2017年8月26日土曜日

ロンドン ロチェスターロウ(Rochester Row)

ホームズ、ワトスンとモースタン嬢の3名が乗った馬車は、
北側(画面奥)から南側(画面手前)へと、ロチェスターロウを走り抜けたものと思われる

サー・アーサー・コナン・ドイル作「四つの署名(The Sign of the Four)」(1890年)では、若い女性メアリー・モースタン(Mary Morstan)がベーカーストリート221Bのシャーロック・ホームズの元を訪れて、風変わりな事件の調査依頼をする。


元英国陸軍インド派遣軍の大尉だった彼女の父親アーサー・モースタン(Captain Arthur Morstan)は、インドから英国に戻った10年前に、謎の失踪を遂げていた。彼はロンドンのランガムホテル(Langham Hotel→2014年7月6日付ブログで紹介済)に滞在していたが、娘のモースタン嬢が彼を訪ねると、身の回り品や荷物等を部屋に残したまま、姿を消しており、その後の消息が判らなかった。そして、6年前から年に1回、「未知の友」を名乗る正体不明の人物から彼女宛に大粒の真珠が送られてくるようになり、今回、その人物から面会を求める手紙が届いたのである。
彼女の依頼に応じて、ホームズとジョン・H・ワトスンの二人は彼女に同行して、待ち合わせ場所のライシアム劇場(Lyceum Theatreー2014年7月12日付ブログで紹介済)へ向かった。そして、ホームズ達一行は、そこで正体不明の人物によって手配された馬車に乗り込むのであった。

ヴォクスホールブリッジロードに近い
ロチェスターロウの南側

奇妙な状況だった。私達は、知らない用件で知らない場所へと、馬車に乗って向かっていた。私達が受けたこの招待は、全くの悪ふざけかーこれはありえない仮説だがーそれとも、私達が向かう先に重要なことが待ち構えていると考えるに足る十分な根拠があるのだろうか。モースタン嬢の態度は、それまでと同じように、決意を固めた落ち着いたものだった。私はアフガニスタンへ従軍した思い出話をして、彼女を元気付けたり、そして楽しませようと努めたが、正直に言うと、私は自分自身がこの状況に非常に興奮して、私達の行き先に興味津々だったため、私の思い出話は少しばかり混乱していた。今でも、彼女は、私が動揺してこんな話をしたと言うのだ。ー真夜中に、マスケット銃(旧式歩兵銃)が私のテントの中を覗き込んだため、私がマスケット銃に向けて、二重銃身の虎の子を発砲した、と。最初は、私達が乗った馬車がどの方面へ向かっているのか、私もある程度判っていたが、馬車の速度、霧やロンドンの地理に不案内であることから、直ぐに私は方向を見失ってしまい、非常に長い距離を進んでいるようだということを除くと、全く何も判らなくなった。一方、シャーロック・ホームズは決して方向を見失っておらず、私達が乗った馬車が広場を走り抜け、曲がりくねった通りを出たり入ったりする度、彼は通りの名前を呟いたのである。
「ロチェスターロウだ。」と、彼は言った。「次は、ヴィンセントスクエアだ。ちょうど今、ヴォクスホールブリッジロードに出たな。見たところ、僕達はサリー州方面へ向かっているようだ。そうだ。そうだと思ったよ。今、ヴォクスホール橋を渡っている。少しばかり、テムズ河の川面が見えるぞ。」

ロチェスターロウの中間辺り

The situation was a curious one. We were driving to an unknown place, on an unknown errand. Yet our invitation was either a complete hoax - which was an inconceivable hypothesis - or else we had good reason to think that important issues might hang upon our journey. Miss Morstan’s demeanour was as resolute and collected as ever. I endeavoured to cheer and amuse her by reminiscences of my adventure in Afghanistan; but, to tell the truth, I was myself so excited at our situation, and so curious as to our destination, that my stories were slightly involved. To this day she declares that I told her one moving anecdote as to how a musket looked into my tent at the dead of night, and how I fired a double-barreled tiger cub at it. At first I had some idea as to the direction in which we were driving; but soon, what with our pace, the fog, and my own limited knowledge of London, I lost my bearings, and knew nothing, save that we seemed to be going a very long way. Sherlock Holmes never at fault, however, and he muttered the names as the cab rattled through squares and in and out by tortuous by-streets.
‘Rochester Row,’ said he. ‘Now Vincent Square. Now we come out on the Vauxhall Bridge Road. We are making for the Surrey side, apparently. Yes. I thought so. Now we are on the bridge. You can catch glimpses of the river.’

ロチェスターロウの「Shepherds」は製本工房(bindery)で、
美術工芸製本および本の修復等を行なっている

ロチェスターロウロチェスターロウ(Rochester Row)は、ロンドンの中心部シティー・オブ・ウェストミンスター区(City of Westminster)のウェストミンスター地区(Westminster)内に所在している。
ロチェスターロウの南側は、ヴィクトリア駅(Victoria Stationー2015年6月13日付ブログで紹介済)からヴァヴォクスホールブリッジ(Vauxhall Bridge)まで延びるヴォクスホールブリッジロード(Vauxhall Bridge Road)から始まり、北側はセントアンドリュース・グレイコート病院(St. Andrews Grey Coat Hospital)の前にある環状交叉路 / ロータリー(round about)で終わる通りである。

ロチェスターロウの中間辺り(東側)には、
The Rochester Hotel が建っている

正体不明の人物が手配した馬車は、ホームズ達一行にどこへ向かおうとしているのか判らないように、ロンドン市内の曲がりくねった道を意図的に使った訳であるが、シティー・オブ・ウェストミンスター区のストランド地区(Strand)内にあるライシアム劇場の前で彼らを乗せた後、同区のウェストミンスター地区内にあるロチェスターロウまでかなり西へ移動し、ヴィンセントスクエア(Vincent Square)を抜けて、ヴォクスホールブリッジロードまで達すると、南東へ向かい、ヴォクスホールブリッジを渡っている。意図的とは言え、かなりの迂回ルートを取って、テムズ河を渡り、南方面へ向かっているのである。

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