2015年8月2日日曜日

ロンドン カーターレーン36番地(36 Carter Lane)―ヒッコリーロード26番地(26 Hickory Road)

学生寮(ヒッコリーロード26番地)として撮影に使用された
カーターレーン36番地の建物

アガサ・クリスティー作「ヒッコリーロードの殺人(Hickory, Dickory, Dock)」(1955年)は、有能な秘書フェリシティー・レモン(Miss Felicity Lemon)がタイプした手紙に、エルキュール・ポワロが誤字を3つも見つけるところから始まる。ポワロがミス・レモンに尋ねると、彼女のタイプミスの原因が、彼女の姉で、今はヒッコリーロード26番地(26 Hickory Road)にある学生寮で寮母をしている未亡人のハバード夫人(Mrs. Hubbard)から彼女が相談を受けていたたためであることが判明する。


ミス・レモンによると、姉のハバード夫人が寮母を務めている学生寮では、非常に奇妙なことが連続して発生していたのである。夜会靴、ブレスレット、聴診器、電球、古いフランネルのズボン、チョコレートが入った箱、硼酸の粉末、浴用塩、料理の本やダイヤモンドの指輪(後に、食事中のスープ皿の中から見つかった)等、全く関連性がないものが次々と紛失していた。更に、それに加えて、ズタズタに切り裂かれた絹のスカーフ、切り刻まれたリュックサック、そして、緑のインクで台無しになった学校のノート等が見つかり、盗難行為だけではなく、野蛮かつ不可解な行為も横行していたのだ。

カーターレーン36番地の正面外観—
現在、ユースホステルが営業している

ここのところ、興味を引く事件がなくて退屈気味だったポワロは、これ以上、ミス・レモンのタイプミスが続くことを避けるべく、彼女への手助けを申し出る。ポワロは、まずハバード夫人に自分の事務所に来てもらい、更に詳しい事情を尋ねるとともに、学生寮に現在住んでいる学生達の情報についても、彼女からヒアリングする。ポワロの灰色の脳細胞が、一見平和そうに見える学生寮の内で何か良からぬ企みが秘かに進行していると彼に告げる。そこで、ポワロはハバード夫人と再度話をして、学生寮に住む面々に犯罪捜査にかかる講演を行うという名目で、ヒッコリーロード26番地を訪ねることに決めた。
何ら脈絡がないと思えた盗難事件であったが、学生寮内での恐ろしい連続殺人事件へと発展するのであった。

セントポールズチャーチヤード通り側から見た
カーターレーン36番地の建物

残念ながら、ヒッコリーロード26番地は架空の住所であり、ロンドン市内には実在していない。英国のTV会社 ITV1 が放映したポワロシリーズ「Agatha Christie's Poirot」の「ヒッコリーロードの殺人」(1995年)の回では、シティー(City)内のカーターレーン(Carter Lane)にある建物を学生寮として、撮影が行われた。
セントポール大聖堂(St. Paul's Cathedral)の南側を通るセントポールズチャーチヤード通り(St. Paul's Churchyard)からテムズ河(River Thames)方面へ一本南に下ったところに、カーターレーンがセントポールズチャーチヤード通りと並行して東西に延びている。セントポールズチャーチヤード通りから南へ下って延びているディーンズコート通り(Dean's Court)とカーターレーンがぶつかった北西の角に、学生寮として撮影された建物があり、今も撮影当時の外観をそのまま残している。

ディーンズコート通り側に面した
カーターレーン36番地の裏側

この建物の住所は、「36 Carter Lane, London EC4V 5AB」。以前は、聖歌隊少年歌手のための学校であったが、現在は、「YHA London St. Paul's」というユースホステルが営業しており、シティー内の観光名所であるセントポール大聖堂、ロンドン博物館(Museum of London)やテムズ河南岸にある美術館テートモダン(Tate Modern)等に距離的に近いこともあって、若い観光客によく利用されている。

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