2015年8月9日日曜日

ロンドン カーターレーン53-55番地(53-55 Carter Lane)

リュックサック等の旅行用鞄を販売する店として撮影に使用された
カーターレーン53−55番地の全景

アガサ・クリスティー作「ヒッコリーロードの殺人(Hickory, Dickory, Dock)」(1955年)は、有能な秘書フェリシティー・レモン(Miss Felicity Lemon)がタイプした手紙に、エルキュール・ポワロが誤字を3つも見つけるところから始まる。ポワロがミス・レモンに尋ねると、彼女のタイプミスの原因が、彼女の姉で、今はヒッコリーロード26番地(26 Hickory Road)にある学生寮で寮母をしている未亡人のハバード夫人(Mrs. Hubbard)から彼女が相談を受けていたたためであることが判明する。



ミス・レモンによると、姉のハバード夫人が寮母を務めている学生寮では、非常に奇妙なことが連続して発生していたのである。夜会靴、ブレスレット、聴診器、電球、古いフランネルのズボン、チョコレートが入った箱、硼酸の粉末、浴用塩、料理の本やダイヤモンドの指輪(後に、食事中のスープ皿の中から見つかった)等、全く関連性がないものが次々と紛失していた。更に、それに加えて、ズタズタに切り裂かれた絹のスカーフ、切り刻まれたリュックサック、そして、緑のインクで台無しになった学校のノート等が見つかり、盗難行為だけではなく、野蛮かつ不可解な行為も横行していたのだ。

(1)画面右手前がセントポールズチャーチヤード通り10番地(裏側)の荷物搬入口で、
地下鉄ヒッコリーロード駅として、(2)画面右手奥がカーターレーン36番地で、
学生寮(ヒッコリーロード26番地)として、撮影にそれぞれ使用された。
そして、(3)画面左手奥にカーターレーン53−55番地がある。

ここのところ、興味を引く事件がなくて退屈気味だったポワロは、これ以上、ミス・レモンのタイプミスが続くことを避けるべく、彼女への手助けを申し出る。ポワロは、まずハバード夫人に自分の事務所に来てもらい、更に詳しい事情を尋ねるとともに、学生寮に現在住んでいる学生達の情報についても、彼女からヒアリングする。ポワロの灰色の脳細胞が、一見平和そうに見える学生寮の内で何か良からぬ企みが秘かに進行していると彼に告げる。そこで、ポワロはハバード夫人と再度話をして、学生寮に住む面々に犯罪捜査にかかる講演を行うという名目で、ヒッコリーロード26番地を訪ねることに決めた。
何ら脈絡がないと思えた盗難事件であったが、学生寮内での恐ろしい連続殺人事件へと発展するのであった。

カーターレーンの西側から見た
カーターレーン53−55番地の建物前面

英国のTV会社 ITV1 が放映したポワロシリーズ「Agatha Christie's Poirot」の「ヒッコリーロードの殺人」(1995年)の回では、ヒッコリーロード26番地にある学生寮の経営者であるクリスティーナ・二コレティス(Mrs Christina Nicoletis)がダイヤモンド密輸犯の首謀者の一人であり、通りを挟んだ学生寮の右斜め前で、リュックサック等の旅行用鞄を販売する店も営んでいる。その店には、二コレティス夫人の共犯者であるジョルジョス(Giorgios)がアシスタントとして勤めていた。ポワロが後に真相を明らかにするが、ダイヤモンド密輸に関して、この店で販売されているリュックサックが非常に重要な役割を果たすとともに、リュックサック内側の縫い目が連続殺人事件の真犯人を指し示す大事な証拠にもなるのである。

アドルヒル通りから見た
カーターレーン53−55番地の側面—
奥に見えるのが、学生寮として撮影に使用された
カーターレーン36番地

ポワロシリーズの撮影は、ロンドン・シティー(City)内のカーターレーン(Carter Lane)で行われた。
セントポール大聖堂(St. Paul's Cathedral)の南側を通るセントポールズチャーチヤード通り(St. Paul's Churchyard)からテムズ河(River Thames)方面へ一本南に下ったところに、カーターレーンがセントポールズチャーチヤード通りと並行して東西に延びている。
セントポールズチャーチヤード通りから南へ下って延びているディーンズコート通り(Dean's Court)とカーターレーンがぶつかった北西の角(カーターレーン36番地)に、学生寮として撮影された建物があり、現在は「YHA London St. Paul's」というユースホステルが営業している。

カーターレーン53−55番地の入口は、現在、
カーターレーンとアドルヒル通りが交差した角にある

このユースホステル入口の右斜め前の建物が、二コレティス夫人が経営し、リュックサック等の旅行用鞄を販売する店として撮影に使われた場所である。
TVドラマのシーンで、ある容疑者を連行するため、ジャップ主任警部(Chief Inspector Japp)が率いるスコットランドヤードの面々が学生寮乃前に車を乗りつける。やや遅れて、カーターレーンへタクシーで彼らを追って来たポワロは、彼らの行動に加わることもなく、学生寮の向かいにある店に入り、甥へのプレゼントという名目で、リュックサックを購入する。

画面での位置関係から判断すると、カーターレーン53-55番地の建物がそれに該当すると思われる。カーターレーン53-55番地では、現在、ベーカリー兼軽食屋が営業している。20年前の撮影時には、ポワロはカーターレーンに面した入口から店の中に入っているが、今は、カーターレーンに直接面した入口はなく、カーターレーンとアドルヒル通り(Addle Hill)が交差する角に、入口が設けられている。

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