2019年6月26日水曜日

カーター・ディクスン作「かくして殺人へ」(And So to Murder by Carter Dickson)–その2

東京創元社が発行する創元推理文庫「かくして殺人へ」の表紙−
    カバーイラスト:ヤマモト マサアキ氏
カバーデザイン:折原 若緒氏
  カバーフォーマット:本山 木犀氏

嬉しさのあまり、有頂天となるモニカ・スタントンであったが、アルビオンフィルム社の敏腕プロデューサーであるトマス・ハケットが発した次の言葉を聞いて、それまでの喜びが一気に吹き飛んで、愕然としてしまった。
彼女は、自分が執筆した処女作「欲望」の脚本を書くのではなく、探偵小説家であるウィリアム・カートライトによる最新作「かくして殺人へ」の映画脚本を書くよう、指示されたのである。逆に、ウィリアム・カートライトが、彼女作「欲望」の映画脚本を書く段取りとなっていた。その上、モニカ・スタントンは、ウィリアム・カートライトから映画脚本のイロハをいろいろと教えてもらうことにもなっていたのである。

ちょうどその時、トマス・ハケットのオフィスのドアが乱暴に開くと、男性が入って来た。彼は、部屋を横切って、トマス・ハケットのデスクの横までやって来ると、小脇に抱えていた本をデスクの上に叩きつけた。それは、モニカ・スタントンが情熱を込めて自分のあらゆる夢を綴ったベストセラー小説の「欲望」だった。男性は、トマス・ハケットに対して、「欲望」の内容を酷評し、「この映画脚本は絶対にやらない!」と宣言する。その男性こそ、探偵小説家のウィリアム・カートライトだったのである。
モニカ・スタントンとウィリアム・カートライトの最初の出会いは、このように最悪だった。

まだわだかまりが残っていて、お互いにぎこちないながらも、ウィリアム・カートライトは、アルビオンフィルム社のスタジオへと、モニカ・スタントンを案内した。
スタジオ内では、現在、女優のフランシス・フルーアと俳優のディック・コンヤーズが主演する映画「海のスパイ」の撮影が、ハワード・フィスク監督の下、進められていた。フランシス・フルーアの2番目の夫であるクルト・フォン・ガーゲルンが助監督を務めている。

モニカ・スタントンとウィリアム・カートライトがやって来たスタジオでは、ちょうど問題が発生していた。
ベッド脇のテーブルの上に、小道具の水差しが置かれており、リハーサル中、監督のハワード・フィスクが出演者に演技指導をしていた際、誤ってテーブルにぶつかって、水差しをひっくり返してしまった。水差しはベッドの上に落ちて、シューシューという嫌な音をたて、ベッドカバー、シーツやマットレス等に、虫に食われたリンゴのように、大きな穴が開いたのである。水差しの中に入っていたのは、水ではなく、硫酸だったのである。ハワード・フィスクは、スタジオ内に、この映画製作を妨害しようとする破壊工作者が居ると断言した。

そんな不穏な空気が流れるスタジオ内の仕事場で、映画脚本の執筆を始めるモニカ・スタントンだが、何故か、何度も危険な目に遭うことになる。
映画用セット内において、送話管から顔に硫酸を浴びかけたり、銃撃を受けたりした上に、予告状も舞い込み、命の危険を感じるようになった。

義憤にかられたウィリアム・カートライトは、モニカ・スタントンの命をつけ狙う謎の人物から彼女を守るべく、知り合いの英国陸軍省情報部長であるヘンリー・メリヴェール卿(Sir Henry Merrivale)に助けを求めるのであった。

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