2016年8月7日日曜日

ロンドン ロバートストリート3番地(3 Robert Street)

ロバートストリートをジョン・アダム ストリート(北側)から見たところ

アガサ・クリスティー作「黄色いアイリス(Yellow Iris)」は、1939年に刊行された短編集「レガッタデーの事件(The Regatta Mystery)」に収録されている短編の一つである。

エルキュール・ポワロの元に、女性の声で危機を訴える匿名の電話がかかってくるところから、物語の幕が上がる。女性に指定されたレストラン「白鳥の園」にポワロが急いで到着したが、肝心の女性の姿がその場にはなかった。唯一黄色いアイリスが置かれたテーブルがあり、気になったポワロがそのテーブル客達に話しかけると、4年前ニューヨークのレストランで青酸カリの入った飲み物で不審な死を遂げたアイリス・ラッセル(Iris Russell)を偲んでいると言う。そのテーブルには、以下の5人の客が居た。

(1)バートン・ラッセル(Barton Russell)ーアイリスの夫
(2)ポーリン・ウェザビー(Pauline Wetheby)ーアイリスの妹
(3)アンソニー・チャペル(Anthony Chapell)ーポーリンの婚約者
(4)スティーヴン・カーター(Stephen Carter)ー外務省で極秘事項に関係している噂の男
(5)ローラ・ヴァルデス(Lola Valdez)ーダンサー



皆、アイリスが衆人の面前で自殺をする理由で思い当たらないと、ポワロに告げる。ポワロがテーブル客達の話を聞いている間に、4年前と全く同じ状況下、ポーリンが青酸カリの入った飲み物を飲んで、アイリスと同様に、不審な死を遂げたのである。
ポワロの面前で発生した謎の不審死!果たして、4年前、そして、今回の事件は単なる自殺なのか?それとも、殺人なのか?ポワロの灰色の脳細胞が動き出すのであった。


ロバートストリートとジョン・アダム ストリートの角に建つ建物

英国のTV会社ITV1で放映されたポワロシリーズ「Agatha Christie's Poirot」の「黄色いアイリス」(1993年)の回において、物語の後半、ロンドンのジャーミンストリート(Jermyn Streetー2016年7月24日付ブログで紹介済)にルイジ・デ・モニコ(Luigi di Monico)が開店したレストラン「ル・ジャルダン・デ・シーニュ(Le Jardin des Cygnesー白鳥の園)」の前に、アルゼンチンのブエノスアイレスにあった同店で2年前に発生した事件(アイリス・ラッセルが不審死を遂げた事件)の関係者である5人(バートン・ラッセル、ポーリン・ウェザビー、アンソニー・チャペル、スティーヴン・カーターとローラ・ヴァルデス)が次々と到着する。
ストーリー上、同レストランはジャーミンストリート沿いに開店した設定になっているが、実際には、事件の関係者達がレストランに到着する場面は、ロバートストリート(Robert Street)を使用して撮影されている。「3番地」を示す表示が入口のドアにあるのが、画面上に映る。


ロバートストリートの東側に、ニューアデルフィビルが建っている

ロバートストリートは、ロンドンの中心部シティー・オブ・ウェストミンスター区(City of Westminster)のストランド地区(Strand)内にある。(1)トラファルガースクエア(Trafalgar Square)からシティー(City)へ向かって東に延びるストランド通り(Strand→2015年3月29日付ブログで紹介済)と(2)テムズ河(River Thames)沿いに設けられたヴィクトリアエンバンクメントガーデンズ(Victoria Embankment Gardens)の間に挟まれた「アデルフィ(Adelphi)」という一画にロバートストリートはあり、北側はジョン・アダム ストリート(John Adam Street)から始まり、南側はアデルフィテラス(Adelphi Terrace)で終わる約50mの短い通りである。


ロバートストリート沿いにある
ニューアデルフィビルの入口
ロバートストリートの東側には、2016年1月10日付ブログで紹介済のニューアデルフィビル(New Adelphi Building)が建っている。


ニューアデルフィビルのロバートストリート沿いの
外壁装飾(その1)―グラスゴー
外壁装飾(その2)―ベルファスト
外壁装飾(その3)―エディンバラ

1768年から1772年にかけて、スコットランド出身の建築家ウィリアム・アダム(William Adam:1689年ー1748年)の息子達、所謂、アダム兄弟(Adam brothers)と言われる
・長男ージョン・アダム(John Adam:1721年ー1792年)
・次男ーロバート・アダム(Robert Adam:1728年ー1792年)
・三男ージェイムズ・アダム(James Adam:1732年ー1794年)
によって、この一画に新古典主義の集合住宅(テラスハウス)が24棟建設された。英語の「brothers(兄弟)」を意味するギリシア語「adelphi」をベースにして、この一画は「アデルフィ」と呼ばれるようになった。また、この一画を囲む北側の通りは「ジョン・アダム ストリート」、東側の通りは「アダム ストリート(Adam Street)」、南側の通りは「アデルフィテラス(Adelphi Terrace)」、そして、西側の通りは「ロバート ストリート」と、アダム兄弟の名前に因んで名付けられている。


外壁装飾(その4)―リヴァプール
外壁装飾(その5)―リーズ
外壁装飾(その6)―マンチェスター

1930年代初め頃、アダム兄弟が建てた集合住宅のほとんどが取り壊されて、その跡地にはコルカット&ハンプ(Collcutte & Hamp)という会社が設計したアールデコ風の建物「ニューアデルフィビル」が建設され、現在に至っている。今も、アダム兄弟が建てた集合住宅の一部は残っているが、アデルフィテラス側のわずかである。ニューアデルフィビルには、現在、アセット管理会社等が入居している。


集合住宅を建設したアダム兄弟の一人
ロバート・アダムは、この通りに住んでいた

TV版では、サヴォイプレイス(Savoy Place)から階段を登ったアデルフィテラス側からロバートストリートの左手側(西側)が撮影されており、画面上、右側(東側)に建つニューアデルフィビルは映らない考慮がされている。

レストラン「白鳥の園」の撮影に使用されたと思われる
ロバートストリート3番地―
現在、棟全体が改装工事中

ロバートストリート3番地には、「Chartered Institute of Public Finance & Accountancy (= CIPFA)」が入居していたが、3番地を含むロバートストリート西側の棟は、外壁・内装ともに、改装工事中で、現状、入居者はいない模様である。


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