2015年9月6日日曜日

ロンドン ブロンプトン墓地(Brompton Cemetery)

ポワロシリーズ「ヒッコリーロードの殺人」の回で、
著名な政治家サー・アーサー・スタンリーの葬儀の場面が撮影された礼拝堂

アガサ・クリスティー作「ヒッコリーロードの殺人(Hickory, Dickory, Dock)」(1955年)は、有能な秘書フェリシティー・レモン(Miss Felicity Lemon)がタイプした手紙に、エルキュール・ポワロが誤字を3つも見つけるところから始まる。ポワロがミス・レモンに尋ねると、彼女のタイプミスの原因が、彼女の姉で、今はヒッコリーロード26番地(26 Hickory Road)にある学生寮で寮母をしている未亡人のハバード夫人(Mrs. Hubbard)から彼女が相談を受けていたたためであることが判明する。


ミス・レモンによると、姉のハバード夫人が寮母を務めている学生寮では、非常に奇妙なことが連続して発生していたのである。夜会靴、ブレスレット、聴診器、電球、古いフランネルのズボン、チョコレートが入った箱、硼酸の粉末、浴用塩、料理の本やダイヤモンドの指輪(後に、食事中のスープ皿の中から見つかった)等、全く関連性がないものが次々と紛失していた。更に、それに加えて、ズタズタに切り裂かれた絹のスカーフ、切り刻まれたリュックサック、そして、緑のインクで台無しになった学校のノート等が見つかり、盗難行為だけではなく、野蛮かつ不可解な行為も横行していたのだ。

オールドブロンプトンロードに面したブロンプトン墓地の入口

墓地入口に建つ門の壁に架けられている墓地内案内図

ここのところ、興味を引く事件がなくて退屈気味だったポワロは、これ以上、ミス・レモンのタイプミスが続くことを避けるべく、彼女への手助けを申し出る。ポワロは、まずハバード夫人に自分の事務所に来てもらい、更に詳しい事情を尋ねるとともに、学生寮に現在住んでいる学生達の情報についても、彼女からヒアリングする。ポワロの灰色の脳細胞が、一見平和そうに見える学生寮の内で何か良からぬ企みが秘かに進行していると彼に告げる。そこで、ポワロはハバード夫人と再度話をして、学生寮に住む面々に犯罪捜査にかかる講演を行うという名目で、ヒッコリーロード26番地を訪ねることに決めた。
何ら脈絡がないと思えた盗難事件であったが、学生寮内での恐ろしい連続殺人事件へと発展するのであった。

入口から礼拝堂へ向かって真っ直ぐな中央道が延びている


英国のTV会社 ITV1 が放映したポワロシリーズ「Agatha Christie's Poirot」の「ヒッコリーロードの殺人」(1995年)の回では、物語の最後に、著名な政治家であるサー・アーサー・スタンリー(Sir Arthur Stanley)の葬儀が行われる。葬儀には、ポワロ、ミス・レモン、ハバード夫人やジャップ主任警部等、そして、スタンリー卿の子供で、かつ、一連の事件の犯人も出席する。この葬儀の場面として、プロンプトン墓地(Brompton Cemetery)が撮影に使用されている。


中央道をしばらく進むと、先に礼拝堂がやっと見えてくる

ブロンプトン墓地は、ケンジントン&チェルシー王立区(Royal Borough of Kensington and Chelsea)のウェストブロンプトン地区(West Brompton)内にあり、地下鉄サウスケンジントン駅(South Kensington Tube Station)方面から南西に向かって延びるオールドブロンプトンロード(Old Brompton Road)とフラムロード(Fulham Road)に挟まれた広大な墓地である。上記の2つの通りの間に北西から南東に長方形に広がる16ヘクタールに及ぶ面積を誇り、メインゲートは北側のオールドブロンプトンロードに、もう一つのゲートが南側のフラムロードに面している。オールドブロンプトンロード側のメインゲートからフラムロード寄りに位置している円形の礼拝堂まで真っ直ぐな中央道が延びている。ポワロシリーズの「ヒッコリーロードの殺人」の回では、この礼拝堂の前で、物語の最後の場面が撮影されている。



ブロンプトン墓地は、ケンジントン卿(Lord Kensington)から購入した土地をベースに、ベンジャミン・バウド(Benjamin Baud:1807年ー1875年)によって設計され、1840年にオープンした。ブロンプトン墓地は、当初、「ウェスト・オブ・ロンドン&ウェストミンスター墓地(West of London and Westminster Cemetery)」と呼ばれていた。
ブロンプトン墓地は、ロンドン市内を囲むように設置された7大墓地(Magnificent Seven)の一つで、ロンドン市内にある各教会の狭い墓地だけでは死者の埋葬に対処できなくなったこと、それに加え、市民の健康面への影響等も考慮されて、当時、広大な墓地が次々と設置されたのである。1850年の法改正により、英国政府に墓地用の土地を収用する権限が付与されている。
ブロンプトン墓地は、現在、グレードⅡ(Grade Ⅱ)の指定を受け、保護されている。

サー・アーサー・スタンリーの葬儀場面の撮影は、
礼拝堂前で行われている


実際、ブロンプトン墓地は広大な場所で、内に入ると、ロンドン市内とは思えない程、静謐な空間が広がっている。ブロンプトン墓地の西側には、鉄道の線路を間にして、英国の人気サッカーチーム「チェルシーフットボールクラブ(Chelsea FC)」のホームグラウンドである「スタンフォードブリッジ(Stamford Bridge)」があり、墓地から望むことができる。サッカーの試合が開催される日には、かなりの歓声がここまで届き、死者の安らかな眠りの妨げになっているのかもしれない。

ブロンプトン墓地の向こう側に、
チェルシーフットボールクラブのホームグラウンドである
スタンフォードブリッジが見える

なお、ポワロシリーズの「ヒッコリーロードの殺人」の回で、サー・アーサー・スタンリーを演じたには、デイヴィッド・バーク(David Burke:1934年ー)で、英国グラナダTV制作「シャーロック・ホームズの冒険(The Adventures of Sherlock Holmes)」の第1シリーズと第2シリーズの計13作品において、彼はジョン・ワトスンをとして出演している。シャーロック・ホームズを演じたのは、もちろん、ジェレミー・ブレット(Jeremy Bret:1933年ー1995年)である。



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