、「ウィルブラームクレッセント通り19番地」を意味する。

ミリセント・ペブマーシュが勤めるライト氏の写真館として撮影に使用された
デュークスロードとウォバーンウォークの角に建つ建物(その2)

クローディン警察署のディック・ハードキャッスル警部(Inspector Dick Hardcastle)が本事件を担当することになった。
シーラ・ウェッブは、ミリセント・ペブマーシュの家へ今までに一度も行ったことがないと言う。また、ミリセント・ペブマーシュは、キャヴェンディッシュ秘書紹介所に対して、シーラ・ウェッブを名指しで仕事を依頼する電話をかけた覚えはないと答える。更に、シーラ・ウェッブとミリセント・ペブマーシュの二人は、ウィルブラームクレッセント通り19番地の居間で死体となって発見された男性について、全く覚えがないと証言するのであった。
ミリセント・ペブマーシュの居間においてキッチンナイフで刺されて見つかった身元不明の死体は「R.・H・カリイ(R. H. Curry)」とされたが、スコットランドヤードの捜査の結果、全くの偽名であることが判明し、身元不明へと逆戻りする。彼が目の不自由な老婦人の居間で刺殺される理由について、スコットランドヤードも、そして、コリン・ラムも、皆目見当がつかなかった。途方に暮れたコリン・ラムは、ポワロに助けを求める。年若き友人からの頼みを受けて、ポワロの灰色の脳細胞が事件の真相を解き明かす。

キャサリン・マーティンデールが所長を務め、
シーラ・ウェッブやノーラ・ブレントが所属するキャヴェンディシュ秘書紹介所として
撮影に使用されたデュークスロード沿いに建つ建物(その1)

英国のTV会社 ITV1 で放映されたポワロシリーズ「Agatha Christie’s Poirot」の「複数の時計」(2011年)では、アガサ・クリスティーの原作が第二次世界大戦(1939年ー1945年)後の米ソ冷戦状態を物語の時代背景としたことに対して、他のシリーズ作品と同様に、第一次世界大戦(1914年ー1918年)と第二次世界大戦の間に物語の時代設定を置いている関係上、第二次世界大戦前夜を時代背景として、英国の仮想敵国を原作のソビエト連邦からアドルフ・ヒトラー率いるナチス・ドイツへと変更している。また、物語の舞台も、サセックス州(Sussex)のクロウディーン(Crowdean)からケント州(Kent)のドーヴァー(Dover)へと変更されている。更に、コリン・ラムの名前は、コリン・レイス大尉(Liteunant Colin Race)となり、警察の公安部員ではなく、MI6 の秘密情報部員(intelligence officer)という設定に変えられている。

キャサリン・マーティンデールが所長を務め、
シーラ・ウェッブやノーラ・ブレントが所属するキャヴェンディシュ秘書紹介所として
撮影に使用されたデュークスロード沿いに建つ建物(その2)

物語の舞台がサセックス州のクロウディーンからケント州のドーヴァーへと変更されたが、キャサリン・マーティンデールが所長を務め、シーラ・ウェッブが所属するキャヴェンディッシュ秘書紹介所は、ロンドンのデュークスロード(Duke’s Road)沿いに建つ西側の建物(ユーストンロード(Euston Road)の近く)を使用して撮影された。なお、TV版におけるキャヴェンディッシュ秘書紹介所の住所は、「Westport Parade, Dover」である。
また、アガサ・クリスティーの原作では、教師だった盲人のミリセント・ペブマーシュが勤めるライト氏(Mr. Wright)の写真館も、同じくデュークスロードとウォバーンウォーク(Woburn Walk)の角に建つ建物が撮影に使用されている。
ウィルブラームクレセント19番地の居間で死体として見つかった身元不明の男性に関する検死審問/死因審問(inquest)において、シーラ・ウェッブの同僚で、キャヴェンディッシュ秘書紹介所に勤めるノーラ・ブレント(Nora Brent → アガサ・クリスティーの原作では、エドナ・ブレント(Edna Brent))は、ある非常に重要なことに気付く。そのことを察知された犯人によって、彼女はキャヴェンディッシュ秘書紹介所の近くにある電話ボックス内で絞殺されてしまう。このシーンも、デュークスロードとウォバーンウォークの角に電話ボックスのセットを置いて撮影されている。ちなみに、アガサ・クリスティーの原作では、彼女は、キャヴェンディッシュ秘書紹介所の近くにある電話ボックスではなく、ウィルブラームクレセントにある電話ボックス内で、彼女自身のスカーフを用いて、犯人に考察されている。

ユーストンロード側から見たデュークスロードー
ノーラ・ブレントが絞殺された電話ボックスは。
画面中央奥に設置された

デュークスロード / ウォバーンウォークは、ロンドン・カムデン区(London Borough of Camden)のセントパンクラス地区(St. Pancras)内にある。
キングスクロス駅(King’s Cross Station) / セントパンクラス駅(St. Pancras Station)の前を通って、ユーストン駅(Euston Station)へ向かって西に延びるユーストンロードを、ユーストン駅の手前で左へ曲がったところにあるのが、デュークスロードである。地下鉄ホルボーン駅(Holborn Tube Station)からユーストン駅へ向かって北上するアッパーウォバーンプイレス(Upper Woburn Place)とその一本東側に位置しているデュークスロードを東西に繋ぐ歩行者専用の通りが、ウォバーンウォークである。
この辺りには、オフィスやレストラン等もあるが、日中でもひっそりとした静かな通りである。

デュークスロードから見たユーストンロード(画面奥)ー
画面左手に見えるのは、St. Pancras Parish Church

なお、TV版ポワロシリーズの「エッジウェア卿の死(Lord Edgware Dies)」(2000年)の回において、米国からロンドン / パリ公演ツアーに来ている女芸人カーロッタ・アダムズ(Carlotta Adams)の友人であるペニー・ドライヴァー(Penny Driver)が営む帽子店の撮影も、デュークスロードで行われている(2016年5月8日付ブログで紹介済)。

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