2015年12月19日土曜日

ロンドン アルファイン(Alpha Inn)

「アルファイン」のモデルになったと一般に言われているパブ「ミュージアム・タバーン」

サー・アーサー・コナン・ドイル作「青いガーネット(The Blue Carbuncle)」では、クリスマスの早朝、宴席から帰る途中の退役軍人ピータースン(Peterson)が、トッテナムコートロード(Tottenham Court Road)とグッジストリート(Goodge Street)の角で発生した喧嘩の現場(→2014年12月27日付「ロンドン トッテナムコートロード/グッジストリート」を御参照)に残された帽子とガチョウを、ベーカーストリート221Bのシャーロック・ホームズの元に届けて来た。ホームズに言われて、ピータースンは拾ったガチョウを持って帰ったが、その餌袋の中から、ホテルコスモポリタン(Hotel Cosmopolitan)に滞在していたモーカー伯爵夫人(Countess of Morcar)の元から12月22日に盗まれて、懸賞金がかかっている「青いガーネット」が出てきたのだ。ホームズは早速新聞に広告を載せて、ガチョウの落とし主を捜したところ、ヘンリー・ベイカー氏(Mr Henry Baker)が名乗り出て来たのである。


「ところで、あのガチョウをどこで手に入れたのかを私に教えていただけないですか?私はちょっとした鳥の愛好家でして、あれよりよく育ったガチョウを見たことがほとんどなかったので...」
「もちろん、かまいませんよ。」と、ベイカー氏は立ち上がって、新しく受け取ったガチョウを脇の下に抱えて言った。「大英博物館の近くにあるアルファインへ、仲間達とよく飲みに行くんです。私達は昼間大英博物館で過ごしています。アルファインのウィンディゲートという気のいい主人が今年ガチョウクラブを始めました。それは、毎週数ペンスずつ積み立てていくと、各人クリスマスにガチョウを一羽ずつ受け取れるという仕組みです。私はきちんとお金を積み立てて、後はあなたも御存知の通りです。本当に有り難うございました。ベレー帽は、私の年齢にも、私の真面目な性格にも会わなかったようです。」今日に大げさな態度で、ベイカー氏は私達に向かい、真面目くさって御辞儀をすると、大股で歩き去ったのである。

グレートラッセルストリート越しに
「ミュージアム・タバーン」を望む

'By the way, would it bore you to tell me where you got the other one from? I am somewhat of a fowl fancier, and I have seldom seen a better grown goose.'
'Certainly, sir,' said Baker, who had risen and tucked his newly gained property under his arm. 'There are a few of us who frequent the Alpha Inn, near the Museum - we are to be found in the Museum itself during the day, you understand. This year our god host, Windigate by name, instituted a goose club, by which on consideration of some few pence every week, we were each to receive a bird at Christmas. My pence were duly paid, and the rest is familiar to you. I am much indebted to you, sir, for a Scotch bonnet is fitted neither to my years for my gravity.' With comical pomposity of manner he bowed solemnly to both of us and strode off upon his way.

グレートラッセルストリートと
ミュージアムストリートが交差する角から
見上げた「ミュージアム・タバーン」

その夜は身を刺す程の寒さだったので、私達はアルスター外套を羽織り、首巻きをした。外に出ると、雲一つない空に星々が冷たく輝き、通行人が吐く息が拳銃が発する煙のようだった。私達が歩き出すと、カツカツと大きな足音がした。私達は医者が集まっている地区であるウィンポールストリートとハーレーストリートを、更にウィグモアストリートを抜けて、オックスフォードストリートに至った。15分程すると、私達はブルームズベリー地区のアルファインに着いた。そこは、ホルボーンへと下るある通りの角にある小さなパブ(酒場)だった。ホームズはパブの扉を押し開けて、赤ら顔で白いエプロンをつけた主人にビールを二杯注文したのである。

「ミュージアム・タバーン」は大英博物館への観光客等で賑わっている

It was a bitter night, so we drew on our ulsters and wrapped cravats bout our throats. Outside, the stars were shining coldly in a cloudless sky, and the breath of the passers-by blew out into smoke like so many pistil shots. Our footfalls rang out crisply and loudly as we swung through the doctors' quarter, Wimpole Street and Harley Street, and so through Wigmore Street into Oxford Street. In a quarter of an hour we were in Bloomsbury at the Alpha Inn, which is a small public-house at the corner of one of the streets which runs down into Holborn. Holmes pushed open the door of the private bar and ordered two glasses of beer from the ruddy-faced, white-aproned landlord.

ミュージアム・ストリート越しに見た「ミュージアム・タバーン」

ホームズとジョン・ワトスンが訪れたブルームズベリー地区(Bloomsbury)にあるアルファイン(Alpha Inn)というパブは架空の酒場で、残念ながら、実在していない。ただし、大英博物館(British Museum)の正面入口近くにある「ミュージアム・タバーン(Museum Tavern)」というパブがアルファインのモデルだったのではないかと一般に言われている。
「ミュージアム・タバーン」は、大英博物館の前を通るグレートラッセルストリート(Great Russell Street)と、ハイホルボーン通り(High Holborn)から北上してくるミュージアムストリート(Museum Street)が交差した角に建つパブである。具体的な住所は、「49 Great Russell Street, Bloomsbury, London WC1B 3BA」となっている。

ミュージアムストリートの南側から
「ミュージアム・タバーン」を望む

「ミュージアム・タバーン」は、18世紀初期からここで既に営業していて、大英博物館がオープンするまでは「The Dog & Duck」と呼ばれていたが、1759年に大英博物館がオープンしたのに伴い、現在の名前に変更された。
ホームズシリーズの作者であるコナン・ドイルもこのパブの常連であったことが知られており、そのことから、彼がこの「ミュージアム・タバーン」をアルファインのモデルにしたものと考えられている。実際、コナン・ドイルの原作上、アルファインの場所に言及した部分があるが、「ミュージアム・タバーン」の位置は彼の原作にうまくマッチしている。

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