2019年10月5日土曜日

カーター・ディクスン作「白い僧院の殺人」(The White Priory Murders by Carter Dickson)–その2

ハミルトンプレイスの北側から南方面を見たところ

定期航路船ベレンガリア号でニューヨークからロンドンへとやって来た米国の外交官であるジェイムズ・ボイントン・ベネットであったが、米国大使館やホワイトホール地区(Whitehall → 2015年10月3日付ブログで紹介済)での用事は2時間程度で済んでしまい、あっという間に手持ち無沙汰になってしまった。


次の日の朝、女優のマーシャ・テイト(Marcia Tait)の元を訪ねるかどうか迷いながら、当てもなくピカデリーサーカス(Piccadilly Circus)を彷徨いていると、シャフツベリーアベニュー(Shaftsbury Avenue→2016年5月15日付ブログで紹介済)への入口で、ジェイムズ・ベネットは、シネアーツ社のロゴが入った黄色の派手な車に乗ったティム・エメリーに声をかけられた。ジェイムズ・ベネットを乗せたティム・エメリーの車は、ピカデリー通り(Piccadilly)を西へと向かい、ハイトパークコーナー(Hyde Park Corner)のところで、白い石造りのフラットの中庭へと滑り込んだ。
そこは、ロンドン西1区ハミルトンプレイス16番地Aのハートフォード荘で、マーシャ・テイトはその12号室に逗留していたのである。

ハミルトンプレイスの西側には、
Intercontinental Hotel が建っている(その1)
ハミルトンプレイスの西側には、
Intercontinental Hotel が建っている(その2)

ティム・エメリー、そして、ジェイムズ・ベネットの順に、12号室の客間に入ると、そこには、3人の男性が既に居た。
(1)マーシャ・テイトが主演する新作の芝居の製作担当であるジョン・ブーン
(2)マーシャ・テイトを連れ戻すべく、ハリウッドからやって来た映画監督のカール・レインジャー
(3)マーシャ・テイトと一緒に、新作の芝居に主演する俳優のジャーヴィス・ウィラード
の3人だった。
そして、室内は、剣呑な雰囲気に満ちており、マーシャ・テイトをめぐって、一触即発の状態だった。

ハミルトンプレイスの東側には、
Four Seasons Hotel London at Park Lane が建っている(その1)
ハミルトンプレイスの東側には、
Four Seasons Hotel London at Park Lane が建っている(その2)

ジョン・ブーンとカール・レインジャーが向かい合う間にあるテーブルの上には、茶色の包装紙が解かれた小包が置かれていた。中から、チョコレート入りの箱が見えていた。
カール・レインジャーは、「このチョコレートには、おかしなところがある。」と言う。疑問を呈する他の者に対して、カール・レインジャーは続けた。「マーシャ・テイトがハートフォード荘に逗留することは、新聞には載っておらず、知っていたのは、わずか数名に過ぎない。その上、チョコレートの箱は、彼女が居ない昨夜に届いた。チョコレートの箱を送って寄越したのは、見ず知らずの一ファンではなく、我々のうちの誰かだ!」と。
「ある種の警告なのでは?」と言うジャーヴィス・ウィラードに対して、ジョン・ブーンは「チョコレートに毒が入っていると言うのか?」と噛み付く。それを受けて、カール・レインジャーは、「それでは、一つ食べてみたらどうか?」とけしかけるのであった。カール・レインジャーの発言に、ジョン・ブーンは、「皆でチョコレートを一つずつ食べよう!」と応じた。



その場の雰囲気に流された5人は、箱からチョコレートを一つずつ取って、口に入れた。ちょうどその時、マーシャ・テイトが帰宅したので、ジョン・ブーンがチョコレートの箱を自分のコートの下に慌てて隠した。

皆で昼食をとったその場では、特に何も起こらなかったものの、その日の夕方(午後6時頃)、ジェイムズ・ベネットが宿泊しているホテルに、ジョン・ブーンから電話がかかり、サウスオードリーストリート(South Audley Street)にある病院へと呼び出されたのである。

ハミルトンプレイスの北側から南方面を望む

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