2015年3月15日日曜日

ロンドン サーペンタイン湖(The Serpentine)


サー・アーサー・コナン・ドイル作「独身の貴族(The Noble Bachelor)」(出版社によっては、「花婿失踪事件(A Case of Identity)」との対比から「花嫁失踪事件」と訳しているケースあり)において、1887年10月、ロバート・ウォルシンガム・ド・ヴェア・セント・サイモン卿(Lord Robert Walsingham de Vere St Simon)との結婚式の後、花嫁であるハティー・ドラン(Hatty Doran)が披露宴の席上、気分がすぐれないと言って自室に引き下がり、そのまま姿を消してしまったのである。セント・サイモン卿がベーカーストリート221Bのシャーロック・ホームズの元を訪れ、ドラン嬢の行方を捜してほしいと依頼する。


セント・サイモン卿の説明を一通り聞いただけで、ホームズは直ぐに事件の真相を見抜いてしまう。セント・サイモン卿が帰って、ホームズとジョン・ワトスンが話をしていると、そこにスコットランドヤードのレストレード警部(Inspector Lestrade)がやって来た。彼の服装は船員風で、手には黒いキャンパスバッグを携えていた。



「それで、どうしたんだい?」と、ホームズは目を輝かせながら尋ねた。「不満気な顔をしているね。」
「本当に困っているんですよ。例のいまいましいセント・サイモン卿の結婚事件のことです。この件は全て手も足も出ないんです。」
「そうなんだ!そりゃ驚いたね。」
「今までに、こんなに難しい事件があったでしょうか?あらゆる手掛かりが私の指の間からこぼれ落ちていくようです。私は一日中この事件にかかりっきりの状態ですよ。」
「君がびしょ濡れになっているのは、そのためかい?」と、ホームズはピーコート(厚地の短い外套)の腕のところに手を置きながら言った。
「ええ、私はずーっとサーペンタイン湖を浚っていたんです。」
「それは一体何のためにだい?」
「もちろん、それはセント・サイモン卿夫人の遺体を捜索するためですよ。」
シャーロック・ホームズは椅子にもたれかかって、心から快活に笑った。
「君はトラファルガースクエアの噴水の水盤をもうさらったのかい?」と、彼は尋ねた。
「何故ですか?どういうことですか?」
「君がセント・サイモン卿夫人の遺体を見つけ出す可能性は、どちらも同じ位ないからさ。」
レストレード警部は怒りに満ちた視線をホームズに向けた。「思うに、ホームズさん、あなたは全てが判っているみたいですね。」と、彼はうなった。
「セント・サイモン卿から事実関係を聞いたばかりだが、何もかも判ったよ。」
「本当ですか?それで、サーペンタイン湖はこの事件に全く関係ないと、あなたは考えているのですか?」
「関係ないと思っているさ。」



'What's up, then ?' asked Holmes with a twinkle in his eyes. 'You look dissatisfied.'
'And I feel dissatisfied. It is this infernal St Simon marriage case. I can make neither head nor tail of the business.'
'Really ! You surprise me.'
'Who ever heard of such a mixed affair ? Every clue seems to slip through my fingers. I have been at work upon it all day.'
'And very wet it seems to have made you,' said Holmes laying his hand upon the arm of the pea-jacket.
'Yes, I have been dragging the Serpentine.'
'In heaven's name, what for ?'
'In search of the body of Lady St Simon.'
Sherlock Holmes leaned back in his chair and laughed heartily.
'Have you dragged the basin of Trafalgar Square fountain ?' he asked.
'Why ? What do you mean ?'
'Because you have just as good a chance of finding this lady in the one as in the other.'
Lestrade shot an angry glance at my companion. 'I suppose you know all about it,' he snarled.
'Well, I have only just heard the facts, but my mind is made up.'
'Oh, indeed ! Then you think that the Serpentine plays no part in the matter ?'
'I think it very unlikely.'



レストレード警部がセント・サイモン卿夫人の遺体を捜索するためにさらっていたサーペンタイン湖(The Serpentine)は、ハイドパーク(Hyde Park)とケンジントンガーデンズ(Kensington Gardens)を二つに分けている湖である。
ハノーヴァー朝のジョージ2世(George Ⅱ:1683年ー1760年)の妃であるキャロライン王妃(Queen Caroline:1683年ー1717年)は、学問や芸術に加え、造園にも造詣が深く、彼女の指示でハイドパーク内にサーペンタイン湖が設けられた。1730年に工事が始まり、湖が完成したのは、1733年である。
サーペンタイン湖ができるまでは、公園内一帯をハイドパークと呼んでいたが、湖が設けられたことに伴い、公園の東側をハイドパークに、そして、公園の西側をケンジントンガーデンズとして正式に分けるようになった。また、1826年に湖の途中にサーペンタイン橋(Serpentine Bridge)が架けられたことに伴い、北側の湖をロングウォーター(Long Water)、そして、南側の湖をサーペンタイン湖として分けて呼ぶようになった。


2012年に開催されたロンドンオリンピックにおいて、サーペンタイン湖は男女トライアスロン(水泳)の会場として使用された。
夏になると、サーペンタイン湖上には多くのボートがくり出して、ロンドンの夏の風物詩の一つとなっている。
1864年に発足したサーペンタイン水泳クラブ(Serpentine Swimming Club)があり、毎年クリスマス(12月25日)の早朝、寒中水泳大会が行われている。この大会は、「ピーターパンカップ(Peter Pan Cup)」と呼ばれている。

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