2019年6月2日日曜日

カーター・ディクスン作「九人と死で十人だ」(Nine - and Death makes Ten by Carter Dickson)–その3

東京創元社が発行する創元推理文庫「九人と死で十人だ」の表紙−
    カバーイラスト:ヤマモト マサアキ氏
カバーデザイン:折原 若緒氏
  カバーフォーマット:本山 木犀氏

ジア・ベイ夫人の殺人現場は、ニューヨークから英国の某港へと航行するエドワーディック号(2万7千トン級)の船内、つまり、洋上であり、外部からの侵入はあり得なかった。そうなると、容疑者は限定されて、エドワーディック号の乗組員、あるいは、一般人の乗客8人のうちの誰かが犯人であることは、間違いなかった。その上、殺害現場には、犯人の明瞭な指紋が残されており、犯人の逮捕は時間の問題だと思われた。

エドワーディック号の船長であるフランシス・マシューズ海軍中佐の指示に基づいて、グリズワルド事務長が、彼のオフィス内にあった指紋採取用のインクローラーと小さな座席カードを使って、船内に居る全員の指紋を集めた。そして、ニューヨークの地方検事補であるジョン・E・ラスロップに協力を求め、グリズワルド事務長が集めた船内全員の指紋とジア・ベイ夫人の殺害現場に残されていた犯人の血染めの指紋との照合を依頼したのである。

翌1月21日の日曜日、船長のフランシス・マシューズ海軍中佐と彼の弟であるマックス・マシューズの二人は、C甲板にあるグリズワルド事務長のオフィスへと呼び出された。協力を求めたジョン・E・ラスロップによる指紋照合の結果が、遂に出たのだ。グリズワルド事務長のオフィスへと集まった二人に対して、ジョン・E・ラスロップは、驚くべき事実を告げる。ジア・ベイ夫人の殺害現場に残されていた二つの血染めの指紋は、左右の親指の指紋であったが、前日にグリズワルド事務長が集めた船内に居る全員の指紋を調べた結果、奇妙な事に、該当者は一人も居なかったのである。

信じ難い結果に頭を抱えた船長のフランシス・マシューズ海軍中佐は、陸軍省情報部長だったヘンリー・メリヴェール卿(Sir Henry Merrivale)に、今回の謎の解明を委ねることにした。乗客名簿に記載されていた残りの人物とは、ヘンリー・メリヴェール卿のことで、船長室の隣の船室に秘密裡に居たのである。

「九人と死で十人だ(Nine - and Death makes Ten)」(1940年)は、ジョン・ディクスン・カー(John Dickson Carr:1906年ー1977年) / カーター・ディクスン(Carter Dickson)がメイントリック一つのシンプルなストーリー構成で魅せた1940年代の作品に属しているが、本作品の評価については、「1940年代初期のカーの最上作の一つ」と非常に高く評価する側(ダグラス・G・グリーン→「ジョン・ディクスン・カー 奇跡を解く男」(1995年)の著者)とあまり評価しない側(松田道弘→「新カー問答」(1977年ー1978年)の著者)の二つに大きく分かれている。
個人的には、指紋トリックがそれ程とは思えず、同時期の代表作である「皇帝のかぎ煙草入れ(The Emperor’s Snuff-Box)」(1942年)と比べると、全体的に物足りない印象を受ける。

日本において、「九人と死で十人だ」は、1999年に国書刊行会から出版された以降、そのままになっていたが、2018年7月に創元推理文庫に収録された。

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