2019年7月14日日曜日

カーター・ディクスン作「貴婦人として死す」(She Died a Lady by Carter Dickson)–その1

東京創元社が発行する創元推理文庫「貴婦人として死す」の表紙−
    カバーイラスト:ヤマモト マサアキ氏
カバーデザイン:折原 若緒氏
  カバーフォーマット:本山 木犀氏

「貴婦人として死す」(She Died a Lady)」は、米国のペンシルヴェニア州(Pennsylvania)に出生して、英国人のクラリス・クルーヴス(Clarice Cleaves)との結婚後、1932年から1946年にかけて英国のブリストル(Bristol)に居を構えていた米国の推理作家で、「不可能犯罪の巨匠」とも呼ばれているジョン・ディクスン・カー(John Dickson Carr:1906年ー1977年)が、カーター・ディクスン(Carter Dickson)という別名義で1940年に発表した推理小説で、ヘンリー・メリヴェール卿(Sir Henry Merrivale)シリーズの長編第14作目に該る。米国では、1943年にモロー社(Morrow)から、そして、英国では、同年にハイネマン社(Heinemann)から出版された。

物語は、英国ノースデヴォン(North Devon)の海岸沿いにあるリンクーム村(Lyncombe)において医師をしているルーク・クロックスリー(Dr. Luke Croxley)による語りで始まる。
時は、1940年5月22日、第二次世界大戦(1939年ー1945年)の戦火が、ロンドンから遠く離れたリンクーム村にも近づき、ドイツ空軍機による空襲に備えて、村では夜間に灯火管制が敷かれるようになっている。年老いたルーク・クロックスリー医師は、自分では診療をもうあまりしておらず、息子のトム・クロックスリー医師(Dr. Tom Croxley)に医院の仕事を既にあらかた引き継いでいた。

ルーク・クロックスリー医師の旧友アレック・ウェインライト(Alec Wainwright)は、現在、60歳。以前は数学の教授をしていたが、今は引退して、リンクーム村から4マイル離れたところにある大きな山小屋風の一軒家「清閑荘(モン・ルポ - Mon Repos)」に、妻リタ・ウェインライト(Rita Wainwright)と二人で住んでいる。
「清閑荘」には、海方面からじめじめした強い海風が吹きつけるという難点はあったが、その代わりに、家から望む絶景をほしいままにしていた。「清閑荘」の裏庭は、崖っ縁まで続いており、その先には「恋人たちの身投げ岬(ラヴァーズ・リープ - Lovers' Leap)」というロマンティックな名前が付けられた断崖となっていて、その縁は海へと突き出していた。

アレック・ウェインライトがリタと結婚したのは、彼がカナダのマギル大学において教鞭を執っていた8年前だった。リタは、アレックより20歳以上も年下の上、非常に魅力的な女性で、8年前に彼らが結婚した際、何故、彼女が彼を伴侶に選んだのか、誰もが不思議がったのである。
人里離れた一軒家で平穏に暮らしていた二人であったが、残念ことに、リタ・ウェインライトは、米国から来た元俳優で、現在、ラウザー父子商会で自動車のセールスマンをしている若くてハンサムなバリー・サリヴァン(Barry Sullivan)と不倫の関係にあった。二人の不倫関係は、悪い噂として、リンクーム村中に既に知れ渡っていたが、知らないのは、リタの夫のアレックだけという状況だった。そんな中、リタ・ウェインライトは、夫アレックの旧友であるルーク・クロックスリー医師に対して、相談を持ちかけ、アレックと離婚したいと打ち明ける。

そんな不穏な空気が流れる同年6月29日土曜日の晩、「清閑荘」において、恐ろしい事件が発生するのであった。

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